しぶとさも恋のうち
「キーヨー!!」
呼び掛けた声に振り返ったその顔がたちまち強張る。
つられて振り返った他の奴らもぎょっとして目を見開いて。
「危ないだろー!怪我しても知らないぞー?」
「だーいじょーぶだもーん♪そんなにドジじゃないもんねー!」
テニスコートの横に立ってる木の枝に膝を掛けて逆さまにぶら下がって揺れながら
手を振る私に、キヨは呆れ返った視線を投げかけて再度声を張り上げる。
「女の子らしくしないと嫌いになるけど、いいの?」
「えっ、それはヤダっ」
「じゃあとっとと降りといで!」
怪我しないうちにね!と言い捨てて、キヨは私に背を向けた。
腹筋の要領で枝の上に身体を起こして、そこから地面に向かってジャンプして。
ダッシュでユニフォームの背中に向かっていって、
そのまま勢いよく飛びついたらキヨは思い切り前につんのめった。
「っととっとっ!」
「ちゃんと降りたよ!嫌いにならないよね」
「はいはい」
仕方なさそうに頷いてから、ラケットの面で軽く私の頭を小突いた。
「キミも粘るよねぇ。―――散々言ってるけど、多分俺キミのことは好きになんないよ?」
「粘り強さが私の武器だもーん!」
「うん、まぁそれは認めるけどね」
「それに、キヨ今『多分好きになんない』って言ったじゃん」
「……確かにそう言ったけど」
「てことは、可能性はゼロじゃないってことでしょ!簡単には諦められないね!」
簡単に諦められるほど、軽い気持ちで恋してる訳じゃないんだよ、私だって。
胸を張って言った私に、キヨは困ったような、呆れたような、複雑な笑顔を返して。
もう一度ラケットで私の頭を小突いて、小さな声で「まぁ頑張って」と呟いた。
05/04/08〜05/05/26 Web拍手にて公開
05/05/27 再公開