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仏 像 展  

 国宝クラスの一本彫りの仏像が上野の国立博物館で数多く見られるというので、私は柄にもなく出掛けた。11月末の寒い曇天の日であったが、この日を逃すともう二度と見られないかも、との思いで上野駅で降りた。駅から博物館まで冷たい風の中を歩いていくと、同じ方向に歩む人が実に多い、そんなに人気があるのかとここで早くも驚いた。  

 この日は十一面観音菩薩立像が中心の展示で、そこから拝観したのだが、先ず目にしたのは高さが30センチほどのもの、それだけにその彫刻の細かいこと、しかもその作品が作られたのは7世紀から9世紀、1200年以上も前なのにその侭残っているのには感心してしまったが、じっと見詰めていると自然と手を合わせたくなる、これは自分でも不思議であった。  

 次の展示室に入ると今度は2メートル以上の一本彫りの立像があり、これは見事なものであった。27もの像があり、何れも1200年以上の昔に作られたものばかり、その内4像が国宝,他はすべて重要文化財の指定を受けている。全国の社寺にあるものがここに集められたのであるから、人気がでるのも当然だが、私は夫々の像があるべき場にあってこそ尊ばれると思ったが、全部で65もの像をたった1日で拝観できるのも、現代があってのこととも思った。

 一つ気付いたことがある。それはどの像も上を見上げていないこと、仏像というのは我々を少し高い所から見守って下さっているから、真正面に立って拝観すると、目は合わない。それだから佛様の慈愛を観ずるのかもしれない。じっと見詰められたら私など縮み上がるに違いない。

 最後に円空と木喰(きじき)の作品が23程あったが、これらは200年から300年くらい前のもので、このお二人は旅の先々で彫られていたようで、短い時間で作られたようだが何れも味わいのある像であった。

 もう一つ思ったことは、意外と若い人が多かったこと、拝観料は1500円が高いか安いかは別にして、熱心に見ている姿は嬉しかった。全部の拝観は人混みのなか1時間半を要したが、終ったらいっぺんに疲れが出てきた。館内では矢張り緊張していたのだろう。何処かで休もうとしても座るところはお年寄りで満席、皆さんもお疲れになったようだ。
(2006.12.1)