個別指導で実力up
近頃多く見られる個別指導塾。確実に理解できて効果的な面もありますが、問題点も数多く見られます。効果的な個別指導とは、どんな指導かをまとめました。
その1・個別指導塾が増えた理由
個別指導塾が増えた大きな理由は、「塾側の経営的な事情」と「生徒の側の事情」があります。
今から15〜20年前は、生徒の数が多く、景気が良かったので、学習塾の経営も全体的に順調でした。しかし、当時と比べて生徒が3割4割と減少したにも関わらず、学習塾の数はほぼ変わっていません。通塾率はあまり変わっていませんので、学習塾1軒あたりの生徒数が減少してきました。
生徒数が減ると授業料収入も減り、経営的に苦しくなりました。
そして、クラス授業を成り立たなくなりました。1クラス6人なら、クラス授業は何とか成り立っても、1クラス3人だと、講師の給与を払うと赤字になってしまいます。人数が少ないと、質問はしやすいものの、授業中の緊張感がなくなり、授業のメリットが活かしにくいのです。
更に生徒の側の事情もあります。基礎学力が低下したのに加え、学習する意欲の低下も目立つようになりました。成績が低く意欲に欠ける生徒を一斉授業で伸ばすのは困難です。講師の工夫だけでは、対応しきれません。
そこで登場したのが、「個別指導」です。個別指導でしたら、生徒に合わせた指導ができますし、生徒が少なければ先生も減らせるので、無駄な人件費がかかりません。塾側と生徒側の事情の変化に対応して広まったのが個別指導なのです。
その2・代表的な個別指導の形式
個別指導でよくあるパターンをご説明します。
■指導の形式■・・・1対1の個別塾もありますが、多くの塾では指導料金を抑えるため、1人の先生が生徒2人を同時に教えます。「同時に2人を教える」といっても、二人の生徒に同時に説明することは、まずありません。片方の生徒に説明している間に、もう一方の生徒には問題を解かせるのです。ですから、教える二人の学年が違っても、問題ありません。(同じ学年で同じページの問題を解かせると答が聞こえるので、意図的に違う学年にすることさえあります)
1対2でも、さほど指導効率は落ちないことが多くなります。一定の宿題の解説をして、問題を解かせて説明をするのに、暇をもてあます時間は長くありません。ある程度の力の講師なら、80分教えるとして、5分か10分くらいしかポケッとする時間はありません。1対3ですと、テキストを順番に進めるだけでしたら、指導効率はあまり落ちませんが、前の学年に戻って説明する余裕はなくなります。
■使用場所■・・・使用場所は、塾によって様々です。普通のクラス授業用の教室と机を使う塾もあります。学校で使うような1人用の机を高さ1.5mくらいの仕切りで区切る塾もあります。費用はかかりますが、一人一人が完全個室になっている塾もあります。
■指導時間■・・・1コマの長さは80分から90分の塾が大半です。これは、主な客層である中学生を、「早い時間」と「遅い時間」の2つに分散して、講師と場所を有効活用するのが大きな理由です。1コマ80分でしたら部活がない生徒は6:30〜7:50、部活で遅くなる生徒は8:00〜9:20に散らすことができます。
■教える講師■・・・先生は、学生が中心です。多くの個別指導塾で正社員は、教室責任者のほかには1人いるかいないかです。やや乱暴な言い方を許していただくと、指導経験10年以上のベテラン講師は、理解度が違う色々な大勢の生徒を同時に指導するクラス授業では実力を発揮できます。しかし個別指導では、経験が足りない講師でも、生徒の反応が鈍ければ言い方を変えてもう一度説明するなど、熱意だけでかなり対応できます。個別指導では、教室責任者が研修をすれば、指導経験はあまり大きな差になりません。むしろ先生との相性のほうが大きく影響します。
指導料金を抑えるという点からも、正社員は雇いにくいのです。正社員講師ですと料金は1,5倍から2倍にせざるを得ません。
更に個別指導塾は、入試が迫った12月には毎週のべ30人の先生が必要でも、入試が終わった3月には半分の15人くらいで足ります。週5日働く講師の正社員が2人いたら、12月には他の講師はのべ20人、3月には5人分しかワクがなくなり、力のある講師が安定して教えることができなくなります。
■講師の時給■・・・多くの個別塾の時給は、1000円〜1500円の範囲です。基本的には時給が高いと、力のある先生が確保しやすくなります。
ただし教える立場からは、時給1000円でも、1日4時間教えられれば、一定の収入になりますので、時給1500円の1コマだけよりありがたいものです。
私も塾で応募・問い合わせの電話応対をしていましたが、時給にはあまりこだわらないが応募者が結構います。時給は高いほうがありがたいが、「大学や自宅の近く」「スーツ着用など服装の制限がない」「無給のサービス残業が少ない」「生徒と楽しく冗談言って良い」など他の要素もあります。
もともと個別塾で教えようと考える理由は、「バリバリ稼ぐため」ではなく「面白そうだから」という先生が多いのです。個別塾は1日に長くて4時間ですから、コンビニで長時間働いた方がお金は多く稼げます。
また、時給1500円の個別塾は応募者が多く、力があっても不採用になる可能性が高くなります。重視する条件が「有名大学か」「元気があるか」「指導可能教科の多さ」「高校生も教えられるか」など塾によって大きく異なるためです。ですから、時給が高いと良い講師が多いというのは、半分正しくて半分間違っていると言えるでしょう。
その3・個別指導の長所と欠点
個別指導は、生徒一人一人に合わせた指導ができるという長所があります。
個別指導の長所は、具体的には次の通りです。
(1)進度・・・わかるまで、できるまで繰り返し教えられます。必要なら前の学年の内容に戻って指導可能ですから、落ちこぼれません。
(2)教科・・・希望する教科に絞れますので、弱点補強に適しています。
(3)日時・・・部活で遅くなる生徒は、遅い時間に指導できます。都合の良い曜日を選んで指導が受けられます。(中学生の英語数学なら曜日を選べても、中学受験の算数や高校生の化学になると、曜日が限定される個別塾が大半です)
(4)教材・・・使う教材を選べます。高校生や私立中の生徒に目立つ「教科書を使わずプリントに沿う授業」は、プリントに沿って説明することもできます。(1対1指導にしたいところです)
(5)回数・・・クラス指導ですと「英語は週2回」と決まっていたりしますが、1教科を勉強する回数を選べます。
逆に個別指導塾の欠点は、何でしょうか?
(1)料金が高い・・・ていねいに説明してもらえるぶん、人件費の分、どうしても料金は高くなります。
(2)時間が短い・・・クラス授業と比べて、指導時間が短くなってしまいます。同じ長さの指導時間を確保しようとすると、2倍以上の料金が必要です。
(3)教えにくい分野・・・1対2個別では「英単語を発音させる」「大量の宿題を出して説明する」のは困難です。
(4)気持ちの面・・・点数を競い合う相手がいません。振替指導が可能ですので、部活で疲れて明日までの宿題が残っている時に、クラス授業なら「頑張って解こう」となるが、個別指導なら「宿題終わらないから別の日に振り替えよう」となってしまいます。(もちろん、個々の生徒に適した励まし方ができるというプラス面もありますが)
その4・効果的な個別指導
1対1の個別指導は料金が高いのが難点です。料金が高くていいのでしたら、どんな学年・教科・成績の指導でも大きな問題は、ほとんどないと思います。
問題は1対2の指導です。1対2の指導は、使い方を間違えると、クラス授業より効果が薄い指導になってしまいます。1対2の指導は「1人の生徒に説明している間に、もう1人の生徒に問題を解かせる指導」です。ということは、1対2の指導を効果的に成り立たせるためには「半分の時間を、問題を解くのに使える」のが条件になります。
学校の古典のプリントが理解できない場合、「隣の生徒を教えている間に解いてね」と指示できる問題は、ほとんどありません。教科書でしたら準拠した問題集は売られており、数学や英文法でしたら類似した問題集はあります。しかし、教科書から離れた内容ですと、問題集はありません。
英語の穴埋め問題で、10問中6問正解したのでしたら、残った4問を説明する時間はあります。しかし、問題の意味が理解できない場合は、問題を解く前にじっくり時間をかけた説明が欠かせません。簡単に正解しませんので、再度丁寧な解説が必要となります。1人にかけられる時間はほぼ半分ですので、待ち時間が非常に長くなってしまいます。
理科社会のような暗記中心の教科では、説明に10分使っても、問題を解くのに2分位しか使わないことがほとんどです。理科社会は、理解度に応じて説明する必要があまりにないので、個別指導のメリットがあまりありません。理科社会は慣れた先生のクラス授業の方が効果的です。
まとめると、次のようになります。
1対2指導に適した指導 | 1対2個別指導に適さない指導 |
@学校での説明に大部分納得していて、得点力をつけるために練習する指導。 A中学生の英語数学、小学生の算数の指導。 →教科書に沿った教材がたくさんあります |
@学校では習わない内容を勉強したい成績上位生 →初めに十分な説明が必要だからです A教科書から離れたプリント類に沿った指導 B十分な説明が必要な理科・社会の指導 |
.. | (^O^)効果的な1対2個別指導 | (T_T)あまり適さない個別指導 |
小学生 | 小学校で習う算数の力をつけるための指導。 | 問題が複雑で長時間の説明が必要な中学受験の指導。 |
中学生 | 中学校の英語数学の授業を理解するのには適しています。特に成績が低迷している人には最適です。 | 中学校では習わない上位の私立高校対策。 理科社会の指導は、十分時間をかけた解説がしにくいので、授業向きです。 |
高校生 | 基本的に高校生は1対2個別はあまり適しません。ただし、「赤点阻止のための苦手強化対策」と「推薦入学を視野に入れた内申点確保」の指導で、基礎を繰り返すなら、大きな問題はないでしょう。 | 大学入試に向けての学力アップ。有名大学合格に向けての指導は、並みの講師では手が出ません。クラス授業向きです。個別指導でしたら、大学受験専門の個別指導塾を選び、高額の料金を覚悟する必要があります。 |
Q:指導する先生が交代することが目立ちます。先生が交代すると、指導がしにくく成績が上がりにくいと思うのですが、どうでしょうか。 |
Q:個別指導の先生は、問題集の解答に頼って教えています。力のある先生なら、解答なしでも教えられると思うのですが。 |
Q:子どもに適した個別指導塾を探すために、2〜3塾に行って説明を聞きたいと思います。どんな点に注意したら良いでしょうか。 |
Q:料金的に1対2の個別指導を受けようと申し込みに行ったら、1対1を強く勧められた。この塾は、儲け主義ではないかと思えるのですが、どうでしょうか。 |
A:時と場合によります。1対2では指導効率がかなり落ちる中学受験や高校生指導で、教室責任者が1対1を強く勧めるのは、儲け主義ではありません。一般的に個別指導塾は、回数を増やすように勧めることは目立ちますが、1対2にするよう勧めることは、あまり聞きません。ただし、成績中位の中学生に英語数学を教える場合は、1対1にする理由は見当たりませんので、要注意です。
逆に要注意なのは、1対1が望ましい「中学受験の過去問指導」や「大学入試対策」を12月ごろに申し込んだら1対2を勧められやすいことです。中学受験や大学入試対策ができる講師は限られていますので、先生が足りないのです。これが1学期なら、新しい先生を募集することもできますが、2月の入試が終わると個別指導を受ける生徒が大幅に減り、「リストラ」の時期になります。2月のリストラ直前に新しい先生の手配は難しいのです。このため、指導効率をある程度犠牲にせざるをえないのです。普通の中学生でしたら別ですが、駆け込みの受講は、先生の手配が難しいので、できる限り10月ごろまでに申し込みたいものです。