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事故後のJR西日本  

 尼崎の大事故から2週間がたつた。未だに福知山線再開の目処がついていないことは、それだけ事故が大きかったことを物語っている。毎日この線を利用していた人たちは、いま大変な不便を蒙っていることになる。お気の毒という他はない。
 ところがNHKテレビも新聞も何を報じているかといえば、この事故の原因調査のこととか、電車に乗り合わせていた社員がその救助にも行かずに会社に行っていたとか、ある車掌区の43人がこの日ボーリング大会を行い、その後に飲み食いをしたとか、神戸支社管内の人がゴルフに行っていたとか、こんなことを世間に知らせる価値がどのくらいあるのか、そう思いたくなることばかりである。JR西日本の管理の悪さ、とくに情報伝達の管理の悪さ、それに伴う管理者の判断の誤りなどを具体例として報道しているのだろうが、こんな報道が2週間も続くと正直嫌になる。  
 この電車に乗っていた2人の運転士について、この人たちにはこの日に運転する電車は決まっていた筈で、自分が行かなければその電車は走らなくなるのではないか、と思って事故現場から離れたとしたら、それでもその罪は問われなければならないのだろうか。何千人の足を奪うかも知れないと判断をしたこの2人を、人道的にはともかく、社員として間違った行動を取ったと断ずることが出来るのか。しかしそれを報道陣はこれでもか、と繰り返している。  
 ある大臣が「ATCを新型に取替えない限り福知山線の運転再開は認めない」と発言している。これは余りにも軽率ではないか、その周囲の人たちには尤もと思われただろうが、この大臣の一言で再開までの間、毎日何万人の人が迷惑することを、ご本人は考えもしなかっただろう。利用する人たちだけでなく、定期券の払い戻しも起きるし、今後この事故現場を走る電車が制限時速で走らせるためには、或いはダイヤそのものを改めなければならなくなるかも知れない。これは大変な作業になろう。私の記憶に間違いがなければ、再開の見通しは6月になるという。何故この大臣は「1日も早く復旧させて、安全運転に徹して欲しい」と言えなかったのか。彼は政治家として、勿論大臣として失格者と言いたい。  
 この事故の原因は運転士の判断ミスにある。もっと言えば会社は運転士の安全教育に十分な手を尽くしていなかった、ことにある。一般的に言ってこの安全の維持確保には多大の費用が掛かる。これは交通関係ばかりでなく、機械や装置をもつ生産現場も同じで、安全のための費用はいくらでも必要なのだが、これらの費用は当然生産コストに加わるから、コスト削減の対象になり易い。人が注意をすれば防げると思い勝ちなのだろう。「ここからの時速は70キロ」の表示を掲げておけばこれで安全というのだろうが、そうはいかない、人は過ちを犯すことを前提とするのは悲しいけれど、それが安全確保には絶対に必要なのである。      

 JR西日本の社長は事故以来何回テレビの前で頭を下げたことだろうか。勿論社長としての責任はあるが、もとを糾せば23歳の運転士のミスから始まっている。このミスがなければ何も起こらずボーリングも、ゴルフも見逃されていたに違いない。それが俄かに表沙汰になってしまったが、誰かが言うようにJR西日本では安全に対しての配慮が欠如していて、安全装置の予算を削除したり、運転士の教育をおざなりにしていたと思う。その上に何よりも大切な「従業員の安全確保への意識」が薄くなっていたことに、管理者が気付かなくなっていたことである。  
 私はこの事故がJRで起きたことに注目する。最も大量に人を輸送するJRは、私鉄以上に安全に努める立場にあるからである。それだけにこの事故は残念なことであった。
(2005.5.7.)