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私はミーコ

 私は大山町の鈴木さんの家に住む雌猫、名前はミーコです。生まれて捨てられた私を拾ってくれたのは、まだ学生であった「ふみ」さんと聞いています。もう15年も前くらいになりますが、ふみさんの家には猫がいたことで、隣に住む鈴木のおばあちゃんの家に引き取られました。ところが間もなく次郎というオスの猫がきて、仲間というべきか、ができまして、それから楽しい日々になりました。  

 次郎は私と違って外には出掛ける、木には素早く登る、食べることも早く何度か私の分を平らげられました。可哀想なことに外に出たとき車に跳ねられたらしく、その傷ついた体で家の車庫にまで帰ってきて息を引き取ったようです。犬は人に、猫は家に という言葉があるそうですが、次郎はそれが本当であったことを示してくれました。  

 この家には時々お客様がお見えになりますが、その中のある方が「この家は鯉も大きいが猫も立派だね」と言われました。鯉と一緒にされたのは面白くありませんが、「大きい」と驚かれることはよくあります。頭から尻尾までなら65センチはあるでしょうか、そして目方も6キロはあると思います。ですからもう外に出ても駆け回ることは出来ませんし、木登りは勿論駄目、恥ずかしいことですが、50センチの高さに飛びつくことも出来ないのです。足がやっと身体を支えてくれているのですから、一日のうち座ったり横になったり眠ったりしているのが殆んどです。一体では何を食べているの、といわれますが、専ら削り節と猫のための飼料、おばあちゃんはこれをカリカリと呼んでいますが、それだけです。人様の食べるもの、それが焼きたてのお魚であっても欲しくなったことがありません。  

 もう一つお客さんを驚かせるのは、私の鼾です。自分で聞いたことは勿論ありませんが、「あれ何の声?」と訊かれるとおばあちゃんは「ミーコの鼾」と答えますから、これまた吃驚、それも可なり大きな鼾らしくよく聞こえるのだそうです。言われてみれば、猫が鼾をかくことなどご存知ない方が多いと思います。  

 私はもう老猫、それはよく判っているのですが、10年以上も育てて下さった方、拾ってくださった「ふみちゃん」をはじめ皆様に、何と御礼を申し上げたらよいのか判りませんが、これからも自分のペースで食べたり、眠ったり、好きなようにさせて頂く積もりです。もし私が今までと違ったことをすれば、きっとおばぁちゃんは「この子変じゃない」と言われることでしょう。
(2006.6.18)