小さい頃、虹の端っこを見つけに行こうとしたことがあった。
消えてしまう前に見つけなきゃと思って、虹が出ると一目散に、闇雲に走った。
小さな子供の頃の、バカみたいな夢。
だけど幼いなりに必死に、一生懸命求めてた。
何度失敗しても、周りの大人や一足先に諦観することを覚えてしまった仲間に笑われても。
諦めずに、一途に。それが出来たのは、きっと一人じゃなかったからだった。





あの頃より随分大きくなった手のひらをぎゅっと握り締めると、握り返してくる確かな感触。
しっかり手を繋いだまま、私たちは一緒に誰もいないテニスコートを眺めた。
夏の夕暮れがコートをオレンジ色に染める。
今年、この場所で、六角の夏はあっという間に幕を閉じた。


「……来年も、また一緒にここに来ようね」
「……ああ」


一瞬の沈黙の後、返ってきた答えに迷いはなかった。
真っ直ぐコートを見下ろすダビデの目はいつもと変わらない、力強い光を宿している。
負けた悔しさも辛さも全部飲み込んで力に変える。


「もっと、強くなろうね」
「ああ」
「頑張ろうね」
「ああ」


短い答えは、その何倍も何十倍もの感情を秘めていることを、私は知ってる。
繋いだ手に一層力がこもるのを感じながら、私はそっと目を閉じた。


大切なのは諦めないこと。
諦めずに頑張っていれば、いつかきっと虹の端だって見つけられる。


君と一緒なら、いつか、きっと。









061223〜070516 Web拍手にて公開
070517 再公開