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多国籍軍とは

 2004年6月末にはイラクは米軍の管理から離れ、暫定政権によって統治されることになる。これは国連安保理決議によるものであるが、何かもう一つ、米国とフランス、ドイツとの間がはっきりしないし、ロシアもこの決議に拘わらず、軍の派遣はしないという。つまり多国籍軍と言ってもG8に参加している国全てが参加しているわけではない。米国は単独でイラクの統治を続けたかったに相違ないが、その信頼を得ることができなかった。しかし現地での米軍の力が小さくなるわけでなし、米軍が多国籍軍に名前を変えただけとの印象を持ってしまうが、どんなものだろうか。

 此処で注目しなければならないことは、暫定政権が誰の手によってつくられるのか、確かなことはそれがイラク国民でないこと、選挙も行われないで選ばれ、政府がつくられ、それに政治も軍隊も任せるということなのだが、この人選の主役が米国だといことは事実だろう。米軍が撤退すれば治安を保つことはできない。だから暫定政権は仮面を被った米軍なのではないか。もしイラク国民がその印象を持ったら、テロ活動が収まる期待は出来ないのではないか。

 イラクの統治はイラク国民に譲渡されたことになるが、これで治安の回復は出来るのだろうか、今後この暫定政権の高官がイラク人に襲われないとの保証はない、イラク人の中には米軍の占領に反対のための反対運動をしているのがいるのだから、この政権が米国の手先と考えられで、テロの対象になる可能性がある。イラク人がイラク人を襲う、こんな悲劇はない。

 小泉さんはサミットに行ったその先で、自衛隊は多国籍軍に加わって活動を続けるとブッシュに表明した。勿論喜んだのはブッシュさんだろうが、この言葉は国内の手続きを何もしないで述べられたのだから、これから国会で論議を呼ぶことになろうが、この発言は帰国してからでよかったのではないか。しかし案外日本は武力を持っていないことが逆に強みになって、「日本がイラクで出来ることは人道的復興支援だけ」と言えるのだろう、これを嘆くべきか、喜ぶべきか、情けない話ではある。

 国会で有事関連法案の審議が行われているが、これもよく考えると憲法に戦争放棄の条文を持つ国が正面きって審議する話ではない筈である。それができるということは、戦後60年になって憲法を見直さなければならない時がきていることを意味している。社会党でも護憲という言葉を使わない由。多国籍軍に堂々と加われるようにならなければ、国際的に認められる国とは言えないのが常識になっている。北鮮のことを考えても、日本は攻撃されて本当に戦えるのか、それは米国に頼るというが、しかしそれを米国の世論が許さないことになれば、それでお手上げにならないか。国としての最低限の守りはすべき時が来ている。

(2004.6.14.) 

 果たせる哉、国会で小泉さんが多国籍軍への参加を、ブッシュ大統領に言明したことが問題になった。これは問題にならない方が可笑しいので当然なのだが、その内容を聞くと「これでいいのか」と言いたくなる。多国籍軍に参加はするが、その軍の司令部の傘下には入らない、自衛隊は日本政府の管轄下で行動し、人道復興支援を非戦闘地域に限って活動する、というものである。治安維持活動には関与しないと受け取れる。それならイラクへの駐留だけを認めて貰って、多国籍軍に入らなければいいではないか、となるのに、このような条件で参加を表明したという。この説明で与党は了承するだろうが、野党は、参議院選挙を前に絶好の小泉攻撃の材料が出来たと喜んでいるかも知れない。

 今のイラクの情勢からみて、現地にいる自衛隊が小泉さんの思っていることを一応は理解しても、テロに襲わないとの保証はないし、襲われれば矢張り戦わざるを得ないと思っていないか、だからひたすら襲われないことを願っているだろう。こうなると新しい事件が起きたら現地自衛隊の判断は大変である。

 日本の世論の大勢は、最早憲法の改正は必要であるし、それも時間の問題、となっていると私はみている。野党はなしくずしに憲法の戦争放棄の精神が失われているというが、侵略戦争は許されないが、世界の悪との戦い、国を守るための戦いまで日本は放棄しなくてもよい筈である。私は国民の大多数はこのことを可なり理解していると思っている。イラク問題が日本の憲法改正の糸口になるかも知れないが、日本が国際社会の一員になるための条件は明確にしておきたい。
(2004.6.15.)

 この多国籍軍への参加は将来どのように理解され、またこれを契機に政治的にも大きな変化があるかも知れないので、小泉さんのいう「多国籍軍参加の統一見解」をここに付記しておく。

 わが国の復興支援は、イラク復興支援特別措置法に基づく。新国連決議の下で、多国籍軍は、人道復興支援も任務の中に有し、自衛隊はイラク暫定政府から同意と法的地位の確保を得て、活動を継続する。自衛隊は多国籍軍の中で活動するが、引き続きわが国の主体的な判断の下、わが国の指揮に従い活動を行う。統合された司令部の指揮下に入ることはない。この点は米、英両政府との間で了解に達している。イラク特措法にのっとり「非戦闘地域」で、基本計画に規定された活動を継続する。多国籍部隊の武力行使と一体化することはない。

 この言い分がよく多国に理解されたと思うが、いざとなっても本当に統合された司令部からの指示、要請はないのだろうか、また反対に自衛隊が攻撃されたとき援助を求めるのは多国籍軍しかないが、それをどう理解したらよいのか。そして自衛隊だけが多国籍軍の中からはみだしてしまうことはないか。

 小泉さん、何が起こるか判らないイラクへ自衛隊の派遣を決めたのだから、自衛隊への手かせ足かせは、出来るだけ取り払ったらどうか。現地自衛隊と多国籍軍とが、出来るだけ一体化できる知恵を出して欲しい。それが一番大きな復興支援ではないか。

(2004.6.16.)