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日本私立大学連盟主催の監事会議

 2001年に日本私立大学連盟は新しく監事会議を創設した。
 
私は青山学院の監事に選任されて、もう20年になる。就任以来毎月の学院の理事会に出席し、毎年5月の評議員会で年度の決算報告があるが、それについての監査報告をする、これが主たる仕事であった。これらの会議は概ね夜であったから、会社の仕事に影響されることも少なく、勤めることが出来た。つまり監事には日常決められた業務もなければ、その責任の所在も明確でなかった。しかし法律では学校法人に2名以上の監事を置くことが定められているから、学院もそれに従っているわけであるが、一言で言えば決められた仕事は少なく、また責任もないに等しいと思った程である。 

私学は、文部科学省から助成金を受けているので、官庁の監督は厳しい筈である。ところがバブルの崩壊と少子化の影響で、学校財政は一転して将来に不安を持つ事になり、募集定員の学生すら確保できない大学が出てくるようになった。私学にはワンマン経営や同族経営もまだあり、入学の際の不正な寄付金などの問題が生じ、こうした不祥事から監事の立場がクローズアップされることになった。俄かに今までのように安閑としていられる立場では済まされないことになってきた。恐らくそのような情勢の変化が引き金になって、監事会議が始められることになったと察している。そして私は何故か判らないが、その会議の運営委員に指名されてしまったのである。

 そう言っては申し訳ないのかも知れないが、監督官庁も監事の存在に今まで余り重きを置いていなかったのではないか。企業には監査役があるが、最近その重要性を認めて、その任期を4年に改正したり、また監査法人の監査を義務付けたりの改善が進められたのに、学校法人の監事については忘れられていたように思われる。

 大学には会計学の教授がおられるから、いろいろな事態に対しての、監事の使命とか責任は、どうあるべきかを考えるには困らないけれど、これは財政上の問題に対してのみで、理事者の不正行為には及ばない。このような問題が大学の存亡に関わるとしたら、監事は経理面のみに目を光らせているわけには行かないことになる。仮に不正問題が告発されたとき、監事にその責任が問われることはないのか。その保証はないのだから、このように進んでいくと、今までの監事はその本来の仕事をしていなかった、との反省が生まれてきた。監事会議が創設されるに至ったのは時代の変化に伴って、大学の置かれていた環境の変化からではないかと思う。

 しかし各大学にはそれぞれの歴史もあれば特色もあるし、今まで監事について深刻に考えたことは恐らくなかったであろう。もし監事が大学経営にとって重要な存在と思っていたならば、監事の常勤化は進められていた筈である。これは驚くことかも知れないが、大学監事の多くはその学校に勤務した人でなく、卒業生とか所謂学識経験者で占められ、その中には全く報酬を受けていない監事もおられるのである。このことだけでも大学が監事をどのように見ているかを端的に物語っているように思う。つまり大部分の大学の認識はこのようなことなのである。

 私も学校側からみれば学外者で、財務についての理解が多少できる程度であり、学校経営の核心に触れる論議については理事会任せで通してきた。その問題が監事会議で取り上げられることになり、しかもその運営委員になると、大学の現実と監事会議の中での話との格差が余りにも大きく、時には監事会議の内容を、現在の大学に近付けるためにはどのような手段、手続きが必要なのかで頭を悩ますことにもなったりした。しかも大学を取り巻く環境は厳しくなる一方で、一例を挙げれば国公立大学の独立法人化が2004年の4月から始まることが挙げられる。私立大学が国立大学と競合することになるのである。自分たちの大学は果たして大丈夫なのか、私学の監事は万一に備えて安閑としていることが次第に許されなくなっている。

 ここで監事会議ではどのような課題で開催されているのかを説明しておきたい。過去3回開催され、第1回は平成13年8月27日から29日まで、下田東急ホテルで行われた。この年の討議課題は「ユニバーシティ・ガバナンスの確立」で、討議の柱は監事の職務、 監事の選任方法、監事監査であった。初めての会議なので講演と事例報告がまずあり、それに各大学からのアンケートの結果報告が行われた。この段階で、求められている監事の在り方と現実の差がはっきりしたように思う。この会議の特色としてグループ討議があり、各大学からの発言を聞くと、学校間の格差もまた大きいことを痛切に感じた。しかし第1回のことでもあり、監事は大学にとって本来重要な存在であることが、参加者に判って貰えただけでも、この会議を開催した意義は大きかった。

 第2回は京都の宝ヶ池プリンスホテルで平成14年8月25日から27日まで行われた。討議課題は「ユニバーシティ・ガバナンスの確立」と前年と同じであったが、討議の柱は 監事監査マニュアル 監事の在り方 となった。しかしまだ地に足がついたとは言い難い印象を持った。検討課題としたユニバーシティ・ガバナンスについて委員長の藤田氏が話しをされ、2日目には奥島会長も同じテーマで講演された。私立大学における経営のガバナンス、研究、教育に対するガバナンスの大切さを説かれた内容であったが、ガバナンスという学校ではこれまで余り耳にしない言葉がでて、戸惑った参加者もあったと思う。ガバナンスとは一口でいうなれば大学経営の監視、監督のことと理解すれば、この監事会議には相応しいテーマなのである。

 討議の柱は前年に比べると具体的になってきた。これをこの年で討議するために、運営委員会ではその資料となるものを作成したが、それでも深く討議するには至らなかった。ガバナンス論に引っ張られたのか、それとも参加者がこの年初めてという方が多かったからか、昨年の論議が生きていないことを感じた。それを別な面から見るならば、参加者とリーダーを勤める運営委員との間が、感覚的には昨年より離れている気がした。ということは、運営委員の思いに参加者がついてくることが出来ない、との感じを私は持った。

(2005.9.1,)