嘘の吐き方
「……彼女にメール?」
「えっ、ええっ!?」
不器用な手つきで一心不乱にボタンを叩いていた手が止まる。
瞬時に真っ赤に染まった顔を見て、失礼だとは思ったけど、堪えきれずに思わず吹き出してしまった。
「神林君って結構マメなのね」
「ちっ、違いますっ!ユリちゃんは全然、かっ彼女とかじゃなくて、ともっ友達でっ」
「なーるほど、ユリちゃんって言うんだ」
「あ、うわあぁぁっ」
照れ隠しなのか、単なる天然ボケなのか、聞かれてもいないことまで勢いで口にして、
神林君はユデダコみたいに赤い顔をぺたぺた抑えて呻いた。
他のひよこ君たちが手加減無しにどついたりして、神林君をからかう中、
傍で黙ってお茶を飲んでいたシマが眉間のしわを深くした。
「……随分と余裕やなぁ、神林」
「え。いえっ……!」
「休憩時間にメール打つくらいいいじゃない、シマは厳しすぎよ」
「お前は黙っとれ」
「気にしないで、神林君。今ね自分は彼女とケンカしてるから僻んでるのよ」
「えっ」
「余計なこと言うなアホ!!」
怒鳴るシマを放って、神林君の隣に腰を下ろして、手の中の携帯を指差す。
「メール、続き打たなくていいの?」
「あ、は、はい」
「……彼女、可愛い?」
「えっ、えーと……はい……」
小さな声に反して大きく深く頷いた神林君の横顔に、ちくりと胸が痛んだ。
……どんな子なんだろう『ユリちゃん』。
きっとイイコなんだろうな……。
ぼんやりしていた私に向かって、不意に神林君がにっこりと屈託ない笑顔で言った。
「――さんは」
「……え、あ、な、何?」
「好きな人とかいないんですか?」
訊いてから、柄にもないことを訊いた、とまたしても真っ赤になった神林君の横で、
私は本心を押し隠して、にっこりと笑ってみせた。
「……残念ながらいないんだなぁ。彼氏も、片思いの相手も」
「あっ、すいません、変なこと訊いて!!」
「気にしなくていいよ」
そう言って笑うと、神林君はすいませんっ、と勢いよく頭を下げてテーブルの角におでこを強打していた。
叶わない恋とわかってても縋りつく、そんながむしゃらさは失って久しい。
失ったものの代わりに得たのはなんだろう。
恋をするたび、嘘ばかり上手くなる。
05/05/27〜05/07/31 Web拍手にて公開
05/08/01 再公開