じれったいヤツ
「行った……?」
「行ったぞ」
ホッと息をついた瞬間、肩越しにこっちを振り返った南は、私よりも大きな溜息をついた。
「いい加減、逃げ回るのやめたらどうだ?」
「……逃げるのやめてどうしろって言うのよ」
潔く彼女らのリンチを受け入れろとでも言うの?と言って睨みつけると、
南はそうじゃなくてだな、ともう一つ溜息をついた。
「ちゃんと話し合って誤解を解けばいいんじゃないのか?」
「それが出来たら苦労はないのよっ!!」
「千石も引っ張り出して連れて行けばいいじゃないか」
「あいつが素直にくっついて来る訳ないじゃない!!」
それどころかくっついてきたが最後、余計に話をややこしくするに決まってる!
そう力説すると、南は返す言葉を無くしてうーんと唸った。
「……確かに話を混ぜっ返して面白がるくらいのことはするだろうなぁ」
「……あんにゃろー、今度亜久津に加勢頼んでボッコボコにしてやる……!」
「……頼むからやめてくれ……」
私の肩をぽんと叩いて、南がすごい真剣な顔で言う。
これ以上問題増やすなと言いたい訳ね、問題児揃いのテニス部部長様としては。
千石や亜久津の所業に日々胃を痛めてるのを知ってる身としては、そう言われるとねぇ……。
「わかったわよ、ボコるのはやめとく」
「マジで頼むよ」
「じゃあ、その代わりにこれからも庇ってよね、千石ファンの魔手からさ!」
「まぁ、そのくらいなら……」
腕を組んで頷いた南の横で、私はふと今思いついたかのように、その言葉を口にした。
「……何ならさ、南、私と付き合っちゃわない?」
「い、いきなり何だ唐突に!!」
「彼氏作っちゃえば、千石と付き合ってるなんて誤解も解けるかなーって」
「あ、ああ、そういうことか……」
広いおでこまで真っ赤にして、落ち着かなさげに視線を彷徨わせる南は、なんとも可愛かった。
実は本気で言ってたりするんだけどなぁ。
追っかけてくる千石ファンから隠れるだけなら、別に南じゃなくたっていいんだよ。
背後に隠してもらうだけなら、亜久津や東方の方が背もでかくってクラスも近い。
なのにわざわざ南のとこまで来てるのは、あんたに会いたいからなんだよって。
多分、ちゃんと言葉にしなきゃ、一生こいつは気付いてくれないんだろう。
そろそろ潮時かなぁ、なんて呟いた私の顔を見下ろして、鈍感な私の想い人は不思議そうに首を傾げた。
05/05/27〜05/07/31 Web拍手にて公開
05/08/01 再公開