学習塾とのつきあい方〜中学入試編〜
中学受験をするなら、学習塾の利用は欠かせません。学習塾とうまくつきあう必要があります。学習塾との様々な付き合い方をご紹介します。 かなり過激で個人的な意見が混ざっていることを先にお断りしておきます。

その@ 愛想が良くなくても、あまり気にしない
 学習塾は、家庭から料金をもらって指導をする「サービス業」です。
 しかし、塾は他のサービス業とは事情が異なります。多くの塾ではサービス業とはいえ、あまり保護者に愛想よく応対しない先生がいます。これは、「専門職であるという自信」であったり「医師は必要以上にニコニコしない、塾講師も同じだというプライド」であったりします。
 多くの塾講師は、必要と判断すれば、残業手当が出ないのに遅くまで残って指導するのも嫌がらないものです。しかし、客商売の経験に欠けるので、腰を低くして顧客と接する経験が必ずしもありません。「プロ意識」は、指導面では十分あっても、保護者への応対面では欠ける傾向があるのです。
 もちろんサービス業ですから、お客様に気分良く快適に過ごしてもらうのが本来の姿なのかもしれませんが、百貨店と同じような丁寧な接客応対は、あまり望まない方が良いと思います。「笑顔で愛想良く応対しない塾」イコール「悪い塾」という考ると選択肢が狭くなってしまいます。塾側の考えを明確に説明してくれるのであれば、愛想がよくなくても、大目に大目に見ましょう。
 ちなみにガンガン拡大路線を突き進む大手塾は、営業戦略の関係上「保護者は授業料を出していただくお客様」という社員教育が徹底しています。(塾にもよりますが、愛想良い先生が時には「日曜特訓をぜひ追加して受講してください」のような営業マンに変身することがあるかもしれません。)

そのA 塾との距離を縮める
 塾と保護者は、連絡を密にとりあう関係が望まれます。そのための方法として、こんなことが考えられます。
(1)送迎をするなら立ち話・・・・子どもを送り迎えする時には、ずっと車の中で待つよりは、塾の中や入口付近で待つのが良いでしょう。先生から、「漢字テストは毎回平均点くらいですが、熱心に練習しているので、あと2〜3ヶ月先が楽しみですね」などと、わざわざ電話をするほどのことではない話を聞くことができます。
(2)提出所類にメモ書き・・・・たとえば夏期講習の申込用紙を出す時には「志望校は難関校なので、鈴木先生のおっしゃるように特訓クラスを申し込みます。少々不安もありますが、何とかついていけるようご指導下さい」とメモ書きを添えます。こちらの気持ちを伝えると同時に、塾側にプレッシャーをかける効果もある。
(3)電話をかける・・・・「次回の首都圏模試を申し込みをするか相談」「時間外に指導してくれた御礼」など毎月1回くらい塾に電話したい。ついでに、授業の様子なども聞くことができます。ただし、授業中や会議中でも、保護者から電話がかかってくると中断して電話に出る塾もあるので「今、お電話大丈夫ですか?」などと確認してから話すことをおすすめします。
 中には毎月1回は用事がなくても電話をする塾もありますが、これは「気を遣ってくれてありがたい」と感じる人と、「形式だけで、うっとーしーな」と感じる人に分かれます。

そのB 保護者が詳しい教科
 保護者が文学部国文科を卒業していれば、並みの講師より国語力はあると自負しているでしょう。その場合、国語の先生とは、どう接していけばよいでしょうか。
(1)子どもには「お母さんは国文科で出て自信はあるけど、教えるのは国語の先生の方が慣れていて上手いから、よく授業を聞いてきなさい」というスタンスが良いでしょう。
(2)保護者の専門の教科を教えるなら、「難しい分野、興味をひく分野に限定して説明」か、「疑問点が出たら質問に答える」のが良いでしょう。教科内容を一通り教えたくなりますが、塾と重複します。慣れていないと中学受験に必要ない知識も教え込んで負担になることもあります。
(3)指導内容に疑問があっても、受験の世界では別の教え方をすることがあるので注意。
小さなことで先生に指摘したり、両方正しいのに片方でなくてはダメとクレームはつけないでください。たとえば「二酸化炭素は下方置換で集められる」と教えた先生に対し「実際は水上置換で純粋な気体を得るので下方置換は使わない!」と言いたくなるかもしれませんが、文脈によってどちらも正解になりえます。犬の鳴き声「ワンワン」は、参考書には「擬声語」「擬音語」の両方出ていますので、片方は絶対間違えというわけではありません。これは許せないという極端な時以外は、子どもに質問させてください。(保護者が気合を入れて指摘するほど、「なるほどわかりました」と引きにくくなるので要注意です)

そのC これは禁句
 保護者が塾に対して、言ってはいけない「禁句」には、次のようなものがあります。
(1)学力テストを受けなかったから、テスト代を返して
 中小の塾は、「学力テスト小6が20人分」などと前もって業者に申し込みます。受験する人数が減っても、経費はほとんど安くなりません。
 またテストを受けないと、クラス編成や志望校のアドバイスもしにくくなります。勉強の仕方を反省する機会も失われ、成績アップにつなげにくくなります。たとえて言うなら、「血圧や血糖値を測るのはイヤだけど、健康になりたいから、お医者さん、よろしくね」と言っているようなものです。
(2)上のクラスに上がらない
 多くの塾では学力別編成で授業をしています。いつまでたっても上位のクラスに上がれない時に、「相談」ならしていいのですが「追求」はいけません。
 仮に、腕の良い先生が親切丁寧に指導したとすると、全員学力がアップする建前です。全員同じだけ学力が上がれば、上位のクラスには行けません。上位のクラスに上がるには、授業を良く聞いて丁寧に復習するという個人の努力が大きく影響します。
 もし苦情を言うのでしたら、「上のクラスに上がれない」ではなく、通っている教室以外の生徒も受けるテストで「偏差値が伸びない」と訴えるのが良いでしょう。
(3)入塾前に簡単にわかることに対する苦情「1クラスの人数が多すぎる」「合格実績が少ない」
 日能研は1クラスの生徒数が比較的多いのは話を聞いたり見学したらすぐわかります。入会後に「人数が多すぎる」といわれても、塾側は何もできません。
 「おたくの塾から開成中の合格者は2人しか出ていないから不安で」と言われても、合格実績は毎年公表しているものです。合格実績が少ないと指摘されても、塾側は「だったら、なぜ他塾を選ばなかったの?」と腹が立つだけです。
 なお「授業の進め方を改善して欲しい」「オプションの授業が高い」など、入塾前に知るのが難しい点は、伝えても問題はないと思います。
(4)不満なので授業料は払えません
 たいていの中学受験塾は「銀行引き落とし」か「前払い」になっていますが、塾によっては部分的に後払いになることがあります。たとえば9月10月の日曜授業の費用4万円は、直前に申し込んだ場合などは9月中旬に支払うこともあります。ところが9月はじめに塾と家庭が対立して辞めることになったら、後払いになります。「10月は受けないので9月分の2万円にしてほしい」のような交渉の余地はあるかもしれませんが、1円も払わないと主張する保護者がいます。ラーメン屋で、注文したラーメンがまずかったら代金は払わないという発想です。塾側としては、誉められたことではありませんが、残った生徒の前で「授業料を踏み倒して辞めていった」と言いたくなります。(私・ブンブンが教えている塾でも、この半年で2回やられて困ってしまいました)

そのD 面談では、1回に1つチクッと刺す
 塾で面談する時に、保護者はどんなスタンスで臨めばよいのでしょうか。
 「全面的に感謝」では、塾は気分は良いものの、安心して気分が緩むかもしれません。「あれも改善しろ、ここも何とかしろ」では、的確な指摘であれば別ですが、塾側に「うるさい親だな」と思われ嫌われてしまいます。(教室長が「あの親はうるさいから何をしても苦情言ってくるよ。塾を辞めたとしても先生方の責任じゃないからね」などと公言したりします) そこで「感謝して、相談して、1つチクッと苦情を言う」くらいが良いと思います。
 たとえばこんな感じです。「日ごろお世話になっております。先週はウチの子が欠席した社会の補習までしていただいて感謝してます。国語もおかげさまで偏差値が8も伸びてありがとうございます。志望校についてですが、大学の附属を受験校として利用することを考えていますが、問題点はないでしょうか? ・・・・へえ、そうですか、ありがとうございます。最後にお願いなのですが、算数の授業で生徒に問題を解かしている時に、先生が教室の後でマンガ本を読んでいることが度々あるとのことで、子どもが不信感を持っています。教室長から強くご注意願えませんか」
 塾で教える立場からは、「マズイな」と思った点を的確に指摘して、明るく笑顔で「改善願えますか」と言って来る保護者は、「怖い」のです。他の多くの至らない点も、気づいているけど要望してこないのではと思えるので、緊張感があるのです。

そのE 結果でなく指導体制を約束させる
 成績が伸びないので教室長と保護者が面談をすることになったとします。塾側は対策を打ち出すわけですが「偏差値を10上げます」「昭和学院秀英に合格させます」と宣言するのと「計算力強化のために毎週計算問題を解かせて塾の講師が採点します」と約束するのでは、どちらがありがたいでしょうか。
 私は結果より指導体制を約束させるほうが重要だと考えます。
 普段指導しているのですから、現在の弱点は把握しているはずで、志望校のレベルも知っているはずです。その上で、どんな対策をとったら良いかは、教室長でも指導している講師でも考え付くはずです。
 「偏差値を10上げます」とか「昭和学院秀英に合格させます」と約束してくれるほうがありがたいような気がしますが、いくら努力しても成績は確実に上がるとは限りません。成績アップや志望校合格は、約束するのは無謀だと思います。「具体的な鍛え方は決まってないけど、とにかく成績上げるから心配しないでよ」というのは「どんな手術をするか決めてないけど病気は治すから心配しないでよ」と言うのと同じで、不安ではないでしょうか。
 悪質な塾では、「約束どおり合格させるべく頑張りますので日曜特訓を受講してください」などとオプションを多数取らせ、不合格だったら「申し訳ありません」だけで終了します。(更に悪質な塾は「3年後目指してもう一度ウチで頑張ろう」と呼びかけたりします)
 志望校合格のためには、「方法は決めてないけど、とにかく合格させる」ではなく、「合格のために何をするか」を引き出すのが重要です。志望校合格のために何をすれば良いかを、塾の先生を活用して、引き出しましょう。

そのF 他の保護者と仲良く
 大手中学受験塾の教室長が、保護者会の後に嘆いていました。
 保護者会が終わった後に、最上位クラスの保護者は近くのデニーズで情報交換するんだ。その後、『保護者代表』が「社会の授業の進めかたを改善して欲しい」とか「冬期講習の算数の先生は××先生にして欲しい」などと要求してくるんだもの、しんどいよ。
 最上位クラスは、生徒の入れ替えがほとんどなく、保護者も顔見知りになりやすいです。塾に要望をするのでも、保護者が3人でも5人でもまとまると影響力が大きく塾側は無視できません。
 また「開成と麻布、どちらを受けようか迷っている」なんて話を、偏差値40の保護者の前でしたら露骨に嫌な顔をされますが、同じくらいの成績の保護者なら、あまり気兼ねなく話ができます。(小6の夏以降、××君は成績伸びたのにウチの子は・・・もーう、イャ、なんてこともありえますが。)

そのG 先生への電話は、用件も伝える
 相談事があって塾の先生に電話をかける方法ですが、大手塾でしたら電話に出た事務員に、相談したい先生の名だけでなく、大まかな用件も言うのが無難です。たとえば「渋谷幕張中の学校説明会は、かなり混雑するそうだが、開始30分前に着くので問題ないか」を尋ねたいのでしたら、「小6の藤原紀香の母でございます。学校説明会のことでお聞きしたいことがありますので、小泉先生お願いできませんか。」と言う。
 用件が「学校説明会」なら、会議中などで手が離せない時は、「折り返し電話します」と対応しやすい。
 また他の先生でも、回答できそうな内容だけに「小泉は本部に出かけていますが、私・安部でわかることでしたらお答えします」などと対応できます。
 
そのH 追加授業を断る時
 志望校の相談にのり、普段指導してもらっている先生が、「追加授業受けてください」と営業マンに変身することがあります。あまり感情的に断るわけにもいかず、困ることがあります。断り方の例を示します。
(1)「料金が高い」「復習する時間を確保したい」というのがよくある断り方です。
「1時間あたりの授業料が2000円というのは対価としては高い」などとあまり理屈っぽくならずに、「いゃー、ウチは普通のサラリーマンですからねえ」と言うのが、角を立てないコツです。社員講師や事務員も、追加授業をすすめるのは本音は「しんどい」と思っているはずです。塾長相手なら、理屈っぽく言っても、問題はないでしょう。
(2)「昨年、日曜特訓を受けた人と受けなかった人の成績の上昇の差を示すデータを出してください」と素朴に言う。直接データはとっていないことが多く、たいていは手作業で出すことになります。(選択授業を受ける割合が高い成績上位生は、簡単に偏差値は上がらないので、あまり明確なデータは出ないことが予想されます)
(3)間違っても「子どもが嫌がるから」と言ってはいけません。その理由なら、先生は子どもを説得しようとします。保護者でも断りにくいのを子どもが断るのは余計な心労になります。

そのI 差し入れ&お歳暮
 大手塾の中には、家庭からの差し入れを原則断る塾もあるようですが、塾によって異なります。基本的に、差し入れの類は、気にする必要はありません。全くナシでもOKです。
 もし何か持っていくなら、日持ちしないもの(ケーキなど)、みんなで分けられないもの(ネクタイなど)は、持ってこられると困ってしまいます。小袋に入った「おせんべいの詰め合わせ」、「200mlのジュース20本セット」あたりは歓迎されるようです。
 ただし、最も重要なのは、いくら差し入れをしても、最低限の保護者としての対応をしていないと、差し入れの意味は全くないということです。夏期講習のコース希望票を提出する期限に遅れる、欠席の補習を頼まれて時間をとったら「こめんなさい、休みま〜す」では、逆効果です。授業前に予約してあった保護者面談に30分遅れて「今買ってきました」とお菓子セットを差し出されても、力が抜けます。差し入れをする心遣いがあるなら、もっと別のことに気を配ってくれよ」と言いたくなります。

そのJ 退塾する時
 「成績が上がらない」「指導体制に不満がある」などで、塾を変えようと思う時には、できる限り穏便に移りたい。塾への対応プラスアルファを案内します。
(1)最後のお願いを試みるのも良い
 現在通っている塾の問題点が解消されれば通い続けたい場合、最後のお願いをする方法もあります。問題点が1つだけなら「ウチの子は××先生だけ苦手なので、クラスを変えてくれれば問題なく通えます。クラスの変更は無理ですか?」などとお願いすると良いでしょう。
(2)迷ったら、退塾する前に他塾を探す
 中学受験で合格実績がある塾は、限られています。塾を一旦辞めた後で、適当な塾がなくて戻るのは、生徒も保護者も塾側も気分の良いものではありません。そこで、他にどんな塾があるかを調べておいて、「少なくとも現在通っている塾よりは良い」と感じれば、退塾する決断がしやすくなります。
(3)感情的にならずにやめる
 今までの不満をぶちまけたいという思いもわかりますが、冷静に退塾しましょう。「心機一転、環境を変えてがんばります。市川中の入試当日の朝に、先生が激励に来ていたら、握手を求めにいきますので」とでも言いましょう。塾業界はけっこう狭く、特に中小の塾は他の塾長と情報交換をひんぱんにしていることがあり、「偏差値45で渋谷幕張に絶対入れてくれ、だけど日曜授業は受けないという親がいて、ケンカしてやめていったよ」と他の塾長に愚痴ったら、「あ、おそらくウチに来週体験指導に来る生徒だ!」などと伝わることがあります。
(4)新しい塾には早めに
 6月から別の塾に移ると5月20日に決めたとします。新しい塾から「5月中から来ていいですよ」と言われたら、新しい塾にすぐ移った方が無難だと思います。あと少しで辞める塾で勉強しても、気分的にスッキリしないでしょう。こだわりがないなら、授業料が一部ムダになってもパッと転塾することをおすすめします。
(5)一番大切なのは、子どもの気持ち
 子どもにとって塾を辞めて別の塾に移るのは、かなり不安になるものです。「友達や先生と別れるのは嫌かもしれないけど、合格するために、より適した塾に移るんだ。」と子どもに説明するのも忘れずに。

そのK 「卒業」してから
 私立中学に入ってからも、塾を利用できます。
(1)「短時間の質問」・・・自力では解けない問題を、塾の先生に質問に行くこともできます。先生にとっては、卒業した生徒が制服を着て質問に来るのは、うれしいものです。進学した私立中の様子を生徒を通して聞けますので、情報面でもありがたく思えます。もっとも、授業の合間に教えるので、数多く持っていくのは遠慮したいのですが。
(2)「保護者の相談」・・・保護者が、学校には相談しにくいことを相談する相手として、適当な場合があります。たとえば、「部活と勉強の両立が難しいので部活を辞めた方が良いか」「校風が合わないので高校は他校受験を考えた方が良いか」「いじめられているが学校にどう伝えればよいか」などは、中学には相談しにくいものがあります。塾なら、いじめの対応などでは限界はありますが、中学に訴えるべきかどうかくらいの参考にはなると思います。

そのL塾長の特徴
 中小塾の塾長には、いろいろなタイプがあります。長所などは、このパターンにあてはまらない人も多いので、こんな傾向が一部で見られるという程度です。何系が良いとか悪いということは特にありません。
 種類  説明 代表的な長所
脱サラ系 サラリーマンをしていたが、生きがいを求めて開業するパターン。 フランチャイズなら、本部の支援も期待できる。
オーバードクター系 大学院を出たが、適当な研究職が見当たらずに、一般企業へは年齢制限で困難。そのため学力を生かして塾を開くパターン。 学力は十分あり、大学入試もバリバリ教えられる。
元学生運動系 学生運動をして、大手企業に就職をしなかったパターン。50歳以上に多い。現在も運動に加わっている人は先ずいない。 人を引きつけるエネルギーがある。有名大卒で学力もある。
独立系 大卒後に学習塾で働いている人が、自分で開業したくなったパターン。寿司職人をしていれば、将来自分の店を持ちたいのと同じ感覚。 教えるのが好きで、休みの日も気にせず指導する。
副業系 不動産業など他の仕事をしている人が、塾業界にも進出したパターン。 設備などの先行投資をケチらずに行う。