Z33                            

耐震強度偽装  

 この問題は「日本人はどうなっている」で取り上げたが、11月29日に行われた衆議院の国土交通委員会では参考人を招いて質疑を行い、それがテレビで放映されたので見たが、各参考人は真面目に答えないか、責任回避の発言に終始したように思った。これは裏を返せば責任の所在がどこに有るのかが、はっきりしない、ということであり、まだまだ尾を引きそうで何時まで続くのか判らないので、この表題を付してこの件の推移をここに記すことにした。  

 この日参考人になったのは、民間の確認検査機関イーホームズ藤田社長、開発会社ヒューザー小島社長、木村建設の社長と東京支店長、ほか2名の6人であった。この中で最も怪しからんと思ったのは、木村建設の二人、社長は「私は知りません」か「判りません」のほかの言葉は殆ど聞かれなかった。支店長が姉歯事務所から300万円のリベート受け取っていることを、支店長自身が認めているのに、これも「知らぬ存ぜぬ」の一点張り、偽証罪にならないのか、と思う。木村建設は自己破産を決めていたから、何を言われても失うものはないからかそれは判らないが、少なくとも直接居住者との関係はないから、ディベロッパーから受けた図面通りに建築した、と言えば責任はないと考えているのだろうが、それにしても破産を早々に決めたことに疑問を持つ。  

 次が小島社長、イーホームズの藤田社長が姉歯の偽装を1ヶ月前に発見して、これを公表すると話したのに、この公表に反対したのは小島社長だと言い切った。これは両者の立場の違いで、藤田氏は姉歯氏の設計計算に信頼性がないと言うのに対し、既に自治体の確認を受けており、それが公になれば工事も販売も遅れるので、それが確実と納得されるまで伏せて欲しいということなのだろう。  ここで一つ気になることは、設計計算の確認が民間に委託されているが、その確認作業の期間が21日以内となっていると、藤田氏が発言していることである。そして設計計算書は分厚い書類で中身は計算数字、10階以上の建物の計算確認が21日でできなければどうなるのだろう。だから何処か一部の計算の確認をして終らしていたと思われる。更に付け加えられることは、姉歯事務所はこのイーホームズの審査は甘いと判断し、ここに確認を依頼していたらしいこと。つまり藤田氏は確認のための期間が短いから、偽装を見抜くことができなかった、と言いたいらしい。小島氏はこれが公になれば、その影響は限りなく拡がるに相違ないから、慎重にということであったのだろう
(2005.11.30)  

 この国会に参考人として呼ばれていなかったが、建築士の渡辺氏が今から1年半も前に、姉歯氏の構造計算の偽装に気付き、民間指定確認検査機関の最大手「日本ERI」に通報をしたが、それを無視されたことを発表した。この日本ERIの責任者も参考人として国会には呼ばれていない。この日本ERIは木村建設の幹部から姉歯氏を紹介されたという。これは建設費を安くするために工作されたと私は見る。また渡辺氏はこの秋にイーホームズにも伝えが、ここからの回答がない侭に今日になったと残念がっている。  

 本来建築認可は行政の責任であったのが、それが民間に委託される制度が出来て、民間指定業者が誕生した。これは小泉さんの「民間で出来ることは」の考えで出来た制度かどうかは判らないが、それが裏目に出たとも言える。尤も行政側ではこの計算偽装を見抜けたという話は聞かない。そこに付けこんでディベロッパー、建設業者が甘い汁を吸っていたことになる。行政にも責任の一端はあるのだが、これからこの問題はどのように展開し解決されていくのか。見守ることになるが、阪神大震災で国は被災者に全面的な援助をしなかったこともあり、その出方は注目される (2005.12.1)  

 この偽装問題は最早事件と言った方が正しいことになりそうだ。国土交通省が告訴することになったために、警察当局がこれに関係した会社、責任者の調査を始めると報じられた。簡単に言えば強制捜査が行われ、設計者、建設会社そして販売会社が訴えられ、裁判沙汰になるのであるが、その裁判は何時までかかるのか見当がつかない、それでは現在このマンションに住んでいる人たちはどうなるのだろう。裁判が終るまで待っていられないのだ。このあたりが難しい。住民は何ら誤りを犯していないのだが、100%補償は有り得ないと思うが、しかし国も自治体も責任がないとは言い切れない。建築認可は自治体の名であり、指定業者は自治体に代わって審査をしている立場、ここにこの事件の解決を難しくしている鍵があるのではないか。
(2005.12.2)  

 NHKの日曜討論で北側国土交通相は、行政側にも責任の一端があるが、いま一番に考えなければならないのは、住民の安全確保、ここで責任論を始めたらその結論には時間が掛かると思うので、そのように考えている。この行政側とは主として地方自治体、それは建築認可をしているのだから、そのようになる。  姉歯の設計計算が何故見抜けなかったのか、現在この認可件数は年間75万件もあり、これに対応するために民間検査制度を採用したのだが、販売業者、建設業者が一緒になって設計者に強要し、民間検査にパスさせて、耐震強度を下げさせる、言い換えれば建設費の軽減をはかることが出来たのである。つまり販売、建設業者は耐震度が低い建物であることを承知していたことになる。ここで大事なことは設計者の姉歯氏に職業倫理の欠如が問われることになること、とともに建設業者は実際に建築工事を行ってみれば、鉄筋の量が少なくないか、過去の経験からそれは判って当然と思われる。この事件は設計者から建設、販売の業者がグルになってのことだけに、その根は深い、当然裁判になるだろうから、本当の解決は数年先になろう。
(2005.12.4)  

 12月14日に衆議院国土交通委員会が開かれ、問題の姉歯建築士が午前、木村建設の木村社長と篠塚支店長が午後の前半、そのあと総合経営研究所の内河所長が出席して尋問に答えた。その印象から言うと、姉歯氏は既に建築士の資格を停止されて観念したのか、まず不正を認め誤り、「自分の生活を守る」ために篠塚支店長の要求に従ってしまった、「弱い自分に負けた」どちらかというと腹を据えての発言、その上この計算書はプロが見れば直ぐに間違っていることが判ると思っていた、と発言。少なくとも姉歯氏は自分が不正な計算をしたことを認めたが、不正を知りながら同じようなことを繰り返していた罪は、到底許せるものではない。

 然し木村氏、篠塚氏は、正規の手続きを経て認可された設計の図面に従って、工事をしたまでのこと、姉歯氏に圧力を加えるような発言をしたかもしれないが、それは法規内でのことと考えていたとの逃げの一手、木村氏は耳が悪いとかで「質問が判らない」ととぼける始末。内河氏は肝心のことは「聞いてない、知らない」と部下の責任にしてしまう。恐れ入った経営者であった。結局この委員会では泥合戦が繰り替えされただけだった。

 この委員会も各党に質問時間が決められるから、質問者は党の点数を稼ごうと工夫を凝らして質問するが、場合によっては同じ質問になる。私は各党間で予め問題を整理し、党の代表でなく、委員会の代表(複数でもよい)が質問するような形は考えられなかったのか。この委員会は国民ために行われるのであり、政党のためではないことが判っていないように思う。そり辺のことがわかっていないから、議員の質問はダメ、結局は検察の手に委ねなければ真相は判らない、それが実態なのではないだろうか。
(2005.12.15) 

12月20日、この事件関係の全国108ケ所の事務所、会社などで、一斉に捜査が検察の手によって行われた。これだけでも大事件である。姉歯事務所、木村建設、総合経営研究所、ヒューザー、イーホームズなどは挙げるまでもないが、108という数には驚いた。マンションやビジネスホテルの設計、建設、販売業者がグルになって違反建築を行って、大きな利益を得ていたのである。建築認可は行政が行うのだが、お役所がこの違反に全く気付かなかったこの事件、ここにも責任問題が起こることであろう。さてこの事件の決着、つまり裁判の終わりまでどのくらいの時間が掛かるのか、「そんな事件があったね」と語られるようなことのないよう祈りたい。 (2005.12.22)