過去問を解く
去年・一昨年と過去に出題された私立中学の入試問題を受験生が解くのは、常識になっています。「過去問は解かなくてよい」という先生は聞いたことがありません。非常に重視される「過去問」だが、指導する先生によって、ずいぶん活用法が異なります。そんな過去問について解説します。
【1】過去問を入手する
私立中学の過去問は大きくわけて「学校が配布するもの」と「出版社が販売するもの」の2種類があります。学校によっては一方だけの学校もあります。
. | 学校が配布する過去問 | 出版社が発行する過去問 |
解説 | 多くの私立中学では、昨年度または過去3年分くらいに出題した入試問題を受験生に配っている。 | 声の教育社などの出版社が、過去5年分くらいの問題を編集して書店で販売している。 |
長所 | ★無料または500円程度なので、経済的。 ★実物大で活字まで全く同じのことが多く、入試問題の形式に慣れるには最適。 |
★解答だけでなく、なぜそうなるかという解説も入っているので、家庭で勉強する時には役立つ。 ★4年前、5年前の問題も載っている学校が多い。 ★多くの学校では合格最低点などのデータが載っている。 |
問題点 | ★解答だけで解説がない。 ★4年以上前の問題は載っていないことが多い。 |
★1冊2000円前後で、安いとは言えない。 ★実際は3ページの問題を、1ページにまとめてしまうなど、実物とは配置が異なることがある。 |
【2】なぜ過去問を解くの?
過去の入試問題を解く理由は、大きく分けて3つあります。
(1)合格可能性を探り、志望校決定に役立てる。
2月1日のように、多くの私立中の入試が重なる日に、どの学校を受験するかを決めるのに、過去の入試問題の出来具合を参考にするとよいでしょう。合格可能性は、首都圏模試や四谷合不合テストなどでも判定はされるが、過去の入試問題の出来具合がより正確な判断の材料になることがあります。
たとえば、計算と問題を読むのが速い生徒が首都圏模試で72を取れたとします。桜蔭も女子学院も合格圏内のように思えますが、女子学院は難関校にしては問題がさほど難しくないのに対し、桜蔭はかなり難しいのです。速さと正確さはあるが、難問にくらいつく根性が人並みの生徒だと、「女子学院は合格圏内、桜蔭は絶望的」となります。塾の先生が説明してもなかなか納得しにくいと思いますが、過去問を解くと実感できます。逆に「桜蔭は可能性があるが女子学院はまず無理」という見通しになることも、問題の相性からあり得ます。
このように、志望校決定の参考に過去問が役立つのです。
(2)出題傾向に慣れる。時間配分に慣れる。
どんな問題が出題されるか傾向を知ることも重要です。
千葉日大一中の算数は、途中の式を書く必要があります。こんな学校なら、筆算だけで式を書かない生徒は、式を書く習慣をつけるよう普段から心がけると良いのです。(慣れないと、式を書くのに余分な時間を使ってしまいます)
麗澤の国語には作文が出題されます。特殊な作文なので、イキナリ書くのは困難で、あらかじめ準備する必要があります。どうしても苦手なら、「作文を捨てて、他の長文をじっくり解け」と指示を出せます。
渋谷幕張の算数は、作図が出題されやすいので、作図の練習が必要です。
春日部共栄の理科は、最初に時事問題がらみの「覚えていない人も多い知識問題」が出されます。過去問を解いていれば、「あ、今年もややマニアックな暗記問題が出ているな。覚えていないのもあるけど全部覚えている人は少数派なので、気にせず次に行こう」と安心して対応できます。
時間配分も重要で、「最後の問題は難しいから捨てても構わない」「大問2が非常に難しい時があるので、飛ばして先に進むのも良い」などと考えられます。
(3)受験の意識を高める。気合いを入れる。
6年の秋になると、勉強が長時間になり、疲れてきます。そうすると勉強が雑になる生徒がいます。計算ミスをしても「今は多くの問題を解くのが大事なので、計算を急いだから仕方ない。」と考えるのです。または、「今は偏差値5足りないけど、受かるといいな」と甘い希望的観測を持つ生徒がいます。こういった意識を変えるのが過去問です。現実に「志望校合格まで点数が20点足りない」というのは、受験生にとって大きなショックです。「このままでは合格できない」という現実を目の前につきつけて、意識を高めるのに過去の入試問題は最適なのです。
模擬試験は1か月にほぼ1回ですし、返却まで時間がかかります。「行きの満員電車で気分悪くなった」とか「志望校はこんな難しい問題出ない」などの言い訳もしやすいのです。それに対し過去問は、短期間に何度もできて結果はすぐわかります。
【3】過去問の解き方
過去問の解き方を塾の先生に聞くと、先生によってかなり違いがあります。異論がある方もいると思いますが、ブンブン流の解き方をご紹介します。
(1)時期〜解くのは9月から〜
多くの塾では6年の夏期講習までに、受験に必要な内容を一通り教えます。ですから、6年の6月に過去問を解くと、まだ習っていない分野があり、積極的な意味はないと思います。
6年の9月なら、一通りの内容は教わっている時期ですから、過去の入試問題を解けます。もちろん、9月に合格最低点を超えることはまずありませんので、「今は合格点に達してないけど、これから頑張れば届く! がんばれ」と叱咤激励するのも忘れずに。
「6年の9月に過去問はまだ早い、11月からで十分」と考える先生もいます。6年になってからの駆け込み受験や、基礎がまだまだできていない偏差値40前後なら負担が大きいので別ですが、9月に1校だけでも解くことをお勧めします。これは、11月ごろに成績が伸びなくて精神的にスランプに陥ることがあり、こんな時に「9月だと合格最低点まであと50点だけど11月はあと20点に縮まった。偏差値は下がったけど学力は着実についている。めげずに頑張れ!」と数字を出して励ませるからです。
(2)時間を計り、4教科一気に
過去問は、決められた時間で解くのが基本です。「まだ学力がついていないから時間を長めにしよう」とか「当日は緊張して得点力が下がるから5分短く」というのはお勧めしません。決められた時間で、どのくらい解けるのか、そして時間がなくて捨てる問題はどの程度あるかを実感するのが大切です。時間配分の判断力をつける訓練でもあります。
合格最低点と比べるために、4教科を1日で一気に終わらせる、そうでなくても1週間以内に解くのが、合格最低点と比べられるので解く意欲につながります。国語だけ9月、算数は11月というのは、合格にどれだけ近づいているのかが、ぼやけてしまいます。
解くときは、40分のテストなら40分は続けて解くのが当然です。そろそろ夕食になる時間に過去問を始めるのは避けましょう。もちろん、40分の過去問を解くのに、塾に行く前に20分、帰ってきてから20分というのは、影響が少ない社会科であっても避けるべきです。
最悪なのは、易しそうな計算問題だけ細切れで解くことです。時間配分の感覚をつかめなくなってしまいます。
(3)複数の年度をまとめてやらない
過去問は、どうしても第一志望校に取り組みたくなります。9月10月に第一志望校4年分を一気に全部解いてしまうのは、不適当です。4年度分を一気に解かずに、「9月10月は平成17年19年を解き、11月12月には平成18年20年」というように残しておきましょう。2回入試をして過去4年分の過去問がある学校なら8回解くわけですが、9月10月には他の併願校も解くのがお勧めです。
これは、第一志望校はどうしても9月の実力では歯が立たないことが多いので、かなりの負担になるからです。問題が難しく、合格まで程遠い点数を何度も取っては、精神的に非常にきついのです。絶望的になり受験が嫌になりかねません。問題が易しくて合格最低点に近いことの多い併願校の方が、無理なく解けるものです。
何か月に分けて解けば、調子の良し悪しはあるものの、合格最低点に近づいているという感触はつかめるので、意欲を出しやすくなります
(4)二度目は間違えたところだけ
なかには「過去問は3回繰り返しなさい」という先生もいます。私は無謀で非現実的な指示だと考えます。
この「ちば進学案内」をご覧の方は、千葉県民または千葉の私立中を受験できる地域にお住いでしょうから、都内と千葉を併願すると5〜6校の受験が主流と思います。仮に受験する私立中が5校、そして1回目2回目の入試を2回する学校で、過去5年分を解くとします。5校×2回×5年分=50になります。
9月から1月の20週に分けるとしても、毎週2.5回の過去問をすることになる計算です。さらに、1教科解くのに35分、解説を読んで納得して軽く復習をするのに25分かかると1教科1時間、4教科国算理社で4時間、2.5教科で10時間になります。ただでさえ塾の宿題が多い6年の秋に、毎週10時間かけられますか? 過去問を1回だけ解いて復習するのに毎週10時間かかるのです。3回解けるのは、志望校が1校か2校だけの生徒でない限り無理です。
要するに、時間がないのだから、一度解けた過去問を何度も繰り返すよりは、他の問題を解いた方が力はつく、そして、もし気になるなら間違えた問題だけ解きなおしするだけで十分ということなのです。
(5)解答用紙を準備
解答用紙は過去問に欠かません。ノートに過去問を解くのは、できる限り避けたいのです。
たとえば、説明を求める問題では、「30字程度」などと時数の指定がない時は、やはり解答欄の大きさが目安になります。また、「3月・9月の南中高度を答えなさい」という問題では、3月と9月を別々に答えるのか一緒なのか解答欄を見れば一目瞭然で、答え方を間違えることはありません。 解答用紙がどうしてもなければ、保護者が作るのも一つの方法です。
(6)問題に書きこむ
入試問題は、問題用紙に書き込むのが鉄則と言えます。算数なら計算はもちろん、図形の補助線を書き込みます。国語なら、接続詞の穴埋めには「しかし」などと選んだ言葉を入れる(他の問題を解くために読むときに、同時に見直しができる。)
ところが、「あとで2回目も解く」という感覚で過去問に取り組むと、何も書きこまない生徒がでてきます。書きこまないと、数字を覚えながら次を考えることになり、脳ミソがパンクしてしまいます。とにかく、どんどん書き込むべきです。
過去問は、紙が丈夫なら、かなり力を入れて鉛筆で書き込まなければ、消しゴムで消せばもとに戻ります。どうしても気になるなら、コピーした問題を使って、派手に書きこむのが良いでしょう。
【4】過去問のQ&A
Q:模擬試験では偏差値が6足りなくて、合格可能性が20%です。しかし過去の入試問題は点数が取れて、まだ6年の10月なのに2年度分解いて2回とも合格最低点を超えています。合格できると考えていいのでしょうか? |
Q:過去の入試問題を解くのが重要なのはわかりました。では声の教育社の過去問を買うのは、いつごろが良いのでしょうか? |
Q:発売されている過去問の解答に納得がいきません。間違っているような気がするのですが、本当に間違えはないのでしょうか。 |