雷の夜
小さい頃から苦手なもの。
虫、爬虫類に両生類。お姉ちゃんのお小言、雨の日、それから。
「〜〜〜っ!」
月も星も見えない暗い色の空に、ピカリと金色の光が閃く。
小さな店の軒先は、雨は辛うじて遮ってもその光までは遮ってくれない。
バッグを胸に抱え込んで、私はその場にしゃがみ込んだ。
「ひゃっ……」
続けて光った空に轟いた音に首をすくめてぎゅっと目を閉じる。
雷は嫌いだ。虫よりも、お姉ちゃんのお小言よりも。
何でこんな日に遊びの誘いに乗っちゃったんだろう。
おかげでこんなところで怯える羽目になっちゃって。
今更考えても仕方ないことに思いをめぐらせる私の頭上で、無常にも雷はまた一段と激しく轟いた。
「きゃあっ!」
「―――何やってんだ、お前」
その場に縮こまる私の頭上で、雷とは違う別の声が響いたのはその時。
振り仰いだその先で、大きな傘をこっちに差しかけている背の高い人影。
「―――バネちゃん!」
「なーに縮こまってんだ、情けねーなぁ」
「う、うるさい!しょーがないでしょ、怖いんだもん、雷!」
「だったら何でこんな時間にこんなとこにいるんだよ」
「友達に誘われてカラオケ行った帰りに、いきなり降られちゃったの!」
「自業自得じゃねーか」
仕方ねーなー、と呟いたバネちゃんの、傘を持ってない方の手が私の二の腕を掴む。
まるで重さを感じないように軽々と私を引っ張りあげて。
大きくて暖かい手のひらがしっかりと私の肩を包み込んだ。
「おら、行くぞ」
「い、行くって……きゃあぁっ」
「いちいち喚くなよ、雷ぐれーで。家まで送ってやっから、しっかり歩けよ」
いちいち悲鳴を上げる私を、ほとんど抱きかかえるようにして、バネちゃんは家まで連れ帰った。
ただの幼馴染だった人が恋の相手に変わるのは
こんなにも簡単なのことなのかと、しみじみ思った雨の日の夜。
05/04/08〜05/05/26 Web拍手にて公開
05/05/27 再公開