ONEWORLD世界一周:計画編

プロローグ

世界一周−旅好きなら誰もが憧れる旅である。かつて、日数、費用の関係で 一般庶民にはまず無理と思われていたこの旅も、このところ、現実味を帯び てきた。何ヵ月、何年もかかると思われていたのはかつてのこと。今では最 低10日間で可能になった。費用も数万とまではいかないが、欧州行IATA PEX とさほど変わりないレベルで実現できる時代になった。また、海外でしか買 えなかった世界一周航空券(RTW)も日本発のものが登場し、しかも庶民が航空 会社のカウンタで正々堂々と買えるようになったから、一昔から比べれば信 じられないことである。これも世界規模で航空会社のアライアンス化が進んだ 賜物だろう。おまけに、世界一周の行程は最短のTTPMでも2万マイル以上に なることが多い。一般的なFFPが香港等への無料航空券の交換目安を2万マイ ルとしていることから、場合によっては世界一周すればアジアへタダ旅行、 というおまけもついてくることになる。

しかも、これらのRTWはアライアンス内の会社であれば自由に搭乗便を選べるも のが多いので、あちこち旅をしたい旅好きだけでなく、1度に数多くの航空会社 や機種に搭乗したい航空ファン的にも非常に興味深いチケットである。日本で 売られているRTWは4種類あるが、1つの例外を除いて必要旅行日数10日という 制約がある。つまり、日本への帰国便に搭乗するのは日本出国から11日目以降で なくてはならない、ということだ。1つの例外には必要旅行日数の規定はないが、 最短での総旅行日数が10日間というタイプのものがある。サラリーマンにとって これだけの休暇を確保するのはなかなか難しいが、長期休暇に幾日か休暇を付け 足せば何とかなるぎりぎりの日数である。

人はなぜ世界一周に憧れるのだろうか?マイル目当てで世界一周する人もいるか もしれない。でも、どんなにマイルを積んでも世界一周でしか得られないもの− 当り前のことであるが、それは「地球が丸い」ということを身体で実感できるこ とだろう。効率と経済性を追求する近年の空の旅では得られなくなってなってし まった遊び心がこの世界一周にはあるのかもしれない。かく言う私も、これらの RTWを使った旅行記やルポをここのところやたらよく目にするようになり、いつか はやってみたい、潜在的にそう感じていた。

2002年GWの旅行以来、私は特に今後の旅行計画は立てていなかった。GWの旅行で 大幅に予算をオーバーしていたし、どこかへ行こうと考えれば最低でも何万とい う大金と数日の貴重な休暇を消費することになる。これだけの投資を行うからに は、そのコストを有効に活用したい。GWの旅行で投資した上に、更に費用と時間 をかけてまですぐに出かけたい、と思う場所が見当たらなかった。GWの次は夏休 みだが、普通の長期休暇と異なり夏休みは当然のことながら毎日うだるような暑 さで身体も怠けがちになる。外に出れば身も心も締まるので、夏休みこそどこか に出かけるにはふさわしいのであるが...

ある日、私はある海外旅行フリーク本人と話す機会ができた。海外旅行フリー クやマイラーの話はネットの掲示板やWEBページ等でよく見聞きするが、実際の話 を聞いたのは初めてだった。その人はTさんといい、私と同じ業界のサラリー マンである。Tさんが海外旅行に行くようになったのはここ数年だそうだが、 その内容が凄く、チャンスさえあれば海外旅行に行かれるような方である。Tさ んの海外旅行は専ら個人旅行で、BKK発券も大活躍である。

そんなTさんが当面の目標としているのがMPOのシルバー会員入りだという(こ の目標は達成したそうだ)。お話ではTさんの今までの旅行話や、シルバー入り に向けての作戦など、マイラーでない私にとっても実に興味深い話を聞かせてい ただいた。

このような話を聞いているうちに、私は再度海外旅行することを検討し始めてい た。夏休みには到底間に合わないし、仕事の予定が入る可能性も否定できない。 それに今は忙しい時期だ。年末に今の仕事が一段落する予定なので、気分転換と して年末から1月始めに行くことを考えよう。当初、9、10、11月に散在する3 連休を利用して香港などの近場とも考えたが、いまいち気が乗らなかった。

そんな中、RTWのことを思い出した。今回の旅行計画と関係なく、世界一周には 憧れていたし、いつかはやってみたいと思っていた。旅行計画を思い付いた時点 では特にどこへ行きたいというのは決めていなかったが、どこでもいいから飛行 機に乗りたいというのはあった。RTWは他の割引運賃と違って年間通して同じ値 段であり、予約変更の条件も比較的緩やかだ。最低旅行日数は11日と長いが、ピ ーク時の休みを使えば何とかなる代物である。まさにピーク時に利用するのがお 得と思った。ここで長年の夢だった世界一周旅行を計画するのもいいかな、と思 った。そして、知らぬ間に世界一周を考えるようになっていた。

日本で売られているRTWは以下の4つがある。

  1. ONEWORLD EXPLORER
  2. スターアライアンス世界一周運賃
  3. スカイチーム世界一周運賃
  4. ワールドジャーニー世界一周運賃

1.-3.は各アライアンス加盟会社とその系列会社が利用できる。4.はNW/KL連合 が出しているもので、NW、KLに加え、CO、MH等の会社も利用できるもの。これらの RTWの中からどの航空券を選ぶか、ということが問題になってくる。アライアンス に関係なく乗りたい航空会社は存在するが、これらの航空券は全てアライアンス毎 でまとまっているので、どれかを選べばどれかは犠牲にしなければならない。また、 当然のことながら価格、発着時間帯、旅行にかけられる日数、渡航地も含めた安全 性などさまざまな観点からアライアンス選びが必要になってくる。いくらRTWがお得 といっても高い買物であることには変わりない。それにGWで予想外の出費があった ので、今回は費用が今まで以上に重要なファクターになった。

乗りたい航空会社という観点で見ると、スカイチームはあまり関心がなかった し、ワールドジャーニーはそれほど目ぼしいと感じる会社はなかった。NWはいろい ろと話題になるのでどんなものか1度は乗ってみたいが。よって、3.、4.は最初か ら対象外だった。このところONEWORLDばかり乗っているし、CXとQF以外はこれ、と 感じるものはない。だが、新しい会社を開拓してみたい気持は強い。今の私にとっ てダントツで利用したいのはスタアラである。

スタアラには前から気になっていた会社が多く集まっていた。あるWEB サイトではSKのクルーがフレンドリーだと出ていたが、どんな感じか見てみたいし、 LHもドイツらしく職人気質みたいなものがあると聞く。更に、もう1度乗ってみた いと思いながらチャンスのなかったSQの長距離便も乗りたい。1度きりの搭乗であ るが、UAも私にとっては株が高い。おまけにNHもスタアラの会員だから国内線も楽 しめる。これらのRTWの中で唯一日本の国内線が利用できるのがこのスタアラである。 国内旅行も楽しめるし、成田に帰ってきて現実世界に戻されることにギャップを感 じないで済む。世界最大の航空アライアンスとあって、就航地も利用できるフライ トも多い。まさに利用してみたいRTWだった。

スタアラの中でまず乗ってみたかったのがSIN発着のSQ長距離便、UA、LH。SKも できれば入れたかった。スケジュールを調べていると、何と、LAX-LHRにNZという 大穴もある。これは、日本人にとってSIN/BKK-欧州のQFと同じくらい(いや、それ 以上に)貴重な路線。普通、ニュージーランドへ行かないとNZは利用できないと思 われがちだが、これならニュージーランドへ行くという行為に貴重な資金と休暇を 消費しなくてもNZに乗れる。しかも、LAX-LHRのTPMは5448milesとあるし、ノンス トップである。しっかりとフライトを楽しめる訳だ。スタアラには前述のNZやLHな ど乗ったことのない会社もあるし、NHを除き乗ったことはあっても乗る機会の少な い会社が殆どだ。乗りたい会社の宝庫である。世界一周はスタアラということでル ートの検討を始めていた。

スタアラも他のRTWと同様、MPM毎で運賃が分かれる。スタアラの運賃には以下の 3種類がある。

  1. STAR1:MPMが29000miles
  2. STAR2:MPMが34000miles
  3. STAR3:MPMが39000miles

今回の世界一周にあたり、ルーティングの条件は

  1. 全体の旅程は10日に収めること(旅行は年末年始)
  2. TTPMはSTAR1のMPMに収めること
  3. 滞在は3ヶ所とすること
  4. なるべく多くの航空会社が利用できるよう、考慮すること
  5. SQのSIN発着長距離便に乗ること
  6. LAX-LHRのNZ便(NZ001 or 002)に乗ること
  7. UA、LHに乗ること
  8. なるべくならSKがあることが望ましい
  9. 出発はNRT、帰着はHNDとすること

と欲張ったものだった。(1)は最小旅行日数の制限、(2)は費用の問題からの制限 である。(3)はこの航空券の途中降機が最低3ヶ所としていることにある。

ところが、この条件を満たそうと便を組み合わせてみても、なかなか納得できる 結果が得られない。何かを優先すれば何かが必ず犠牲になる。これはいい、と思って 作ったプランはあったが、TTPMを計算すると29000マイルをオーバーしてしまい、STAR2 が適用されてしまう。それはSIN経由の南廻りヨーロッパに加え、オーストラリアまで ルーティングに入ってしまうので、29000マイルを軽く超えてしまうのだ。更にこの航 空券、最安のSTAR1(勿論、クラスはエコノミー)でも335000円もする代物だ。4種類あ る日本発のRTWの中では最も高い。GWに予想外の出費をしてしまった私にとってはやは り痛い出費である。これは、旧盆のロンドン行 IATA PEXを買うのとだいたい同じ値段 だ。

オーストラリア経由とはいかないまでも、いろいろルーティングしてみたが、 そうすると今度は29000マイルまでは程遠いものになってしまう。これだけの大金を つぎこむなら、できるだけ多くのフライトを利用し、1つでも多くの航空会社、路線 を利用し、MPM限界まで使い切りたいところだが...どうも29000マイルという値は中途 半端でしょうがない。MPMを減らす代わりにもっと安い運賃設定のRTWを出してほしい ものである。海外のスタアラ系RTWにはSTAR1より少ないMPMのものや利用できる会社を 限定したものがあるというが、どうして日本発にはそれがないのか?本当に不思議で ある。

運賃自体の問題だけではなく、このRTWにはもう1つ気がかりな点があった。前述 したルーティングの条件に、「滞在は3ヶ所とすること」としたものがある。これは、 ストップオーバーは最低3ヶ所とする、という条件からくるものだが、そのストップ オーバーの数え方が問題になってくる。

RTWでない一般の往復航空券では折り返し地点が存在する。折り返し地点は勿論、 ストップオーバーには入らない。日本語ではストップオーバーは「途中降機」と訳さ れる。つまり、ストップオーバーとは目的地へ行く途中で飛行機を降りて滞在すること を意味する。しかも、その地点で24時間以上滞在することである。

IATA PEXを始め各種PEX運賃では利用できる経路が限られている(例えば、欧州行き ではEH,TS)し、格安航空券の場合は更に利用できる航空会社自体限られてくるので、 あまり知られていないが、欧州行の普通運賃やITでは片道ずつ、EH/TSとAPのGIを 組み合わせることで世界一周ができる、というのを聞いたことがある。これは、欧州 行きのGIがEH/TS/APとあり、この経路規定は片道毎で適用できるために、この設定が 可能になるが、普通運賃は一般庶民にとってとんでもなく高いし、ITといっても世間 一般にいわれる格安航空券とは違い、IATA ITと呼ばれる運賃だ。IATA ITは規則上は 個人にも適用可能だが、これは旅行会社が地上手配と組み合わせることによって初め て販売することができるようになっているらしい。だから、個人では買えない。旅行 会社から買うしかないが、売ってくれるかどうかはわからない。それに、IT運賃とい えども、非常に高い。旅行取扱主任試験の問題集にでてくる程度で、こんなもの、誰 が買うの?という代物だ。この欧州行普通運賃/IATA IT運賃で世界一周する場合は欧 州内に折り返し地点があるので、当然そこはストップオーバー地点にならない。

では、スタアラを始め各アライアンスが出しているRTWにも折り返し地点があって、 そこはストップオーバーにならないのか、という点が問題になってくる。個人向けに 売られている正規割引航空券のルールブックであるOFCタリフ「日本発特別運賃(ITを 除く)」を見ても、その点は書かれていない。そもそも世界一周なので折り返し点など 存在しないように見えるが、もし欧州行普通運賃/IATA ITのように折り返し点が存在 するとしたら、ストップオーバー最低3ヶ所というのは大きなハードルになってくる。 つまり、24時間以上の滞在先は最低4ヶ所ということを意味する。滞在先が増えると いうことは当然、滞在費もかさむ。旅に必要な所要日数も然りだ。場所の選定もまた 一苦労だ。

私はここ数年何度か海外に出ているとはいっても、特定の場所にしか行っていない。 新天地を開拓するいい機会なのかもしれないが、そんな旅慣れている訳ではないし、 まだ初めての土地へ個人旅行で行く器量はまだ備わっていない。やはりまだちょっと 不安だ。STAR ALLIANCE RTWでのストップオーバーの数え方の真相はまだ確認できてい ないが、今回は以下の理由によりSTAR ALLIANCE RTWは没となった。

  1. 最安のSTAR1でも335000円する。今の私には高すぎる。
  2. それにMPM29000マイルぎりぎりを達成でき、かつ自分を満足させるルートが組め なかった。費用対効果が期待できない。
  3. ストップオーバー最低3ヶ所が足枷。折り返し地点無し(全てストップオーバーと カウント)なら何とかなるが、折り返し地点ありなら、最低4ヶ所を意味する。場所 の選定、許される旅行期間、滞在費からしてこの条件を満たすのは困難

STAR ALLIANCE RTWを検討する傍ら、もう1つのRTWとしてONEWORLDを検討していた。 スタアラを始めとする他のRTWがMPMを設け、TTPMによって値段が異なるのに対し、 ONEWORLD EXPLORERがユニークなのは、訪問する大陸数と大陸内でのフライト数によっ て料金が決まってくる。MPMは存在しない。最低3大陸からで298000円である。スタア ラの335000円とは4万円近く差がある。安い買物でないことには変わりないが、スタア ラと比べたらこの値段は魅力的だった。

更に、ONEWORLDにはスタアラにあるような最低ストップオーバー数の制限もない。 最低ストップオーバー数のことを気にかけなくて済むのも非常に魅力的だった。

ところで、ここ近年、ONEWORLDの搭乗率は高く、特にCXは何らかの形で毎年乗って いる。CXにはスケジュール、サービス、さまざまな面でそれだけ私を乗せようとする 魅力があったのは事実だ。また、プログラマ旅行者にとって貴重なフライト回数をそれに 消費させてしまう良さがあるのも事実だ。でも、ONEWORLDには少し食傷気味のところ もあり、今のONEWORLDにこれだけの投資をするだけの価値があるのか疑問に感じる面 もあった。スタアラと違って日本の国内線は使えないし、滞在先の選定にあたっても 状況がわかっているところ、空港からの便がいいところ、英語が通じる、といった条件 から場所が本当に限られてくる。新たな航空会社、または旅行先の開拓には何も寄与 しない。厳密には私はONEWORLD加盟会社全てに搭乗している訳ではなく、AY、IB、EI、 LAには搭乗したことがない。これらの会社を開拓することができるのかもしれないが、 どうもいまいち、という気持だった。

8月の盆休みに入り、世の中はバカンスシーズンになった。国内、海外問わず年3 回の民族大移動の時期を迎えた。いくら仕事が忙しいといっても、今年の夏は休日出勤 もなく、仕事上は誰も迷惑をかけることなく旅行できるという貴重な機会だった。例年 の如くうだるような暑さが続いたが、私は特に予定はなく、1週間以上の夏休みでず っと秋冬旅行をどうするか、ルーティングはどうするかあれこれ検討していた。前述 した9,10,11月のアジアの近場、IATA PEX欧州行なども含め、最終的にどんな旅にする か、ということを検討していた。今回の計画にあたっては「特にこれは!」「これが なくては」という目玉がない。何となくストレス解消に、と無性に行きたい、という ものだったので、今回の計画自体が実りあるものかだいぶ悩んだ。

最終的に結論を出したのは夏休みの平日期間も終りに近い8/16(木)の昼だった。そ れがたとえ前に何度も訪れた場所であっても、同じ航空会社のフライトを利用したと しても、それは絶対前の旅と同じにはならない。丁度正月休みだから旅立つには絶好 のチャンス、しかもRTWは1年中値段は変わらないから、他の航空券やツアーが値上がり するこの時期こそRTWを買うチャンスだ。やはり長年の夢だった世界一周に出かけよう、 と。これでやっと私の心が晴れた。これまで憑き物に憑かれていたような感じだった が、やっとそれから解放されたような気がする。

RTWのパートナーは結局ONEWORLDを選んだ。ONEWORLDを選んだ最大の理由はやはり 価格とストップオーバー規約だった。そして、以下の便の予約をCXに入れた。

日付区間 flight
02.12.26NRTTPECX451
TPEHKGCX2043
02.12.27HKGSINCX2073
02.12.28(SIN滞在)
02.12.29SINLHRQF9
02.12.30LHRABZBA1306
ABZLHRBA1313
02.12.31(LON滞在)
03.1.1LHRJFKAA105
03.1.1LHRJFKAA105
JFKHKGCX889
03.1.2(CX889機内)
03.1.3(HKG滞在)
03.1.4HKGNRTCX520(空席ない場合CX504)

TPEは特にストップオーバー、入国ともにするつもりはない。単純なトランジット である。TPE滞在時間は約4時間しかない。わざわざTPEでトランジットしなくても、 NRTからの直行便をCXは沢山持っているし、このCX451自体、何もしなくても最終的に は香港へ行くのだ。入国する訳でもないのに、何故わざわざTPEで飛行機を乗り継ぐ ことになったのか。しかもCXという香港の同じキャリアに、という点がある。他のHKG 直行便が満席等で取れなかったわけではない。実は、これには大きな2つの理由がある。

まず、折角のONEWORLD EXPLOERを使うのだから、この運賃でないと使えないフライト を使いたい。前から気になっていたが、普通の日本人なら絶対に利用できないフライト、 それがCXの北米線だった。かつて、キャセイホリデーがビジネスクラスの格安航空券を 売り出したことがあったらしいが、日本−香港−北米のルートはマイレージシステムで のMPM25%増を上回るという大幅な遠回りとなるので、航空券を日本−香港と香港−北米 に分けない限り買うことはできない。時間的、価格的メリットも全くないため、常識で 考えれば香港に用がない限り、まずこのようなルートを使う人はいない。CXの長大路線 は欧州線、JNB線、北米線の3種類がある。どれに乗っても同じCXだから機内サービス を始めとしたフライトの内容は変わらないだろう。まさにそれは正論だ。ただCXの長距 離路線を楽しみたいだけなら、わざわざこんなことをせず、身近で格安も出る欧州線を 利用すればいいかもしれない。しかし、特にこれ、といった理由は私にも分からないが、 ファンの心理としては日本人にとっては希少性の高い北米線を利用したかった。

一方、ファンの心理としてやはりCXで発券してもらいたい、というのが根底にあっ た。今回のONEWORLD EXPLOERの予約にあたり、ヘッドキャリアをどうするか、という 点はいろいろ悩んだ。今回は運賃を安くするために3大陸としたが、3大陸の場合、 アメリカを先に訪れる東廻りでない限り、ヘッドキャリアとなりえるのはCX以外にBA とAYが考えられる。BA、AYの場合だと日本から直接欧州に入ってしまう計算になるが、 これだと以下の問題があった。

となると、私の好みということ以外でもやはりCXで発券してもらう必要がある。 しかし、各大陸でのバックトラッキング(逆戻り)について、最初の出発地点を経由す る旅行は不可、という条件がある。ここでいう「最初の出発地点」というのは日本 国内の出発地なのか、それとも最初のフライトでの到着地なのか、ということが問題に なってくる。しかし、更に条件として日本を経由する旅程は不可、となっている。 これらの語句から考えると、「最初の出発点」とは最初のフライトの到着地を指すのが 自然だろう。香港まで直接行ってしまうと再び香港に戻ってくることになるので、CXの 北米線には乗れないことになってしまう。だから、3大陸という条件を満たし、CXの北 米線に乗り、QFの長距離便に乗る、更にCXに発券してもらうためには、どうしてもTPE で便を乗り継ぐ必要があるのだ。これの副産物として嬉しいメリットがある。それは、 乗り継ぎ便のCX2043がHKGに翌日の0時半過ぎに到着し、その次の乗り継ぎ便のCX2073が 3:00発となる。同一日の乗り継ぎだから航空保険料は5USD余計にかかるものの、HKGの 空港税を取られなくて済む、ということだ。HKGの空港税は1500円ぐらい取られるが、 航空保険料は600円ぐらいだから、私の勘ピュータではHKGへ直接行くより安上がりに なった。

12/30のABZ(アバディーン)は前々から考えていたロンドン脱出である。ロンドン脱出 もそうだが、外国の国内線に乗って日本の国内線と乗り比べてみたい、諸国の国内線 事情をちょっとでも感じてみたい、と思っていた。イギリスは殊にここのところよく 行くので、まず第1候補はイギリス国内線だろう。しかもありがたいことに、アジアか らのロンドン線は早朝着のフライトが多いし、どこかの国と違ってLHRの国内線も比較 的多い。早朝ロンドンに到着してイミグレを受け、そのまま国内線に乗れば日帰りでも 目的地で遊ぶ時間はそこそこに確保できそうだ。

だが、この計画は思っていながらもなかなか実行できなかった。普段忙しいことも あり、まともに現地滞在中のスケジュールを考えないまま、気ままに旅の計画を立てて しまう上に滞在時間をいつも限界まで切り詰めてしまう癖があるので、そこまでやる 時間が確保できなかったこともある。でも、気になっていたのは運賃だった。日本にい ると外国の国内線の運賃に関する情報はなかなか手に入りにくい。近年はwebで知るこ とができるのかもしれないが、当時はwebのアクセス環境が家になかったので、ちょっと 調べにくいものがあった。日本の国内線を考えると、運賃は片道万単位はするだろう。 日本で買おうとすると安い運賃はないかもしれないし、現地で買うとなるとかなり勇気 が要りそうだ。それでもだいたいの目安が分かっていれば検討はできるが、それすら わからないから始末が悪い。そんな訳でなかなか実行できなかったのだ。

RTWなら国内線の運賃も込みだし、予約も入れられる。BAは今までFCO-LHRという 短い距離ばかりだったので、本当はもう少し距離のあるフライトを利用したかったが、 もっと優先させたいフライトを入れるとBAの入る余地はここしかなくなってしまった。 イギリス国内の候補地はいろいろあったが、ABZを選んだのは飛行距離だった。いくら 国内線といえども、この旅では国内線しかない貴重なBAのフライト、1時間ぐらいでは やはり少し物足りなかった。本来、行き先があってそこへの交通機関が決まってくるの が常識だが、その常識とは逆に手段が先にあって、それで目的地が決まるということに なってしまった。ロンドン以外のイギリスの都市はMAN、EDIなどが有名だが、ABZはあ まり知られていないようだ。ABZはスコットランドの北東にある、ということはわかって いたが、折角行くのだからABZという街について予習しようとガイドブックを見てもあ まり載っていない。田舎街なのだろうか。

太平洋線はCXと決めていたが、私の頭の中ではアメリカ国内線を利用し、西海岸か ら乗る案など、いろいろな案が渦巻いていた。トランジットではなく、アメリカその ものにも行ってみたいとは思ってはいたものの、「銃社会」「治安が悪い」のイメージ がもともとあった上に、様子の分からない街に1人で行くのはどうも心細かった。ツ アーで行ってから、とも思っていたが、そのツアーで、というのが全然実行できない でいる。テロの恐怖はそれほど感じなかったが、今、個人旅行でアメリカに滞在する のは早計だった。だからアメリカで滞在しようとは思わず、トランジットだけにする ことにした。大西洋を越え、国内線で西海岸に渡り、そこからCXの太平洋線に乗り継ぐ ことはスケジュール上何とかなりそうな雰囲気だった。だが、何もない時はうまくいく ように見えても、何かあった時の余裕の時間が少ないように思えた。特に冬のヨーロ ッパは霧が多く、そのためにフライトが遅れることも予想される。Tさんはパリから の帰国便が霧とエンジントラブルのために6時間も遅れたのだそうだ。アメリカではた とえ第3国への乗り継ぎであってもイミグレは必ず受けるそうだ。だからそのことを 考えるとあまり無茶な日程は組めなかった。従って西海岸からの案は没となった。

スケジュールもさることながら、西海岸からのフライトを選ばなかったのはもう 1つ別の理由がある。第1希望をCX829としていたからだ。CX829はYYZ(トロント)から HKGへの便だが、これはANC(アンカレッジ)を経由する。ANCでは客扱いをせず、テクニ カルランディングだという。かつてANCは日本発欧州線のメジャーな経由地だった。シ ベリア経由便が貴重だった一昔前は日本からの欧州線はアジアを経由する南廻りと北 極上空を通過する北廻りがあり、シベリア経由でない北廻り線は機材の航続距離の関 係から皆、このANCを経由したのである。東西冷戦が終結してシベリア上空も開放され、 機材の航続距離も延びた今では、全ての日本発欧州線がシベリア経由直行便になって しまった。そのこともあってか、今はこのANCを利用する旅客便は激減し、かつての空 の十字路もすっかり寂れてしまったという。一方、今のANCは貨物便で賑わっていると 噂も聞くが。

ANCだけでなく経由便も少なくなってしまった今、乗員の交替や給油を目的とする テクニカルランディングのあるフライトも今は貴重になってきている。テクニカルラ ンディングのあるフライトが他にどんなものがあるか私にはわからないが、CX829(HKG からのCX828も含め)はその貴重なフライトの1つだろう。テクニカルランディングと いい、ANCといい、日本人はなかなか経験できるものではない。だから、CX829を第1 希望としていた。

しかし、ロンドンからトロントへ行こうとすると1つ問題があった。ONEWORLDで ロンドンからトロントにフライトがあるのはBAしかない。BAも悪くはなかったが、 国内線で利用している。世界一周できる、年末年始などのピーク時でも値段は変わら ない、あるのは経由大陸数と大陸内のフライトのみでMPMは存在しない。しかも、予約 変更ができる(まず私はしないだろうが、保険として)という条件で欧州行IATA PEX並 の価格なのはコストパフォーマンスは十分あると思うが、このチケットのメリットを 最大限活用するには、やはりIATA PEXと同じように、1社でも多くのフライトを経験 したいのが心情。CXとQF、BAだけでは何か物足りなかった。まず、AAで大西洋を渡り、 そこからYYZに行くことを考えた。AAはLHRからJFKを始め、アメリカ各地へのフライト は多いが、肝心のそこからYYZへのフライトは私の希望に沿ったものはなかった。UA とACばかりだった。ニューヨークからYYZへいくつかフライトはあるようだが、発着は LGAで、しかもスケジュール的に厳しいものばかりだった。

HEL経由のAYも考えたが、この場合はもっと悲惨だ。LHRからHELへのフライトはAY、 BA共にいくつかフライトがあるものの、HEL-YYZがなかなかない。私が見たOAG(2002.7 のデータなのでちょっと古いが)だと、火曜のAY2417(17:30/19:15)、木曜のAY2419 (16:40/18:25)、日曜のAY2415(19:25/21:10)しかない。私が搭乗しようとしているの は水曜だ。何かを優先すると何かが必ず犠牲になるのは世の常だ。CX829を取るか、搭乗 会社を増やすのを取るか。こうして、CX829は候補から消えて行った。

潜在的には同じCXの太平洋線でも東海岸からのフライトを希望していたこともある。 AA国内線も非常に捨て難く、本当に迷ったが、同じ乗るなら距離の長い、経由地のある 東海岸線に乗ってじっくりと楽しみたい気持は強かったのである。自分自身、経由地の あるフライトは二十数年前のPA南廻り欧州線以来であり、テクニカルランディングほど ではないものの、私にとってはなかなか乗ることのない貴重なフライトだったことには 違いない(経由便の一部のセグメントだけを使うことはあっても、全区間を利用するこ とはなかなかないだろう)となると、残るはJFKからのCX889である。

ところで、ロンドンからJFKまでどうやって行くかということが問題になってくる。 先も述べたように、搭乗会社を増やすという観点から、BA以外のキャリアを希望した。 これはAAを選んだ。AAはNWやUAと違って日本からのアジア線がない、というか、日本 以外自社運航のアジア線自体ない。主力は大西洋と南米であるため、アメリカに行かな いと乗れないキャリアなのだ。

AAは最近、他の航空会社に先駆けてY席のシートピッチを広くする「MORE ROOM」を 推進しているという。広告によれば10cmも広くなったらしいが、どれだけ違いがあるの か試してみたい。

AYはHELからのニューヨーク線については毎日フライト(AY005)があるものの、これ が14:55発15:55着とある。到着時刻は問題ないものの、これに乗るためにはLHR 7:30 発のAY836(HEL 12:25着)に乗らなくてはならず、セキュリティチェックのことなども 考えるとLHRに5:30には到着しなくてはならない計算になる。これは現実的には無理な 話だ。

最終帰国便にはCX520を選んだ。これは今年6/1、NRTからのCX521と共に増設された 便である。今までのCXのNRTへの朝便は9時頃のCX504とTPE経由のCX450しかなかったが、 新しくこの選択肢ができたことになる。5月、香港からの帰国便にUAを利用した時、 CX504と同じような時刻だったが、朝早く起きなければならなかった。だからといって、 昼間の便にすると帰りがとんでもなく遅くなる。翌日は出社しなければならないのだ。 だから、この便ができたのは私にとって都合が良かった。

本音を言えば、HKGNRT間はCX以外のキャリアを使いたかった。具体的にはなかなか 利用することのないJALである。JALのONEWORLD入りはかねてから噂されていたらしい。 結局、一部の人達のガセネタに過ぎなかったようだ。AAなどあちこちのONEWORLDキャリア とコードシェアやFFPなどの契約を数多く結んでいることから、日本ではONEWORLDに 最も近いキャリアなどと言われてきたが、ANAと違ってこれらのアライアンスに入る意志 はないようだ。ANAが入ったことでスタアラがぐっと身近になったように、JALがONEWORLD に入ってくれたらONEWORLDの使い勝手がぐっと良くなると思っている日本人は数多い だろう。ちなみに、お隣り韓国ではOZがONEWORLD入りを噂された時期があったが、結局 スタアラに取られてしまった。いつだか忘れたが、AYやIB、LA等の加盟以降、ONEWORLD への新規加盟の話は聞かれない。今もなおCXはアジアで唯一のONEWORLDメンバである。 CX以外にもう少しアジアにメンバがほしいところだが...こう思っている人は多いだろ う。

(To be continued...)