不登校&高校中退

@義務教育って?
 Q:まず質問。『「義務教育」とは、「生徒は中学3年までは学校に通う義務がある」という意味である』、さて○か×か?
 
 A:憲法第26条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」とある。要するに、「自分の子は将来農家を継ぐんだ。農民になるための職業教育を親が直接するよ。だから、学校で英数国理社の普通教育を受けさせる必要はない」と主張するのはダメという意味である。子どもが通う義務は、直接規定されていない。だから答えは「×」だ。

 こんなことを書くのは、個人的な想いがある。最近はあまり聞かれないが、昔は「管理教育の千葉」と呼ばれ、西の愛知県と共に乱暴な先生が目立ったからだ。
 私が小学生の時には、暴力的ないじめを繰り返して受けたが、いじめる側の生徒が松戸市教育委員会の職員の息子だったため、先生は放置するどころか、逆に私につらく当たってきた。(水戸黄門に出てくる悪代官と悪徳商人のようだ!)
 中学校に入ってからは、学年で1.2を争うほど真面目だったのに、先生に8回殴られた。しかし8回のうち1回たりとも悪いことをしていない。「おまえの目つきが悪い」「(私の)名前が気に食わない」「先生が黙ったまま身振りで何か言いたそうだったので、察して動いたら『そんなこと言いたいんじゃない!』と頭を楽譜の束が曲がるほどの強さで叩かれた」「授業態度が悪い生徒がいたら、その生徒でなく、無関係な学級委員が殴られた」など信じられない理由で先生から暴力をふるわれた。(高校に入って、3分遅刻したため出席簿の角で軽く叩かれて「4年ぶりに悪いことしてぶたれた」と気分がよくなったことを覚えている)
 

 個人的な想いを書いたが、たとえば私のような状態だったら学校に行けという方が無理だ。不登校の生徒は、それぞれの事情を抱えている。単に「何となくかったるい」というだけなら問題はあるが、学校に行くのが100%絶対正しいというわけではないのは事実だ。

A不登校の生徒の高校進学
 昔は「登校拒否」と呼んだが、現在は「不登校」と呼ぶことが多い。基準は必ずしも統一されてはいないが、欠席日数が年間60日を越すと、長期欠席(不登校)扱いをすることがある。
 中学校を長期間欠席している生徒も、高校に進学する道は開かれている
 正直言って、推薦入学はきついが、一般入試では、決定的なマイナス要素になるわけではない。公立高校の一般入試では、欠席が多い理由を書いた書類を提出して配慮して欲しいとお願いできる。中学校を休んでいる生徒にも、心機一転、学校に戻る機会を与えるという趣旨だ。
 私立高校に進みたい場合、9月からの学校説明会・進学相談会で、「ウチの子は学校でいじめられて止むを得ず欠席しているが、そちらの高校にぜひ進みたい」などと何度も話をすると良い。不登校の原因が「いじめ」なら、高校に入っていじめられなくなれば、当然元気に通うことができる。私立高校の先生からは、印象の良い生徒と保護者なら「推薦基準より欠席が多いけど、大丈夫です」と回答が得られることがある。つまり自主的に『事前面接』をして、アピールするのである。
 不登校だと通知票が「1」「2」が多かったり評価ナシだったりする。公立高校の一般入試では、内申点で不利になるのだが、幸いなことに千葉県の公立高校一般入試は、日本一「テスト重視・内申軽視」の高校が大半だ。複雑な面があるが、大ざっぱに言えば、当日のテストが500点、内申点が135点の合計635点満点で基本的には合否が決まる。内申の占める割合が21%と全国的に極端に低いのである。 (注※公立高校の2割くらいは内申点を2倍3倍の比重で計算する内申重視校になっている)

  ■千葉県公立高校の内申点の重み■  一般入試の場合。内申重視の高校も2割くらいあり
内申点135点満点        学力検査(入試)500点満点
中1
45点
中2
45点
中3
45点
英語
100点
数学
100点
国語
100点
理科
100点
社会
100点

 仮に中3の時にほとんど学校に行かずに「オール1」だったら、中3の内申点は9教科合計で「9」になる。他の受験生が「オール3」だったとすると「27」なので、18の差になる。このハンディを、当日のテスト500点満点で挽回するのは、十分に可能だ。面接などで「高校生活に適応できるかな?」と疑問に思われて不利になることはありえるが、少なくとも内申点の面では、あまり心配しなくて良い。

B高校中退の現実
 高校を中退する生徒について、意外と知られていない。
(1)悪いことをして処分される生徒は少数派
  高校中退の原因が、「飲酒の発覚」「教師への反抗」などで学校側からの処分、または自主退学を迫られるというパターンは、多くない。多いのは、「夜遅くまで起きていて、朝起きれない」とか「難しくい英語を勉強するのがつらい」というものだ。「高校中退=悪い奴」という図式は、ほとんどあてはまらない。(無気力な高校はあるが、暴力・恐喝が蔓延している高校は、昔より減っている)
 なお、「寿司職人目指して修行することにした」などの目的が明確な進路変更は、積極的に応援すべきとも言えるが、人数は少ない。
(2)中退は高校1年が多い
 中退者の約半分(あるいは半分以上)は高校1年が占める。「入学したい高校ではなかった」とか「欠席が多くてこのままでは進級ができない」という事情で中退する生徒が目立つ。高校3年に上がれたら、あと少しで卒業という思いもあって、中退する生徒はほとんどいない。
(3)「通信制に転校」という形にすることも。
 「留年すると後輩と一緒になってイヤだ」という場合、通信制などの他校に転校することがある。生徒にとっては形は変わるが高校卒業の道が残る、高校にとっては不名誉とも言える中退者数を形式的に減らすことができる。(もちろん大多数の先生は、中退せず通い続けるよう努力しているが)
(4)偏差値が低い学校は、中退者が非常に多い。
 形式的には「転校」になる生徒も含めた中退者は、同じ偏差値でも高校によって(または、その学年によって)大きく異なる。大ざっぱな人数は、こんな感じである。
 偏差値55以上の学校は、中退者はごく一部である。学年で2人〜5人程度である。
 偏差値45〜50の1学年200人程度の高校で、中退者は5〜10人程度、あまり多くない。
 偏差値40前後で1学年160人程度の高校では、中退者は20人くらいで10%を越える。
 偏差値35前後で1学年120人程度の高校では、中退者は30〜45人人くらいで、30%を越える学校も珍しくない。

C中退&不登校の後
 大学を卒業しても、簡単に就職できない時代だから、高校中退者、不登校を続けてきた生徒の将来は、明るいとは言えない。
 ではお先真っ暗かというと、必ずしもそうではないと思う。個人的な考えを以下に書く。
 「中退&不登校」の生徒といっても、2種類いる。
 ひとつは「好き嫌いはあっても、好きなものには積極的に熱中できる生徒」だ。勉強は嫌いでも、好きなものをしている時には努力をいとわない人である。たとえば、テレビゲームに夜中まで熱中して朝起きられなくなって中退した人なら、テレビゲームには非常に詳しい。テレビゲームを作る仕事もできるかもしれないし、ゲームショップの店員としても知識豊富で客の相談に乗ることができて重宝されるかもしれない。同様にして、爪に模様や絵を描く「ネイルアート」に凝った人なら、それを仕事にして一定の収入を得ることができる。
 こんな話を聞いた。高校で意欲に欠ける生徒の半分は、何をしても手抜きだが、半分は必要性を納得すれば努力を苦にしないと。たとえば遅刻の常習者の半分は、遊びでも遅刻して緊張感がない、しかし半分はアルバイトには絶対遅れず、38度の熱が出ても必死になってアルバイトに行くのである。「そこまでしてバイト代を稼ぎたいか?」と聞いたら「いや、カネじゃなくて、自分がサボったら3人でする仕事を2人でしなくてはいけないので、他のスタッフやお客さんに迷惑がかかる」と言うのだ。確かに学校では基本的には40人の中の1人だから、手を抜いても他人に迷惑はほとんどかからない緊張感がない場である。必要とされていると納得すれば、自分で判断して、努力ができるのである。こんな生徒なら、中退しても、時間はかかるが何とかやっていける可能性が高い。
 もうひとつは、「何をするのでもエネルギーに欠ける生徒」だ。テレビゲームをしても、クリアできないと途中で放り出してあきらめる、好きな歌手(アーチスト)は別になくて友達が浜崎あゆみのファンになったら自分も合わせてファンになる程度、というノリだ。高校中退しても、好きなものに熱中できる生徒なら、自分に向いた職業を探せば立派にやっていけるが、何をするのにもエネルギーに欠ける生徒は正直言ってきつい。一度中退&不登校となると、復帰が難しいように思える。エネルギーに欠ける生徒は、不登校・中退・留年せずに、何とか高校を卒業したい。

D不登校向けの施設
 不登校の生徒向けの「学校」は様々な形で存在する。
(1)公的なもの
市区町村の教育委員会が、不登校の生徒向けの指導を用意していることがある。学校単位の保健室登校以外にも、心理学のカウンセリングをしているところ、勉強が遅れないように対応しているところがある。
千葉県には「千葉県子どもと親のサポートセンター」もある。(ホームページもありますが、リンクの制限がありますので、ヤフーなど検索サイトで「千葉県子どもと親のサポートセンター」と検索してください)
(2)学習塾に近いもの
 不登校の生徒向けの学校がある。中学生と高校生向けのクラスが比較的多い。「細かく授業態度を注意されてウザイ生徒」向けの自由な学校と、「先生が態度悪い生徒を叱っているのを近くで見ているだけで体が震える敏感な生徒」向けの規律ある学校がある。
(3)地域の民間施設
ボランティアやNPOが運営する施設もある。

Eおまけ
 私は学生のときに、高校中退など学校になじめない若者の溜まり場に毎月のように通っていた。代々木にある「青生舎」という場所で、内申書に悪いことを書かれて高校に不合格になった保坂展人(後に国会議員にもなった)を中心に、個性あふれる人が集まっていた。
 その中の1人に、高校中退で通訳をしていた男がいた。高校では勉強が面白くないので中退し、英語は得意でなかったけどアメリカに渡る。文法には詳しくはないが、日常会話はペラペラになって、日本に戻り、通訳も行うようになっていた。
 彼が日本の役人を、フィリピンの山奥に経済援助をするための視察の通訳として雇われ同行することになった。彼がマニラから山奥の空港に行く時に、空港の窓口で、こんなことを言ったそうだ。「こちらにおいでの方々は、あなたの国々の経済発展を願って現地視察をしようという日本のお役人様だ。あなた方の国に貢献しようという方々から、まさか航空運賃を請求するなんてことはしないよな!」 ・・・当然係員は断るが、身分証明書も見せて、責任者を呼びつけ粘ること2時間!! 粘った結果、何と『大幅割引』で乗れることになった。(タダにしたこともあったそうだが。ホントかな?)  仕事が終わって役人ご一行と別れる時に「次もぜひ頼むよ」と言われたとか。 役人ご一行様の中には、有名大学を卒業した人も多く英語にも堪能な人が多いはずなのに、得体の知れない通訳を頼むのだから、笑ってしまった。
 こんなエネルギー溢れる若者は、少なくなってきていると思える(特に男子)。挫折した後に再起するのには、エネルギーが必要なので、できることなら高校だけは卒業しておきたいと思う