「……その話、ホント?」
「嘘言ってどうすんねん」


カウンターに頬杖ついていた手で、思わず顔を覆う。
シマの向こうで黙々と料理を口に運んでいたタカミネ君も、私と目が合うと
それは厳かにこっくりと頷いてシマの言葉を肯定した。


「刺身の舟盛り丸ごと……」
「しらはの奴らもかなりひいとったわ」
「……そりゃそうでしょうよ。目の前で舟盛りひっくり返されりゃ……」


真田さんの奇行にはかなり慣れた私だって、さすがにそれはビビるわよ。
そう続けた私の呟きに、シマがうんうんと頷き、タカミネ君が深く考え込む。
その時、背後でからからと戸を引き開ける音がして。
問題の人が姿を現した。


「遅くなってすまない」
「お疲れ様です、隊長」
「お先にいただいてます」


手に持ったジョッキを軽く上げて挨拶するシマたちに、小さく頷いて私の隣の席に荷物を置く。
慌ててメニューを差し出すと、一見とても穏やかで理知的に見える目が私を見て。


「ありがとう」
「……いえ」
「隊長、生中でいいっスか?」
「それでいい。すまないが頼んでおいてくれ」
「了解」


シマとのやり取りのあと、一旦は受け取ったメニューをそのままカウンターの上に置いて、
真田さんは洗面所に向かった。
知らず知らずの間に力が入っていた肩を撫で下ろした私を見て、シマがおかしそうに笑う。


「やっぱりなぁ」
「……何よ」
「お前、やっぱり隊長に惚れとるやろ」
「だーかーらー、違うって言ってるでしょ!?」
「いい加減認めろや。まぁ今までのお前の男遍歴からしたら、確かに一番
有り得へんタイプやし、認めたくないのもわからんでもないけどな」
「ちょっと!誤解を招くような言い方やめてよね!私はホントにっ」


言いかけた言葉が不自然に途切れたのは、宥めるように優しく笑うタカミネ君の肩越しに
こっちに戻ってくる真田さんの姿が見えたから。


……あの天然レスキューロボに、私が?……有り得ない。
だけどそう思う心とは裏腹に、今も彼が一歩近付く毎に鼓動は早まる。
それを必死で誤魔化そうと一気にグラスを煽った私を、シマがそれは楽しそうに
タカミネ君は穏やかに笑って見つめていた。








05/03/08〜05/04/28 Web拍手にて公開
05/05/01 再公開