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イラクへの支援(2)

最も恐れていた事態が起こった。イラクにおいて3人の日本人が人質として捕らえられた。この情勢の中で彼等がどういう目的を持って現地入りしたのか、それがイラク国民のためとご本人は信じての行動であろうが、これは少し一人よがりではなかったか。

捕まった本人たちは自衛隊の撤退を望んでいたわけではないだろうし、仮に純粋にイラク国民の幸せを願ってのこととしても、自分たちだけが正しいと思っていたのだろう。彼らはその集団で、自分の行動は必ず高く評価されると信じていたに違いない。自分の信ずる道を選び行動するのが正しいならば、イラク人の自爆行動も許されることになる。日本人なのであるから、日本の立場、良識を考えて行動して欲しいものだ。

小泉さんがどんな顔をしているか見たいけれど、苦り切っていることだろう。これで日本の税金が幾ら使われるのか、彼らは考えているのか。その上に腹がたつのは捕まった者の家族が「自衛隊は撤退すべきだ」と話していること、そんな重要なことがこの事件を契機として直ぐ行われることは、万に一つもないことくらい判っていないのだろうか。何様だと思っているのか。家族の方には申し訳ないが、その憤りを政府にでなく、自分の身内にも向けて欲しい。私は小泉さんがイラク派兵に踏み切ったとき、これに全面的賛成はしなかったけれど、しかし彼等が現地にまで出掛けての行動には賛成できない。命を落とすことがあるかも知れないことは、治安が不安定なイラクで全く予想しなかったのだろうか。「我々はイラク国民のためにやってきた」と百万回話しても判ってくれる相手ではないことに気づかなかったのだろう。イラクの民主化の確立を目指すと言っている米国、イラク国民の生活安定に努力している自衛隊、しかし米国も自衛隊も現地で同じように歓迎されていないのだ。

明日にも期限が来る。さてどのようなことが起こるのか、しばらくは目を離せない。

(2004.4.9.)

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 3人が24時間以内に解放するとのニュースがイラクテレビ局アルジャジーラからはいった。人質として捕らえている集団の発表のようであるから、可なりの信頼性はあるのだろうが、実際にはその時、日本時間の明日早朝にならなければ判らない。

この解放の仲介に当たったのは聖職者、つまり宗教指導者とのこと、混乱続いているこの国では、このような人が国民の信頼を受けているのであろう。これは日本では考えられないことで、宗教、信仰の強さを何か再認識させられた。

イラクでは米国に対しての反感が強いことは判っているのだが、現在その米国に協力する国の報道人を人質として、イラクからの撤退を要求する運動が起こっていると報じられている。その国はブルガリア、イスラエル、スペイン、韓国、それ日本、米国の名が挙げられている。現地ではこの情報は今度の事件以前に判っていなかったのか。またこの3人は日本が米国一辺倒であることも知らなかったのか。

どのような結果になるのかは全く予測はできない。解放の声明は大変好意的なものに読めるけれど、どんなものか。彼等は日本国民に、イラクの米国からの解放の世論を起こして欲しいというが、私はイラク国民に何らの危害を与えことなく国民の生活向上を献身的に支援している日本の民間人を利用しようとする考えには納得できない、これは神を信仰する人が考えることなのだろうか。万一のことがあれば、日本人すべてはイラク国民を見捨てることにもなり兼ねない。米国も猛烈な攻撃をするだろう。

(2004.4.11.)

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12日の朝になっても解放の報道はなく、政府も家族もいらいらしただろうが、やっぱりというのが私の感想、解放といっても玄関から放り出すようなわけにはいかない筈、聖職者が介入したことは幸いで、見込みが高まったと理解したい。

日本はテロ撲滅に米国に全面協力を表明している、そして武力のない日本は人質の救出には最後には米国の協力を期待しているのではないか、まさかと思うが却って相手はそれを恐れているかもしれない。しかし反対に日本と米国の離反を促進のため第二、第三の人質があることも考えられる。民間人が狙われているのだから、現地にいる日本人は「捕まったら政府が何とかしてくれる」との「お上頼り」は捨てることだ。

ご家族の一人が「顔をみたら殴ってやりたい」と言われていたが、これが本音ではないだろうか。親に黙ってイラク国民を援けたいと出掛け、人質として捕らえられたと知ったらどの親も驚嘆する。テレビでの家族の言葉を聞いていると、最初は「自衛隊を撤退せよ」とまるで筋違いのことをわめいていたのが、今はお願いしますの一点張り。これで判ったことは、捕まった人も、その家族もイラクの問題について極めて無知であったということである。

(2004.4.12.)

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 イラクの人質事件のニュースを聞いていて、ふと思った。
この3人はこ の地域に入ったのは初めてではなく、何度も行っている。だからどのルートが安全で、自分たちの目的とするところはどこかもよく知っていた。

 私はこれを登山に例えてみた。彼等はイラク国民の人道的援助を目指して国境を越えた。しかしタイミングとしては極めて悪い時のことに気が付かなかった。登山でいえば通い慣れた道てあるし、多少の雨風に遭っても怖れることはない、現地の情報は決して楽観できるものではなくとも、我々は大丈夫、1日も早く待ってくれている人たちのところに急ごうの気持ちであったろう。
 しかしルートでの天候は彼等の予測以上、風雨どころか嵐であったのだ。自分たちが目指す「人道的支援」は嵐から身を守ってくれる蓑には全くならなかった。これにはご本人たちが一番驚いたかもしれないが、そのような事態になったのは、自分たちの判断の甘さにあったことを先ず知らなければならない。目的地に着かなければこの行動自体が全く無意味なことになる。私はこれを彼等が登山を試みて遭難したと同じと考えた。登山にはほんの僅かの判断の誤りが命を落とす要因になる。  それに加えて腹がたつのは家族の人たち、彼等は天候がよくない山に挑戦し、それも予想以上の悪天候に見舞われたと考えたら、誰を非難することができるのだろうか。現地の天気予測が可笑しかったと言ってみても、最終的に判断するのは彼等自身であったのである。
 もっと驚いたのは、家族は遭難対策の足りなさを唱えていること、自分の子供や兄弟は何も悪いことをしていないと言いたいのであろうが、私は彼等の行動に如何に立派な目的があったとしても、嵐の中に出掛けたことに原因がある、と言いたい。
 登山に当たっては、登頂を目指すことは言うまでもないが、命の危険があればその計画を中止し撤退する決断が求められる。これが登山、リーダーにはその決断ができる勇気がなければならないのである。
(2004.4.12.)

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日本時間の14日午前、ブッシュ大統領は記者会見で、6月末までのイラク主権委譲は堅持すると述べている。その前日にアナン国連事務総長は、現在のイラクの治安状況では6月の主権委譲は不可能、と述べたばかりである。どっちが正しいかではなく、米国と国連の意見が違うことが問題だと思う。しかも大統領はイラク民主化に国連の関与を期待し、新たに安保理決議を目指すという。これを皮肉な見方をすれば、事務総長は出来ないと言っているから、安保理決議で国連を動かす考えなのか、と思えてしまう。つまり米国の名を国連に変えて、イラクの民主化を進める、そして米国は米軍を駐留させてこれに協力する、との筋書きなのだろう。果たして国連安保理の決議はできるのだろうか。「アメリカさんご勝手に、私は降ります」との国が出て来ないだろうか。米国の名を国連に変えても治安がよくなる保証は少しもない。ブッシュとアナンの対決はあり得ないから、当分中途半端な状態が続くことであろう。それで困るのは、人質になっている人、治安の不安におびえるイラク国民、そして関係各国の政府ではないのか。何時までも先が見えないことが一番いけないし、不安を生む。

(2004.4.14.)

 2人の日本人ジャーナリストが新たにイラクで捕まった、とのニュースには驚くより憤りを感じた。前に述べた3人については、本人たちの判断の甘さと指摘したが、この渡辺、安田の2人には言う言葉もない。先の3人はイラク国民への人道的支援が目的であったのに、この2人は記事の取材が目的、簡単にいえば自分が稼ぐためにイラクに入ったのは明らか、取材の自由が、治安の悪いイラクでも通用すると思い込んでいたのか。本人の思い上がりは勿論問題であるけれど、この記者に取材を依頼した日本の新聞社、通信社の責任は大きいし反省して欲しい。福田官房長官も「困ったことをしてくれた」と吐き捨てるように記者会見で語っている。

 イタリア人で米警備会社に勤務していた男性が殺害された。これに対してイタリア政府は「軍の撤退はしない」との首相談話を発表した。同じことが日本で起きたらどうなる。小泉さんも「撤退しない」と言うことはまず間違いないとしても、日本国内はイタリアのように首相の一言で収まるかどうか。日本人人質の殺害が起こらないことを祈るものだが、米国はその立場を益々苦しくしているから、その鉾を一段と強めるかも知れない。イラク問題は文字通り混迷してきた。

(2004.4,15.)

 全く突然という印象で、3人の人質が解報された。8日間も捕らえられていたのに、その間の政府発表は「救出に全力を尽くす」だけで、内閣府や外務省そして現地の対策本部からの情報の貧しさには、正直がっかりした。まだ2人残っているのに今後これで大丈夫なのかと思う。

 今度解放された3人は、以前にイラク国民のために尽力したとの実績があるし、聖職者教会が関わっていたこともあり、何れはこの日を迎えるだろうと思っていた。この3人の解放は素直に喜ぶものだが、さて後の2人とどうなるのか、彼等はイラクのためにと考えての行動だったろうが、イラク側からは「我々をメシのタネにした」と思われることはないか。このように思われたら、3人との違いは、はっきりしてしまう。

 政府は人質の救出に米軍の力を借りたかったかも知れないが、捕まっているのは日本人だけではない。米国は精々情報の提供だけであろうから、日本としては何も出来ないというか、その姿、極端な言い方をすれば相手任せより他はないのである。

 解放された3人の家族が北海道東京事務所に集まって、「自衛隊を撤退しろ」「首相に会わせろ」「信頼できる情報がない」などと言いたい放題、冷静に考えれば、政府がこの3人と引き換えにイラク人道支援から手を引くことは全くあり得ないこ、家族の行動には呆れるばかりであった。最もこれはマスコミにも大きな責任がある。これに反して渡辺、安田のご家族は冷静に推移をみているようだ。記者会見などということもない。ある意味では覚悟されているのか、とさえ思える。

 私はこの2人渡辺、安田の行動は絶対に許さない。

(2004.4.16.)

 16日にブッシュ大統領は、イラク民主化のプロセスを国連主導に従うとの考えを示した。何故俄かにそのように考えを変えたのかの真意は判らないけれど、流石のブッシュも米国の孤立化を恐れたのであろう。力によるイラク統治の限界を悟ったのか、大きな方針転換であった。問題はこれをイラク国民がどう受け取るか、反米感情がこれで少しでも下火になるなら、幸いである。

(2004.4.17.)

 渡辺、安田の2人が解放された。この2人は駄目なのではないかと思っていたので、意外な解決であった。最悪の事態にならなかったことは、幸いであった。

 今度も聖職者協会の力に拠ったが、この国での宗教の力というか、彼等の信仰心には我々の想像以上なものがある。米英ははっきり敵と言っているし、自衛隊の駐留には反対している武装勢力も、聖職者には逆らえないようだ。しかしこの聖職者がこの国の政治の中心ではない。政教分離などと言っているのではないのだろうが、聖職者が国民から尊敬されていることが覗われる。

(2004.4.17.)

 ブッシュ大統領はついに国連主導によってイラクの主権委譲を国連主導で行うと発言した。これは先に行われた英国首相との会談で説得されたのか、それともスペインなどのイラクからの撤兵に拠るものなのか、それは判らないけど、米国主導の方針を大きく転換するものであった。そして素早くネグロポンテ氏を新しいイラク大使に任命し、バグダットにCIAを含め3000人規模の大使館を設置すると発表した。

 新しい大使になるネグロポンテ氏はアナン事務総長とも親密といわれているが、この新大使は国連の一員として活躍するのか、米国を代表する者として活動するのか、はっきりしない。彼が「米国的強行派」であるなら治安の回復など望むべくもない。6月末までに暫定政権に主権を委譲することは、今度は国連主導になるけれど、世界に対して公約していることである。果たしてイラクの治安回復はできるのだろうか。英国が駐留するイラク南部の人口130万人の都市バスラでも、またサウジアラビアの首都リヤドでもテロ事件が起こった。ブッシュはこれをアル・カイーダのテロ攻撃と非難しているが、米国が進めている力での対決が順調ではないことを示している。4月の米国兵の死者はこの月だけで100人を越し、まだ沈静化の兆しは全くみえていない。

ネグロポンテ氏にどのような策があるのか、これは世界中の国が注目している。とくにフランスとドイツは、国連主導を主張してきたから今まで通りイラクに駐留するであろうが、これで米国と1枚岩になって治安回復に努力するのだろうか。これも新大使の肩に掛かることであろうが、まだまだ予断は許されない。

もし6月までに治安の回復ができなかったら、どうなるのだろう。或いは各国は米国に非難の目を注ぐであろうが、米国は「それはイラクの責任」

と言わないだろうか。もしそれを言ったらブッシュは今度の大統領選挙で負ける覚悟をしなければならない。

(2004.4.22.)

 4月30日の新聞に「米軍アァルージャ撤退」との報道があったが、これは一体どういうことなのか。つい先日まで武装勢力と米軍の間で休戦の交渉か行われたが、協定の約束である「武装勢力が武器を引き渡す」が実行されないので、何時まで休戦できるかは不透明と言われていた。それが撤退というのはどういうことなのか。しかし報道をよく読むと、米軍は撤退するが代わりに「イラク人兵士らで構成するファルージャ防衛軍」が治安の担当をするとのこと。しかしこの防衛軍は米国海兵隊の指揮下に入るとあるし、今後も空爆は辞さないとのこと。米軍が防衛軍の名に変わったように思える。国際的に米国は何時までも力による統治は出来ない、国連との関係もあり、イラク人に治安維持を任せる方針としたのか、しかしそれで大丈夫とは、思っていないであろう。言うなれば形づくりと見たが、果たして米軍はファルージァから撤退しないという。これではイラクの人たちを騙していることにならないか。今度大使になるネグロポンテ氏は力の統治に賛成派と聞いている。ますます先行きは判らない。

(2004.4.30.)

 イラクの武装勢力の捕虜を米英軍が虐待したいたことが、マスコミによって報道された。これは思ってもみなかった事実、米大統領はこの報道には嫌悪感を持つと言い、英首相は認められるものでない、と言う。現地のこのような問題がこの二人の了解の上で行われたとは思わないけれど、二人の足元を掬う事件であることに間違いはない。国際的にはイラクの治安維持に協力している国がこれをどう見るかもあろうが、より怖いのはそれぞれの国民からの反響であろう。国民の支持を失うことは、選挙に敗れることであるからだ。

 しかしもっと深刻なことは、米英軍がイラク国民にとって、更に遠い存在になったことであろう。武装勢力を相手にするのでなく、これからはイラク国民を相手にしなければならなくなることではないか。国連の管轄下で復興を図ることは決まったけれど、米軍も英軍も現地から退くことではない。自爆テロがイラク全体で益々激しくなるように思えるが、果たしてどうであろうか。

(2004.5.2.)