褪めることを前提とした
「……その気持ちが絶対本物やなんて、君以外の誰にわかる?」
穏やかな、だけどどこか遠い瞳に真っ直ぐ見つめ返されて、私は続く言葉を失くす。
反論がないことを別段気にする様子もなく、財前くんは薄く笑って淡々と話し続けた。
「仮に本当やったとして、その気持ちが永遠に続くものやって、自信持って言えるん?」
「それは」
「絶対も永遠も、この世にはないで。殊、人の気持ちに関してはな」
柔らかい口調ではっきりとそう言い切った財前くんの笑みがひどく淋しげに見えたのは、私の気のせいだったんだろうか。
黙り込んだ私を見つめる彼の眼差しは本当に穏やかで、でも同時に深すぎて奥底にあるものを決して見せない。
哀しいほど遠すぎる瞳。初めて会った時から。
でも、それを理由に彼を理解することを諦めたくなくて、言葉にした気持ち。
だけど。
「君の気持ちが嬉しない訳やないよ。ありがとう。でもな」
紡がれる言葉は空虚な優しさに満ちていて、私の心を締めつける。
私が欲しい優しさとは違う優しさ。
でもな、と呟いた彼は一旦言葉を切って、そして僅かに瞳を伏せた。
「俺には、その気持ちが信じきれへんねん」
「……ど、して……?」
「さっきも言うたやろ。絶対も永遠も、この世にはないて」
囁くように言って、財前くんは伏せていた瞳を一瞬閉じた。
その顔が苦しそうに見えたのも、やっぱり私の気のせいだったのか。
その答えは得られないまま、財前くんの言葉は続く。
「一時の気の迷い、酒に酔ったようなもんかもしれへんよ?」
「…………」
「……せやから、ごめんな」
その言葉を最後に、彼は私の前から歩き去った。
零れた涙を静かにぬぐう。
今落としている涙は、自分を哀れむためのものじゃなかった。
本当は信じたいのに信じきれない、あの哀しい人の為のものだった。
061223〜070516 Web拍手にて公開
070517 再公開
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