第8章 子育てによって自分も育つ



人生という愛の道場の中で、愛は成長し人格に丸みを与える


 憧れとしての初恋、性欲との闘い、失恋、ようやく見つけたベターハーフ、しっとりと
落ち着いた夫婦の愛、子供を持って知る親の愛、そしてそこから広がる隣人愛。
 愛は年を経るに従って熟し、味わいを持つようになってきます。空想的なうわついたも
のから、地に足の着いた具体的なものとなるのです。
 人間社会は一人では生きていけません。多くの人の中で上下左右と関係を結び仕事をし
ていくことによって、自分の問題が分かるようになってきます。
 人生という愛の道場の中で愛は成長し、人格に丸みを与えるようになります。
 子育てを通して深められる愛情について考えてみたいと思います。まだ恋人募集中で子
育てとは縁がないという方もいらっしゃるでしょうが、やがて誰もが経験していく世界。
私のささやかな体験が、その時の心構えの参考になれば幸いです。

胎教が見直されている今、本当の胎教とは


 近年、胎教が見直されるようになり、婦人雑誌には胎教についての様々な記事が紹介さ
れています。怒ると血液が酸性になって胎教に良くない、胎児は母体の外界の音を聞くこ
とができるからショックを与えるような音は避け、きれいな音楽をいつも聴くようにした
ら良い、食事はカルシウムの多いものを食べという具合に、懇切丁寧に書かれています。
 たしかに胎教も大切ですが、その前にもっと大切なことが忘れられてはいないでしょう
か。
 あなたはご自分が、両親の期待の中で望まれて生まれてきたのと、妊娠してしまったか
ら仕方なくという場合のどちらが良いでしょうか。もちろん誰もが両親に望まれて生を受
けるほうが良いに決まっています。
 それでは、妊娠の原因とも言える性行為の時に、新しい生命のことを意識している人が
一体どのくらいいるでしょうか?
 もちろん性は子供を作ることだけではなく、喜びがあり夫婦の愛情を深めてくれますが、
妊娠の可能性がある日については、夫婦ともはっきり分かるはずです。ポルノ映画に刺激
され酒の勢いで肉体関係を持ち、その結果妊娠してしまったのでは、新しい生命にあまり
にも不遜ではないでしょうか。
 このことは親となった時、自分の子供に対して胸を張って親らしくふるまうことのでき
る精神的ポイントの一つですが、精神面だけでなく具体的にどんな子供ができるかという
結果となって現れるように思われます。
 私は遺伝学者でもありませんし、たくさんのデータを持っているというわけでもありま
せん。しかし、夫婦そろって立派な子供を生もうと意識して性関係を結びその結果妊娠す
るのと、性欲に押されその結果妊娠してしまったというのでは、子供の質が絶対違うはず
です。そして夫婦の精神的ボルテージが高ければ高いほど、良い子供が生まれるに違いあ
りません。
 私は学生時代に愛と性の問題でずいぶん悩んでいましたが、やがて人生の師と仰ぐ先生
と出会い、その先生の授業の中で「ある夫婦に子供が生まれる時、その夫婦からはいつ生
まれたら最も良いという時がある。そして、夫婦はその運命の糸に引き寄せられて愛情が
高まり、自然に一つになって妊娠するのである」という言葉を聞いて、そうだ、そうに違
いないと確信し、ようやく愛と性の問題の方向性を知ることができました。
 農作物や競争馬の世界では、血統が非常に重要なものとされています。そのため競って
優秀な血統を求めますが、このことは人間についてもまったく同じことです。ヨーロッパ
では今なお貴族と呼ばれる人たちが存在していますが、彼らは血統的にも選ばれた人たち
だけあって、頭脳も優れ、才能もあり体格も優れていると言われています。労働者と貴族
がケンカすると、必ず貴族が勝つというぐらいなのです。
 血統というと、自分の努力ではどうにもならないように思えます。
 たしかに、先祖譲りの顔かたちや才能はどうにもなりませんが、心の持ち方や人への思
いやりなどは、夫婦の妊娠前の愛情の世界、精神世界がそのまま伝えられていくような気
がしてならないのです。
 親の愛情を十分に受けている子供の顔はいきいきしていて美しく、才能も自由に伸びて
いきます。
 人間の心の核心は愛情であり、愛情溢れた人生こそ幸福な人生そのものです。
 他人への恨みの心を持たず、すべてに感謝し、人の幸せを祈る心を持ち続けるなら、そ
の愛のエネルギーは確実に子供の心に伝えられ、親より優れた心の持ち主となります。こ
れこそ真の人間革命であり、胎教は母親だけの課題ではなく夫にも重大な責任があり、妊
娠の何年も前から既に始まっていると言うことができるのです。

子供によって親が変えられる


 自分の子供が生まれるようになってからの、夫婦に起きる変化を考えてみましょう。
 女性の場合は、妊娠してから出産までの全期間、常に自分のお腹の中に子供を宿してい
るわけですから、母親としての意識と自覚を強く持つようになります。
 そして親となった喜びと自信が顔つきまで変えてしまいます。「女は弱し、されど母は
強し」という言葉もありますが、女性が最も美しく輝く時は、母親となった時と言えるの
ではないでしょうか。
 これに対して男性の場合、自分のお腹を痛めているわけではありませんから、初めて自
分の子供を抱きかかえた時、それなりの感動はありますが、母親ほどの愛着がなく「ふう
ん、これが自分の子供か。しわくちゃで、お猿さんみたいだな」というくらいの場合が多
いのではないでしょうか。
 そんな男性でも、夜中に眠い目をこすりながら2、3時間おきにミルクを飲ませたり、
おむつを取り替えたりするなかで、だんだんと愛情がわいてくるようになります。
 仕事で疲れていても子供のむじゃきな顔を見れば疲れも吹きとんでしまいます。熱でも
出ようものならさあ大変、徹夜で看病し医学書を調べておろおろします。
 「子を持って知る親の恩」とはよく聞かされましたが、わがままで手の掛かる子供の姿
を見ていると、かつての自分のことが思い出され、改めて親への感謝の念が湧いてきます。
 子供が生まれてからは子供が一家の主人公となり、親は自分の時間もとれずに子供の召
使のようになってしまいます。
 子供を寝かせるために、親は自分の夕食も後回しにして添い寝をし、昼間の疲れからそ
のまま一緒に寝てしまい、夜中に空腹のために目が覚めたというような話は、どこの親で
も持っています。
 そんな苦労があっても、子供が少しずつ成長し言葉を話すようになって利口になってく
れば親は大喜びです。それぞれの長所が子供に現れていると、それを挙げて喜び、二人に
ない長所を見つけては、結婚と出産の神秘に感動の声をあげます。
 何よりも嬉しいのは、子供が親に向けてくる全面的な信頼のまなざしです。もちろん高
学年になると、批判的になってくるということもあるのですが、幼児期のまなざしには親
はメロメロになってしまいます。
 私の人生の中で、私を百パーセント信じてくれた存在に初めて出会い、そのまなざしが
とても眩しく、とても感動したことを今もはっきり覚えています。「この信頼に応えなけ
ればならない。この子のために一生懸命働こう」そのように決意させられました。と同時
に、私はこの子のように百パーセント、人を信じたことがあっただろうかと反省させられ
ました。信じきるなら、必ず人は動くことを我が子は私に教えてくれたのです。
 それまで私は、人の欠点ばかり目について心から人を愛せないという、自分でもいやな
性格の持ち主でした。
 ところが悪戦苦闘しながら子供を育ててみると、自分の子供にも様々な欠点があり、親
としてはその子供が大きくなった時、未来の結婚相手や社会から何とか温かく受け入れて
欲しいという、祈りにも似た気持ちになってくるのです。
 そうすると今まで気になっていた人の欠点も、「この人も大変だな、親も心配している
ことだろう」という具合に、自分の子供とダブって見えてくるようになり、批判的な目で
は見ないようになってきました。
 動物の場合は生まれ落ちるとすぐに一人前になりますが、人間の場合は一人前となるの
に二十年もかかります。しかも肉体だけでなく、精神的にも世に出しても恥ずかしくない
だけの立派な大人とするためには、親の大変な努力が必要とされます。
 万物の霊長と言われる人間だけが、なぜこんなに子育てに苦労しなければならないので
しょうか。結論から言うならば、子育てはいかに人を愛せるようになるかという訓練の場
だからであり、子育てとは自分を育てることでもあると言えるのではないでしょうか。
 子育てを通して自分を育て、親の愛情に通じるようになって、自分の子供以外の人にも
愛をもって臨んでいくことができるようになれば、社会はおのずと良くなっていくに違い
ありません。
 子供は自分たち夫婦に与えられた天からの授かりもの。自分たち以上の可能性を秘めて
いるわけですから、自分の子供だと思って育てるわけにはいきません。
 天の王子と王女を育てるようなつもりで、自分たち以上の人間にしなければならない、
そう思って奮闘している毎日です。
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