声だけでわかる愛の深さ
ぎゅっと結い上げた赤い髪は遠目にもよく目立つ。
明らかに違う歩幅の所為で、必死に走ってもなかなか追いつけない
その背中に向かって、私は大きく声を張り上げた。
「阿散井君、おはよう!」
「ん?」
足を止めて、振り向いて。
息を切らせて追いついた私を見て、ほんの僅か目を瞠る。
「誰かと思ったらお前かよ。朝っぱらから元気だな」
「あはは、それっくらいしか取り柄ないし」
「自分で言うかぁ?そーいうことをよ」
隣に並んでだいぶ上の方にある顔を見上げると、少しクセのある笑顔が降ってきた。
少し小バカにしたような、でも目はとても柔らかく和んでいる、私の好きな笑い方。
そのまま二人並んで歩いていく。
昨日の実習のこと、今日提出の課題のこと、他愛ない話に花が咲く。
院までの短い道程。
だけどそんなほんの僅かの時間でも、私にとっては彼と二人で過ごせる、とても幸せな大切な時間。
「何だそれ、マジか?」
「ホントだよー!それで雛ちゃんたらねぇ……」
だけど、唐突にその時間は終わりを告げる。
「―――ルキア!!」
少し先に見えた、私よりももっと小柄な背中に、阿散井君は呼び掛けて。
「わり!またあとでな!」
そう言って私の頭を軽く叩いて、その背中目掛けて駆けていく。
見つめる視線の先、朽木さんに笑いかける阿散井君の笑顔は、私に見せる笑顔の何倍も優しく。
立ち尽くす私の視界から、二人の姿はあっという間に見えなくなった。
―――彼女の名前を呼ぶ、その声だけで。
彼女にはどうしたって敵わないことを、私はいつも思い知らされる。
05/03/08〜05/04/28 Web拍手にて公開
05/05/01 再公開