雨音で、ふたり







灰色の空を見上げて走る私の鼻先にぽつんとあたる冷たい水の一滴。
しまった、と思った時にはざぁっと一気に雨は降り出した。


慌てて近くのコンビニに走り込んで、肩や髪についた雨の雫を軽く払いながら
何となく入り口の方を振り返った瞬間、また一人駆け込んできた人がいて。
見覚えのあるその長身に、私は軽く目を瞠った。


「鳳君?」
「あ……やあ」


同じクラスの鳳君は、柔らかく微笑んで濡れた髪を軽くかきあげた。


「家につくまではもつかと思ったのに、降られちゃったよ」
「私も。しかも止みそうにないよね。仕方ないから、ビニ傘買って帰るかな」
「そうだね」


笑いあってビニール傘のあるところまで行くと、何たることか残りはたった一本だった。
思わず顔を見合わせて。
鳳君はにこりと笑ってそれを手に取ると、私の手にぽんと押し付けた。


「はい」
「え、いいよ。鳳君が使って」
「俺はいいから。女の子が身体冷やしちゃダメだよ」
「鳳君だって、風邪なんか引いたら部活に差し支えるでしょう」


そう言って傘を押し返すと、鳳君は困ったように少し考え込んで。


「じゃあ俺が買って二人で使おう。家まで送るよ」
「え?」
「ね?」


軽く首を傾げて笑う鳳君に、否とは言えず。
その日鳳君は遠回りして、私を家まで送ってくれた。


小さなビニール傘の下に二人並んで。
聴いた雨音は、何故だかとても優しい音楽のようだった。








05/03/08〜05/04/28 Web拍手にて公開
05/05/01 再公開