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ニッポン放送の問題  

 インターネット関連会社のライブドアが、ニッポン放送の株式を時間外取引で買い付け、一躍筆頭株主になったことからこの問題が起こった。いまはテレビの時代だから、ラジオ放送会社は軽く見られているが、民間放送はラジオ局から始まったもので、東京放送、文化放送、ニッポン放送などが設立され、その後テレビが始まってこれらの放送会社がテレビ局をつくった。ニッポン放送が設立したのがフジテレビなのであるが、いまの我々の感覚では親会社がテレビであり、そこがラジオ放送をしているのであるが、株式の面からみるとそれは逆で、ニッポン放送がフジテレビの親会社なのである。だからライブドアがニッポン放送の経営権を握ることはフジテレビの経営をも握ることになる。  
 何故ライブドアが突如ラジオ・テレビに進出しようとしたのか。インターネットという情報公開が普及し、さらにその情報の質を高めるために、ラジオ、テレビとの融合を目指したのかもしれない。それはインターネットがより早い正確な情報を提供することを目論んだのではないか。 だからマスメディアに目を向けたのは一応肯けるのであるが、しかしマスコミの世界は物を売り買いするような感覚だけでは駄目なのである。資本提携すれば経営が自由にできると思ったら大間違い、その一端がニッポン放送の幹部・社員がライブドアの傘下に入ることを拒否する声明を出している。テレビも新聞も人がまず存在しなければならないのに、インターネットの世界ではまずパソコンがなければならない。  
 ライブドアは大量の株式を時間外取引で買った。それも相手に事前に通告することなしにである。そこでニッポン放送側はフジテレビに新株予約権をあたえ、これによってライブドアの保有株式の率を下げることを取締役会で決議、またフジテレビは公開買付を始め株式の確保に努めた。それて正面衝突してしまい両者の話し合いによる解決の道は全く絶たれてしまった。  
 時間外取引は合法であるが、国会で政府側は「かくも大量の株式がこの方法によって取引されることは思ってもいなかった」と法の不備を認めており、一方ライブドアはニッポン放送の新株予約権は、一般株主の利益を圧迫するものとして、地裁に発行禁止を求める仮処分の申請をした。まさに泥試合の様相であるが、株式を大量に買ってその会社の支配権を得る、というのは違反でもないし、それを公開でなく時間外取引で行ったことは今までの常識を覆すものであったが法を犯しているわけではない。  
 この問題と同じときにテレビニュースを賑わしたのが、堤義明氏の逮捕であった。彼は父の遺産を継いで西武の総帥になったのであるが、株式の保有それも名義株を使うことによってこの巨大企業の経営を一手に把握していた。それが証券取引法違反に問われ、逮捕にまでなってしまった。この西武とライブドアでは余りにも桁は違うけれど、ライブドアの堀江氏の考えと何か一脈通じるものを感ずる。過半数の株式を保有すること、それだけでその会社の将来が保証されるものは何もないけれど、過半数の株を持って経営に当たろうとするのは似ているが、この両者の違いは堤氏はこの企業を知り尽くしているのに対し、ライブドアは何回も言うようだが、マスコミには全くの素人であることだ。
(2005.3.6)
 フジテレビはニッポン放送の株式の36%以上を確保した由で、これで拒否権をもつ株主になったから、ライブドアがこのラジオ、テレビを欲しいままにする道は一応押さえられたが、ライブドアが地裁に提出した仮処分の決定如何ではどうなるか判らない。裁判所は恐らく一般株主への影響を主として判断するだろう。またライブドアのいう新株予約権は認めないとなれば、フジテレビは控訴するだろうし、また反対の結果がでればライブドアが控訴するだろうから、何時決着がつくのかは全く判らない。私の予想はライブドアの言い分が通り、仮処分になると思う。  
 しかしマスメディアの株が一般企業と同じように株式市場に上場されているのだから、堀江氏のような人が出てきても不思議はない。ラジオ・テレビの会社は新聞社と同様に株主の制限をすべきだと思う。もし海外の資金が流れ込んで、あるでテレビ局が買い取られるようなことになれば、政府も国民も黙ってはいないだろう。  
 一番困ることはこの両者に話し合いで解決する気が全くないことである。裁判所が和解の勧告をすることもあり得るのだが、現状では見込みは少ない。堀江氏はテレビの坂組に出演して言いたいことを言っているようだが、それが両者の溝を一層深めているだろうから、益々話し合い解決は難しくなったと見る。
(2005.3.8)
 11日に東京地裁はライブドアの申請を認める裁定を下した。裁判所が株主の利益をみるか、企業経営の価値や存立をみるのか、を注目したが、結果はライブドアの思惑通りになった。  
 前述したようにこの問題はライブドアが時間外取引によってニッポン放送の株式を取得したことに始まる。もしこれが国内のラジオ放送会社の手で行われたら、これだけの問題になっただろうか。またもしライブドアが経営に参画すれば、それは相手の意思に関係なく資金のある者が企業を手にいれることが出来るということであり、企業側(ここではニッポン放送)にはそれに対抗できる手段がとり合えずないことを示している。  
 企業の経営が第三者に移ることは日本でもあったが、それは多くの場合予め話し合いがあって、双方合意の上で行われてきた。しかし今回はニッポン放送にとっては不意打ちで、ライブドアは合法というが、日本の商慣習には馴染まないやり方であった。裁判所は米国の @敵対的買収で企業価値に脅威があるか A防衛策が過剰でないか など国際基準に添った判断というが、ここは日本であるから日本人に納得できる判断をすべきである。そしてライブドアが時間外取引で、一挙にこれだけの株式を買ったその裏に、例えばその資金の出所とか、何故ニッポン放送なのか、も裁判所は糾すべきであった。両者の争いはこれで終わったのではない。まだまだ続くのだが、インターネットとラジオの組み合わせで新しい情報世界を創るとのライブドアの構想に私は俄かに肯くことはできない。   (2005.3.12)
 ニッポン放送は音楽会社のポニーキャニオンの株式を、フジテレビに売却を検討しているという。この会社はニッポン放送が56%の出資をしている会社で、連結売上高の50%以上を占めている。これを手放すことはニッポン放送の収益を減らすことに繋がる、つまり企業価値の減少なのだが、それを何故ニッポン放送は処分しようとしているのか。大きくみればサンケイグループの利益確保であるし、ライブドアへの抵抗であるのだろう。NHKの報道ではニッポン放送の捨て身の戦法といっている。  
 一方両者の話し合いが囁かれている。ライブドアはサンケイ・グループと仲良くやっていきたい、と言っているがニッポン・フジ側のライブドアへの不信感は簡単には収まらないのではないか。ライブドアが大幅な譲歩でもすれば或いは、とも思うけれど私は現状では話し合いでの解決はないと思う。
(2005.3.14)  
 時間が経過しているうちに、ライブドアとニッポン放送の戦いは、フジ・サンケイグループとの戦いに発展してきた。それはライブドアがフジテレビの経営に参画を目指して、株式を取得すると言いだしたために、FNS(フジネットワーク・システム)が18日にニッポン放送、フジテレビの全面支持を表明、またフジテレビ労働組合もライブドアの経営参入に反対の声明をだした。  
 この問題は国会でも論議されることになり、外国に日本の企業が買収されるのではないか、所謂「三角合併」に反対論が出てきた。政府も会社法の改正に踏み切りこの22日に改正案を国会に提出することを決めた。政府もマスメディアを敵に回すことは避けたいし、と言って裁判所の判断を無視できないだろうが、東京高裁の判断如何ではライブドアの企業乗っ取り的行動に待ったが掛かる可能性はある。  
 米国ではこのようなことは日常茶飯事かも知れないが、もしライブドアがテレビ局を経営していれば話は違った方向に進んだろうが、インターネットとラジオ・テレビの一体化と言われてもいまの我々には理解出来ない。しかしライブドアは執拗にサンケイグループを傘下に収める工作を続けている。今月の末までには凡その見通しは立つと思うが、このHPではこれからの動きを静観するため一旦ここで打ち切り、新しい事態については改めて稿を起こす。
(2005.3.19)