どんな場所にいたって、真っ先に捕らえる姿。
見つけてしまう、たった一人の。
一等星
「―――ゲームセット!」
コートに響いた審判の声を大歓声が掻き消す。
乱れた髪をかきあげながら観客席の一点に目をやると、そこにいたはずの人影は消えていた。
試合の途中、ゲームの合間に同じところを見た時にはいたのに、と首を傾げながら仲間たちが待つベンチへと戻ると、そこに。
「おっつかれー」
笑ってひらりと手を振る一人の女。
一瞬、ほんの一瞬だけ、俺の表情はいつものポーカーフェイスを崩される。
それに気付いているのかいないのか、は手に持っていた真新しいタオルを俺に放って寄越した。
「勝ったって言うのにクールね。もうちょっと喜んだらいいのに」
「そう見えるか?俺なりに結構喜んどるんやけどな」
「喜ぶって言うのはああ言うのを言うんじゃない?」
そういったが指差した先には、いつの間に起きてきたのか知らんけど覚醒しとる証拠のハイテンションで、勢いに任せて岳人の頭を張り飛ばすジローの姿。
おー……痛そうやんな……。
案の定、ブチ切れた岳人がジローに掴みかかって。
慌てて止めに入る鳳を巻き込んで大騒ぎしているのを横目で見ながら、ポツリと本音を漏らした。
「……俺にあんなん求められてもなぁ」
「いや、あそこまでやれとは言わないけどさ」
もうちょっと表情に出してもいいんじゃないの、と溜息をつく女の頭に汗を拭き取った後のタオルを被せる。
途端に表情を一変させたはタオルの端を掴んで引き下ろし、今ひとつ迫力にかける目つきで俺を睨んだ。
「汗くさーい!何すんのっ」
「くれたもん返しただけやんか」
「返さなくっていいわよ、ずっと自分で持ってなさいよ!もおぉぉっ」
「ところでな、」
「何よ!?」
まだ怒りが収まらないのか語気の荒い返事が返る。
手早くタオルをたたむ細い指の動きに視線を這わせながら、俺はさっきから気になっていたことを訊ねた。
「何でお前ここにおるんや?」
「何でって、アンタねぇ!休みを割いて試合の応援に来てあげた彼女に向かって言うセリフがそれ!?」
「そういう意味とちゃうわ、アホ」
「挙句の果てにアホ呼ばわり!?」
「混ぜっ返すなや。俺の試合中はあっちの応援席におったやろ、前から三列目の真ん中ら辺に。それが何で選手以外原則立ち入り禁止のこっちの席に来とんのやて訊いてんねん」
「跡部が樺地を寄越したの。どうせ見るなら特等席で見やがれって」
「特等席で、て……俺の試合が終わってから移動しても意味ないやん」
「跡部の試合を特等席で見ろってことじゃないの?自分大好き自分一番の跡部のことだから」
「……さよか」
その理由に妙に納得して俺が頷いていると、は綺麗にたたんだタオルをさっきのお返しのつもりか、ぽんと俺の頭に乗せた。
まだ少し拗ねたような色を残した眼差しで、何か言いたげに俺の顔を覗き込む。
頭の上のタオルを取りながらその目を見返す。
俺の視線を受けて仄かに頬を染めたは、それでも視線を逸らすことはせずにゆっくりと口を開いた。
「……ねぇ」
「ん?」
「何で、私がいた席なんか知ってんの?」
「お前の姿が見えたからに決まっとるわ」
「あんだけ人がいる観客席の、しかも同じ制服姿ばっかりの中で何で見つけられるのよ。どんだけ目がいいんですか、この伊達メガネ野郎」
「アホか、そんなんお前……」
「またアホって言ったー!」
「せやから、混ぜっ返すなっちゅーとるやろ」
ふくれたの頬を軽くつついて笑って、そのまま頬をつついた人差し指で差し招く。
不思議そうな表情になりながら、俺の方へ顔を寄せたの肩を抱き寄せて耳元に唇を寄せる。
「あんな……」
「え?」
邪魔したらいかんと言わんばかりに視線を逸らしてくれる部員たちに心の中で礼を言いつつ、俺は他の誰にも聞き取れないように、その耳元にこっそりと囁いた。
言い終わって寄せていた顔を少し引くと。
そこには、さっきよりも頬に走る朱を濃くしたの顔。
目が合って笑いかけると、照れ隠しにへの字に結んだ口元を弛めて、ぼそりと呟くように言った。
「……キザっ」
「ホントのことやで?」
「…………さいですか…………」
「さいですわ」
さっきから周りの部員が視線を逸らしたままなのを幸い、赤い頬に軽く唇を押し当てて。
馬鹿!と言いつつ、まんざらでもない顔のの肩をもう一度抱き寄せた。
『――― 一等大事な女のことは、どんな人込みの中でも一番に見つけるで』
65000Hitキリリクの忍足夢でした!
リクエストして下さった利羅様に捧げます。お待たせしてしまってホントーに申し訳ありませんでした!!
待たせた挙句に何この砂吐きそうな気障忍足!って感じなのですが、お納めいただければ幸いです。
これからも『Nostalgic Sepia』をどうぞよろしくお願い致します!!
05/09/28UP