いつでも手を伸ばせば届くところに。
いて欲しいと、そう願うのはいけないこと?
置いていかないで、連れていって。
Keigo Atobe
目が覚めて。
いつもまず確かめるのは隣の温もり。
手を伸ばして触れる。亜麻色の髪はとても柔らかい。
形のいい額と目元のほくろ。シニカルな笑みの似合う唇は、寝ている時は緩く引き結ばれて寝息はとても穏やかで、温かなそれを指先で感じて、私はやっと少し安心する。
大好きな人。
とても大切な人。
ずっと傍にいたくて、独占していたくて、いつも我儘ばかり言う。
他の誰も見ないで。私だけ見て、私のことだけ考えて。
『―――我儘な女だな』
そう言って笑った時の優しい眼差しが好き。
いつもの自信に満ちた、見る人によっては横柄とも傲慢とも取れる彼の態度からは想像もつかないほど、私を抱く彼の腕は優しい。
触れる唇も、囁く言葉も、彼から与えられるもの全て。
とても優しいのに、私の不安は消えない。
ほんの僅かな時間でも離れるのが耐えられない。
彼のいない世界なんか考えられない。
まるで麻薬のよう。
溺れて、依存して、まるで中毒症状。
水がなければ生きられない魚のように、彼なしでは生きていけない。
甘く心を絡めとる。
麻薬のよう。
「―――」
低く艶やかな声が私の名前を呼んで、浅い思考の海から私を引き戻す。
視線を動かした先、柔らかな枕に頬を埋めて、景吾がこっちを見つめていた。
「……起きてたの?」
「今、起きた」
「私が起こしちゃった?」
「別にお前の所為じゃねぇ」
こめかみにそっと唇が押し当てられて、すらりとした腕が伸びて私を抱き寄せる。
背中を撫でる手はやっぱりとても優しくて、でもその手が優しければ優しいほど、私の心に不安を呼び起こす。
―――どうしてこんなに不安なの。
景吾は私と違うから。
私がいなくても彼は揺らがない。
揺るぎないその眼差しで、私には届かない先を見て。
いつか、私の行き着けない何処か遠くまで、私を置いて行ってしまいそうで―――。
だから不安になる。
心を締めつける鈍く重い痛みは、いつまでも消えない。
「どうした」
「……景吾、大好きよ」
「あん?」
「だからずっと傍にいて、約束して」
「相変わらず唐突な奴だな」
「約束、してよ」
呆れたように笑う彼を見つめて駄々っ子のように繰り返す。
小さな子供をあやすように、ひとつ、ふたつ、ついばむような口付けを降らせて。
鋭い眼差しをふっとやわらげて、景吾が笑う。
優しく。優しく。
「お前の望むとおりにしてやるよ」
「約束よ」
「ああ」
もう何度目かわからない、その言葉に、私はまた少しだけ安心して。
彼の腕の中で目を閉じて、優しいキスに身を委ねた。
(05/02/14up)