唐突に告げられた『終わり』の言葉に、返せる言葉なんていくつも持ってはいなかった。

「……何、それ」
「東京ば行くことになった」

単調に繰り返される台詞からはどんな感情も読み取ることが出来なくて、
私はどんな顔をしていいかわからなくて、結果笑った。

「何の冗談よ、それ」
「冗談じゃなか。もう荷物もあらかた送ったけん、一週間後にはこっちば発つ」
「……東京って、何で」
「トッキュー基地に配属になったばい」
「トッキュー基地……」

何度も聞いたことがある固有名詞。
メグルが消防から海保に転職するきっかけになった人がいるところ。
いつか絶対トッキューに行く、と何度となくメグルは言っていた。
私も頑張ってって応援していた、けれど。
でも。

「……なんで、もっと早く言ってくれなかったの?」
「何でって」
「もう荷物送ったってことは、ここ二、三日の間に決まった話じゃないんでしょ?
 どうして、話が決まった時点で言ってくれなかったの!?」
「そいで何かが変わるとか?」
「え……?」
「いつ言おうが、俺がトッキューに行くこつに変わりなかやろ?」

メグルの声は、まるで温かさが感じられない。
目の前にいるのがまるで同じ顔をした、別人のように感じられさえした。
この人は誰だろう。
私を好きだといって、笑ってくれたメグルはどこにいったの。

「あっちば行ったら、忙しうてそうそう連絡も取れんようになるやろーし」
「……だから、別れようって?」
「そう言うちょる」

どうしてこんな時でも、この人は真っ直ぐに私の目を見るのだろう。
逸らせない強さで。

「……ついてこいって、言ってくれないんだ……」
「どうなるかもわからんとに、そがんこつ言えんばい」

責任取れんしさー、と信じられないほど軽い口調で言って。
今日初めての笑顔を、私に向けた。

「……バイバイ」



歩き去るその後ろ姿を追うことが、どうして出来ただろう。
その決断が私のためだと、最後の笑顔でわかってしまったのに。
殊更に冷たい態度も、そっけない話し方も、全ては私の為だったのに。
どうしてこんな時ばかり不器用なの。
呟いた声に、答えてくれる声はなかった。







05/05/27〜05/07/31 Web拍手にて公開
05/08/01 再公開