君と過ごす何の変哲もない毎日が、何よりも大事な宝物。
















本日も晴天なり











にゃあん、と可愛い鳴き声が横から聞こえて。
ゆっくり目を開けて声のした方を見たら、見覚えのある三毛猫がじっとこっちを見てた。


「……あれぇ、ぶーにゃんじゃん……」


なぁーん、とまた一声鳴いて、オレンジ色の斑のある頭をすりすりとあたしの膝にすり寄せる。
腕を伸ばして抱き上げるとさして抵抗もせずにあたしの膝に乗っかって、スカートの上で丸くなった。
ふわんと鼻先をくすぐるシャンプーの香り。
用務員さん、昨日シャンプーしてあげたのかな……。
膝の上に感じるささやかな重みと温みが一層眠気を誘って、あたしはまたゆっくり瞼を閉じた。

そこへ。


「……また寝てるし……」


溜息混じりの囁くような声が間近で響いた。
もう一度目を開けたら、すぐ目の前に色素の薄いやわらかそうな髪が揺れていて。
呆れたような顔でサエがじっとあたしのことを見つめてた。


「……サエも昼寝しに来たのー?」
「昼休み終わり間近になっても戻ってこない彼女を迎えに来たの!……飲み物買いに行ったヤツが何でこんなとこで寝てるんだよ、全く……」
「日差しが気持ちよくって、ついつい……」
「だからって女の子が地べたに座ってうたた寝しない!ほら、起きろって」
「うーん……もー少しだけー……」
!」
「やー、もーちょっとー……」


引っ張る腕を振り払ったら、サエはもう一回溜息をついて仕方なさそうにあたしの隣にとすんと腰を下ろした。
肩と肩が触れ合って、ぶーにゃんの猫シャンプーとは違う、石鹸の香りがふんわり香った。
サエの使ってるボディーソープの匂い。


「―――サエ、今日朝風呂入ってきた?」
「うん?ああ、今朝朝錬なかったからさ」
「ふぅんそっかー、いい匂いー」
「あ、こら!」


ずるずるずる、と壁に寄り掛かっていた背中を滑らせて。
ぽすんとサエの膝に頭を乗っける。振動に驚いたぶーにゃんはあたしの膝からすとんと降りて、改めて芝生の上に身体を落ち着けて丸くなる。
丸まった背中の斑から視線を上に向けると、仕方ないなって表情してるサエの顔が映った。
骨ばった長い指があたしの顔にかかる髪をそっと整えてくれる。
さわさわと触れる指先の感触がとても気持ちいい。


、髪に葉っぱついてるぞ」
「んー?とってー」
「ったく、何でこんな甘えん坊に育ったんだろう、こいつ……」
「サエたちがみんなして甘やかしたからでしょ」
「やっぱりそうか……ちょっと甘やかし過ぎたよなぁ」


そう言いながら長い指であたしの髪をゆっくり梳く。
昔からのサエの癖。
あたしの髪の触り心地が好きだって言って、機会があればこうやって触る。
あたしもサエに髪を触られるの、好き。
昔、もっとサエの手が小さくて、今みたいに骨ばった男の人の手みたいじゃなかった頃から、もうずっと。
優しくあたしに触れるこの手が、とても好き。


「サエ、もっと」
「ん?」
「もっと髪触って」
「言ってるそばから。甘えん坊」
「だって好きなんだもーん、サエに髪撫でてもらうの。気持ちよくって、大好き」
「俺もの髪触るの好きだからいいけどさ」
「需要と供給と言うヤツだね!」
「そんな大層なもんじゃないだろう……」


微かに笑って、あたしの髪に指を差し入れる。
さらさらと髪を梳くその感触が気持ちよくて、あたしはとろとろと微睡んだ。
あー……このままお昼寝第2ラウンド突入といきたいなぁ……。


「あと5分したら起きろよな」
「……まるで人の心を読んだかのよーなタイミングで突っ込むね……」
「お前が何考えてるかなんて顔見れば大体わかるって。腐れ縁の幼馴染を甘く見るなよ」
「この状態に入ったあたしが、そんな簡単に動かないことも知ってるくせに」
「そしたら肩に担いで教室まで連れてってやる」
「えーヤダ!それこないだバネちゃんにやられてものすっごい恥ずかしかったのに!」
「……へぇー?」
「……あっ」


しまった、内緒にしてたのに……!
ぱっと口元を押さえようと持ち上げた両手は、空中でしっかりサエの手に掴まれて。
憎たらしいくらいにきれいに整ってる顔が鼻先が触れそうな距離にまで近付いた。


「どういうこと?」
「ええええええーっと?」
「いくらバネたちでも、簡単にくっついたり触らせたりするなよって、俺言ったよね?」
「……や、その、あれは不可抗力で」
「どう不可抗力だったって?」
「こないだの体育の時間に足捻った時!歩けるって言ったのにバネちゃんに無理やり保健室まで担がれちゃったのっ!」
「あー、あの時ね」


あ、通じたかな?って思った矢先に。
こつん、とサエの額があたしの額にぶつかって。
素早くキスされた。
柔らかい唇はすぐに離れて、鼻先10pの距離でサエがにっこり悪戯っぽく笑って。


「ごちそうさまでした」
「……外でキスすんのダメっていつも言ってるじゃんっ」
「俺の言うこと聞かなかった罰」
「だーかーらー、不可抗力だったって言ってるでしょお?」
「言い訳無用」


ぱっと捕まえてた手を離して、もう一回キスをする。
最後に目の横に軽く唇が押し当てられて、あたしはそのくすぐったさにきゅっと目を瞑った。


「―――お仕置き終わり」
「もおぉぉっ、誰かに見られたらどーすんのよーっ」
「誰もいないよ」


目を瞑ったまんまのあたしの耳に、サエの声と昼休みの終わりを告げるチャイムが飛び込んでくる。


「あーあ、授業始まっちゃったよ……」
「サエんとこ、次何だっけ」
「日本史。は?」
「英語だけど、今日先生休みだから自習」
「何だ、じゃあサボリは俺だけってことになるじゃん」
「そういうことになるね」
「ま、いっか。一回くらいサボっても何とかなるだろ」


に付き合って昼寝でもするか、って声に瞑ったままだった目を開けたら。
サエは空を見上げて、とても穏やかに笑ってた。


「こんな天気がいいんだし、たまには授業サボって昼寝も悪くないかもな」
「絶好のお昼寝日和でしょ」
「お前にとってはいつもお昼寝日和だろ」
「今日は特に絶好ってこと!」
「日差しがあったかいから?」
「ちーがーいーまーすー」


真っ青な秋晴れの空をバックに笑うサエの顔を見上げて口を開く。


「サエと一緒だからでしょ!」
「ふーん?」


あたしの言葉に、サエはとても楽しそうに優しい顔して笑って。
そしてまたあたしの髪をそっと梳きながら歌うように囁いた。






「じゃあ、今日はこのままずっと一緒にいようか」
「6時間目もサボって?」
「HRも掃除もサボって」
「さーんせーい」


あたしも賛成、と言うようにぶーにゃんがにゃーんと鳴いた。
サエと目を合わせてクスクス笑って。
そうして二人一緒にもう一度見上げた空は気持ちいいくらいに青かった。





















・・・・・・・・・・ あとがきのような懺悔のような ・・・・・・・・・・

15000Hitを踏んで下さった都己様に捧げます。
佐伯でほのぼの、とのリクエストでしたが、ほのぼのっつーかイチャイチャ?みたいな……。
しかもなんか中途半端なイチャイチャだし……申し訳ありません都己さん。(土下座)
お受け取りいただけますと幸いです。あ、もちろん都己さん以外はお持ち帰り厳禁ですよ!
最後に、リクエスト本当にありがとうございました!これからも当サイトをよろしくお願い致しますv

04/10/14up