最後の夏の日があるとしたら
繋いでいたい掌は一つだけ
さよなら夏の日
提灯が軒を連ねる 夏休み最後の日曜日
毎年 遠い喧騒として 野外コートに 小さく伝わってきていた
目の前に広がる にぎやかな光景に 俺は 目を細めた
… いた
待ち合わせなら そこしかない、と
がはしゃいだ
祭り広場の隅にある 一番大きな木の下で
俺が彼女の姿に気づいた直後 視界に俺をキャッチしたらしい
は
暗闇でも 分かるほど ぱっと 華やいだ 笑顔になり 手を振ってきた
2006年8月27日
―― 3年越しの約束を 俺は果たそうとしている
は いわゆる ”年上の彼女” と称される 俺の恋人って奴で
本人は 年齢差を えらく 気にしているらしいけど
俺の前では 努めてその話題を出さないようにしてくれている
俺が そういう どうでもい常識?を 毛嫌いすること
一般論をかざされることが 苦手なこと
なにより 俺達二人が一緒に居て 心地いいことを 彼女は理解していたし
俺も 改めて 口に出さなくとも 誰じゃない
だから こうして時間を共にするんだと
それは 長く 変わらず 思っている 当たり前の感情だった
すこしだけ 早足で 緩い傾斜を 彼女へと向かう
「こんばんは」 「おう」
本当に来てくれたのね、やった! と
まるで少女みたいな 無邪気な笑顔で
は 俺を見上げてきた
思わず
の頭をくしゃりと 一度 なでると
照れ隠しのように 俺の手を避けようとした
の 反応は予想通り
その掌を すかさず 俺は取り
「いこうぜ」 「うん」
俺達は 共に 歩き出した
「かなり、早く来たのか? どれくらい待った?」
「…んと 3年、かな」
「ったく それを言うなって」
インターハイが終わり 長く頑張ってきた テニス生活も 小休止
進学するにも 就職するにも とりあえず 生活をシフトしなければならない
最後の夏休み しかも ラスト数日で ようやく 晴れて 俺は 自由の身となった
学生の夏休みは 普段叶わないことに 没頭できる
長い人生の中でも 貴重なフリータイム
だけど俺は 中学時代から その殆どを テニスにつぎ込んでいて
高校になってからは 更に 高い目標を定めて 突き進んできた
つまり 世の中のカップルが 海や山や花火だ と 思い出を作る
そんな 当然の時間を 俺は ひとつも
に 残してやれなくて…
同級生達が 遊園地やキャンプ… プランを練るのを 横目に
日々 練習メニューをこなす せめてもの報いにと
毎年 この時期の 夏祭りなら 時間を作れるかもと 誘ってみても
「大丈夫。 友達と遊ぶから」
は 頑として 首を横に振るばかりだった
「なあ」 「ん?」
相変わらず 昼間はカンカン照りの太陽に 体力消耗ばかりでも
日が落ちれば 涼しくも感じる 季節は 確実に 秋へと傾いている
シャツの襟を 掠めていく 風に
ああ 俺の最後の夏休みが 終わるんだなと 漠然と感じる
「寒いか?」「大丈夫よ」
そういや
のノースリーブのブラウス姿は あまり見かけないことに
俺は さっきから なんとなく 感じていた 小さな違和感を確信した
「…今日、めかしてきたんだな」
「え? そ、そうかな」
「ん。多分…俺そういう 女の洒落っ気 あんま わかんねーけど」
…よく似合ってるぜ
一言告げると 「わ、亮ちゃん 顔あかいよ〜」 と ムードをぶち壊すような
からかう声が 聞こえてきて 反射的に 黙れと 俺は 繋いでいた
の腕を 引っ張った
「っきゃ」 「わ」
暗がりで急に体勢が崩れた
は 元来の反射神経の鈍さも手伝い
簡単に 膝から地面に 重心が落ちていく
「ったく」
今度は 思い切り 持ち上げるように
を支えるための ポジションを俺が取ると
それは どうみても 後ろから 彼女に抱き付いてる 頭の悪そうな 年下の男の構図だった
「ちょ! 恥ずかしいよ、亮ちゃん」
「って! どっちがだよ」
恋人同士なのだから その程度の戯れは あって然るべきシチュエーションで
これまでだって ないこともなかったのに
今日のこの今の 状況は なんだか 中学生レベルの 気恥ずかしさ
なのに 俺は どうしても
の背中から腰に回した 両腕を 解くことも
彼女を 離す事も この場所を 動くことさえ出来なくて
… 亮 、ちゃん?
いつもと様子の違う 俺に気づいたのか 心配そうに
は自分の背後を伺ってきた
「悪かったな、3年も待たせて」
「やだな。 あれは冗談。 だって 亮ちゃんテニスで忙しかったし…」
「
は その 本当に不満とか なかったんかよ?」
年上の彼女なら 彼氏のペースに合わせる
それくらいの 懐の深さは見せないと なんて やせ我慢をしていることは
鈍感な俺だって 少しは わかっていたつもりだった
だけど 夏が終わっても 次の夏に向けて また 鍛錬は必要不可欠
努力しか能のない 練習量でしか自信をもてない そんな俺が
テニスと恋愛を 両立させたいなら それは 献身的な恋人の真心がなければ なしえない
「結局は 年の差なんて 関係ねーなんていいながら 俺は…」
それを隠れ蓑にして
に甘えていた
それは 明白な事実
現に 3年以上も付き合っていて 俺は 今の今まで 彼女のラフな格好しか知らなかった
テニスコートに遊びに来るときは こざっぱりしたほうがいいという 彼女の気遣いさえ
さして 大きく 捉えていないから 気づいてやれなかった
の優しさは 他にも沢山あるはず
どうしようもない 情けなさで 俺は
を閉じ込める腕の力を 固めるしかなかった
「私は…幸せだよ? ちゃんと。」
大丈夫? と がちがちになった 俺の腕に やわらかい 指先が触れて
「だから 亮ちゃんの 顔を見せて?」
くるりと 振り向いた
は ものすごく 恥ずかしそうな 表情で 俯いたり 俺を見たり
忙しく 視線を泳がせたあと うん と 自分にタイミングを取るように 頷いた
「まるで 初めて告白するみたいだけど … 言わせて?」
「あ、ああ…」
「私 亮ちゃんが 同級生だったら どんなに楽しいだろうって ずっと 思ってたのね。でも…」
―― きっと 年上でも 好きになってたと思うな
好きな人には 好きなことを 頑張ってほしいし
頑張っている 好きな人を 見守れるなら それが 私の幸せの一つかな と
「うん、多分 そうだとおもう。 よっぽどなのよ。きっと」
だって この私が 一人の人を3年も 思い続けるなんて 奇跡的なのよ、と
は舌を出した
「ならよ…」
「ん?」
「もう3年…待てるか?」
「―― え?」
さよなら 夏の日
さよなら 学生時代
さよなら ――
「夏祭り 一緒に行きたいって 連れて行きたいって 思うのは
だけだからよ … 死ぬまで」
一人前になるまで
にもっと永い約束が出来るまで そんな男になれるまで…
「もっと 洒落たお前も 見てみたいしな!」
そう
の頭を いつものよう 撫でると 掌が覚えている 安堵感で 俺の口元は 自然とほころび
突然のプロポーズもどきに 目をぱちくりさせていた
は 何も言わずに 俺に 一歩近づいた
「宍戸亮、くん」
「……」
「… 幸せにしてね。 待ってるから」
「おうよ。 お前の ”奇跡” とやら 俺が 無限大に伸ばしてやるってな」
俺だって こんなに 誰かを思うなんてことは――
「もう この先ずっと ねーって 断言できるからよ!」
最後の夏の日を 迎えても
繋いでいたい掌は ただ 一つだけ
日に日に なじんでいく 互いの 存在を 抱きしめながら
俺達の季節は 永い未来へと 続いていく
end by まるな
「Nostalgic sepia」 蒼依さま 10万ヒット オメデトウございます!!
とにかく こちらさまに めぐり合えたことに感謝! 大好きです。
これからも 素敵な 夢を届けてくださいね♪
相互リンクサイト『リズムにHIGH!』 まるな様よりいただきました、10万Hitお祝い夢ですv
リクエスト受け付けますよーとのお優しい御言葉にがっつり甘えて、しょっぱい宍戸を!とリクしましたら
見て下さいよ、このしょっぱくってカッチョ良くって可愛さ全開の宍戸!!
もう読みながらどんどこメロメロになって顔が崩れていくのを感じました(笑)。
まるなさん、本当に本当にありがとうございました!これからも何卒宜しくお願い致します!
06/06/27UP