「大羽!」
「んあ?」
「私これがいい」


そう言って指し示したDVDのタイトルを見て、大羽はつまらなそうに首を振った。


「ワシの好みと違う」
「大羽の好みなんか聞いてないでしょ!私が見たいんだってば」
「恋愛物なんぞかったるくて見ていらりゃぁせんわ」
「もー!そうやっていつもアクション物に決めちゃうんだから。たまにはこっちの趣味にも付き合ってよ」
「ちっ、仕方ないのう……」


いつものことだけど、彼は言葉にするほど心底から嫌がってる訳ではない。
その証拠に、こうやって押せば結構言うこと聞いてくれる。
私が手を伸ばすより先に、大羽はそのDVDを棚から取ってそのまま店の奥に進んだ。
その後を追っかけていくと、新作の棚で人気の高かったアクション映画のパッケージを手に取ってこっちを振り返る。


「もう一本はこれでかまわんか」
「いいよ」
「そんじゃ行くぞ」


カウンターでレンタル料金を払って、二人並んで店を出て。
向かうのは大羽の住んでいる官舎。
もうすっかり歩き慣れたその道の途中で、大羽が前触れもなく口を開いた。


「……お前な、こういうのを見たけりゃぁ、いい加減男作ってそいつと見ろ」
「……いいじゃん、別に」
「付き合わされるワシの身にもなれっちゅーとるんじゃ」
「すいませんね。男っ気のない生活送ってるもんで!」


いつもと変わらない、憎まれ口の応酬。
本当は、もっと別の話がしたいのに。




―――他の男となんか、見たいと思わないよ。
あんたとだから、あんたと一緒に見たいから、選ぶんだよ。




簡単に口に出来そうなものなのに。
どうしてか、いつも言葉は声にならずに終わる。


そうして『友達』のポジションから動けないまま。
今日も私は彼の隣で、ブラウン管の中の作り物の恋愛を見つめる。








05/04/08〜05/05/26 Web拍手にて公開
05/05/27 再公開