『愛してる』も『好きだ』も言ってくれなくていい。


君の目は嘘をつかないから。
その目を見れば、あたしにはわかるの。

余計な言葉なんか使わないで。
いつでも真っ直ぐにあたしを見てくれてたら、それでいいから。


不器用で、ぶっきらぼうで、優しい君。
そんな君が好きだから。


























「しーしーどー!」


テニスコートのギャラリーから身を乗り出して、見慣れたその背中に声をかける。
でも実際にこっちを振り返ったのは、その隣に付き従うように寄り添ってる後輩の方。


「あ、先輩」
「やっほぉ、ちょーたろー」
「女テニはもう練習終わりですか?」
「うん、今日はロードワークで終わり。――― 宍戸、サロンで待ってるね」


声に応えるように、右手が上がってひらっと振られた。
背中は向けたままだったけど、あたしは長太郎にバイバイと手を振って部室棟に向かって歩き出した。





















部室で着替えて、副部長と明日の練習の確認をしてから、交友棟のサロンに向かう。
空いてるテーブルに陣取って、今日発売のテニス雑誌のページを開く。
自販機で買った350mlのサイダーが半分くらいに減ったとこで、制服に着替えた宍戸がいつもの仏頂面でサロンに現れた。
こっちだよー、ってあたしが手を振る前にこっちに気付いて、めんどくさそうに歩いてきてあたしの前の椅子にどっかり腰を下ろす。


「お疲れー」
「……、それ寄越せ」
「半分っきゃないけど」
「かまわねーよ」


炭酸の少し抜けてきてるサイダー、一気にあおって缶の中身空にして。
離れたとこにあるゴミ箱に狙い定めて、放る。
きれいな放物線を描いて、青い色の缶はゴミ箱に飛び込んだ。
それと同時に宍戸は立ち上がって、あたしのことチラッと見て。


「おら、さっさと行くぞ」
「ん、おっけー」


立ち上がったあたしが自分の横に並んだの確認して、ゆっくりと歩き出す。
歩きながら、何かのついでみたいにあたしのスポーツバッグ、あたしの手から取り上げて自分の肩に担ぐ。
自分の分とあたしのと二人分の荷物。嫌な顔ひとつしないで、いつもと同じ無愛想な顔で。






これは、あたしだけが知ってる宍戸。
350ml缶の炭酸飲料、実は全部飲めない(だって胃にもたれるじゃん)あたしが残したサイダー、何も言わずに飲んでくれて。
何も言ってないのに、あたしが昨日の練習で手首捻ったこと気付いてて、荷物持ってくれて。
明らかに歩幅の違うあたしに合わせて、ゆっくり歩いてくれる。

わかりにくい、宍戸なりの優しさの表現。
大抵の友達は皆そんな宍戸を知らないから、何であんなのと付き合ってるのモテてはいるけどどこがいいのかわかんないわ好きとも愛してるとも言ってくれない無愛想な男なんて趣味が悪いよならもっといい男ゲット出来るでしょ、と口々に言うけれど。


あたしは宍戸のわかりにくい優しさが好きなの。
無愛想でもぶっきらぼうでも、宍戸が本当は優しいこと、知ってるのは私だけでいい。
趣味が悪いと言われようが何だろうが、あえて訂正してまわる気もない。
ホントの宍戸を知ってるのは、あたしだけだと。
それがあたしの、あたしなりの独占欲。





















特に何を話すでもなく、いつもの道を二人並んで帰る。
いつも寄るストリートテニス場は、今日は何も言わずにスルーして。
行きつけのコーヒーショップで、カフェテラスの端っこの丸テーブルひとつ占拠して、レジカウンターにアメリカーノとカフェモカを頼みに行く。


湯気の立つカップとカップの間に、さっき一人で見てたテニス雑誌を置いて、ヒューイットがグロージャンがロディックが、ダベンポートがウィリアムズがってひたすらテニスの話ばっかりする。
誰それの使ってたラケットが、あの新しいシューズは、こないだ買ったグリップテープは。
ウィンブルドンの試合の話でもテニス用品の話でも、宍戸の表情はさほど変わらない。
――― ぱっと見は。







これもあたしだけが知ってる宍戸。
ああ違った。あたしと、宍戸の仲間(長太郎とかね!)だけが知ってる宍戸。
少しツリ気味の鋭い眼差しを、密やかに輝かせたり曇らせたり。


宍戸の眼差しは、百の言葉よりも雄弁に語る。
好きなもの、嫌いなもの、興味を持ったもの。
楽しい、つまらない、驚き、怒り、喜び、悲しみ――― 愛しさ。






何よりも雄弁なその眼差しが、あたしだけを見つめてくれる時が一番好き。
真っ直ぐに、心の奥まで刺し貫くように。
優しく、熱く、注がれるその眼差しが。

――― あたしを好きだと語ってくれる。
百の、千の、数え切れないほどの言葉なんかいらない。
その眼差しひとつがあればいい。


それだけで、あたしは君に愛されてると、自信を持って言えるから。
だから、宍戸。
余計な言葉なんか使わないで。
あたしを見て。






「……宍戸」
「何だよ」
「大好きだよ」
「…………」


でもね、宍戸。
あたしには君のその眼差しみたいな目はないから。
だからあたしはこの唇で言葉を紡ぐ。
君があたしにくれる無言の優しさと、その眼差しに答えを返す為の言葉を。


「好き」
「……ああ」
「大好き」
「……何度も言うな。わかってるっつの」
「好きだよ宍戸」
「……」






そして君の唇は。

言葉を紡ぐ代わりに、あたしの唇を塞ぐんだ。





















・・・・・・・・・・ あとがき、と書いて懺悔とルビを振る ・・・・・・・・・・

7777Hitを踏んで下さった、美薇様に捧げます。
宍戸夢でヒロインもテニスをやってる、とのリクエストだったのですが……
ヒロインもテニスやってるって設定が全く持って生かせてないんですよこれが!
ダメダメじゃん、自分……。つーか何さ、この似非くさい宍戸……!
しかも名前!一回しか呼んでねーよ!!何が名前変換小説か。あああああ……。
美薇さん、すいません。お待たせした挙句にこんな駄文で(土下座)!
こんなのでもよかったら、是非貰ってやって下さいませ。
あ、お持ちかえり出来るのは美薇さんのみですよ!
最後になりましたが、リクエストありがとうございましたv
これからも何卒宜しくお願い致します。

04/07/09up