果てることのない思い
耳元に響くコール音は七回目で途切れた。
「……シマ?」
『……何や、こんな夜中に……』
少し不機嫌そうな声音にあくびが混じる。
結構久しぶりに掛けた電話、しかも本人の言うとおりもう大半の人は寝てそうな
こんな真夜中の電話なのに、ちゃんと出てくれる辺りがシマらしい。
耳元で聴こえる声に、堪えきれずに涙がこぼれた。
「……っ」
『……何泣いとんのや』
「ごめん……シマの声が聞きたかったの」
『質問の答えになっとらんわ。―――今、外か?』
私のすぐ横を走り抜けていった車のクラクションを電話越しに耳聡く聞き取ったのか、
不意にシマの声が鋭さを帯びる。
『何やってんねん、女が一人で出歩くような時間ちゃうぞ』
「……うん」
『今どこや』
短く問い掛ける声はさっきまでの眠気などどこかへ吹き飛んだように、明瞭にはっきりと響く。
目の前の小さなアパートを見上げて、私は一瞬だけ躊躇って。
「シマの、家の、前」
『ああ!?』
案の定呆れたような声が鼓膜を震わせて、アパートの一室の電気がついた。
蝶番の軋む音、階段を降りてくる密やかな足音、そして携帯の通話が切れて。
「……アホか、お前は」
「ごめんなさい」
「何しに来たんや、こんなことあいつが知ったら―――」
「別れてきた」
「……何?」
「ねぇ、シマ」
真っ直ぐに私を見つめる目から視線を逸らさずに。
ずっと長いこと心の奥にしまい込んでいたその言葉を囁いた。
「やっぱり私、どうしてもシマでなくちゃダメだよ」
05/03/08〜05/04/28 Web拍手にて公開
05/05/01 再公開