ヴーヴー、って、布団の上、私の直ぐ耳元で携帯が小刻みに震えていた。
薄目を開けると辺りはまだ暗い。
隣の布団にはお母さん、それからお婆ちゃんが寝ていて、そういえば冬休みを利用して家族旅行に来ていることを思い出した。
昨日は家族で紅白歌合戦を見ながら、除夜の鐘を聞いて。
年を越してからも暫く談笑。
いつの間に眠りに付いたみたいだけど、今日の目覚めの時刻、つまり目覚ましをセットした時間までは未だ暫くあるはずだ。
開ききらない目で携帯の液晶画面を確認すると、それはやっぱりアラームなんかじゃなくて。
ハルからの電話だった。
私は直ぐに携帯を手に取り、布団から出た。
乱れた浴衣を直しながらも、足音を立てないように廊下に出て、呼吸を整え通話ボタンを押す。
私が電話に出るのが遅かったんだろう、“あ、”って驚いたハルの声が印象的だった。
だって、この声が今年1番最初に聞いたハルの声だったから。
「ワリ、起こしちゃったか・・・?」
「うーん、まあ」
「わりぃ、また掛け直すわ」
「いいよ。ハルの声聞いたら、目覚めた」
少し空が青味がかって、きっとそろそろ陽が昇ってくる。
それでもまだしんと静まりかえった廊下で、私の声と、電話から聞こえてくるハルの声だけが私の鼓膜を震わせた。
「明けましておめでとう」
「おめでとう」
本当は大好きなハルと2007年を迎えたかったのだけれど、家族で旅行に行くことになっちゃって、そんなの中学生である私にはどうしようもない。
ハルも笑って許してくれたんだけど、それでもきっと一緒に過ごしたいって思ってくれたのは私と一緒なんだ。
それがきっと、ハルをこんな時間に電話させたに違いない。
「ごめんね、日の出参りも初詣も誘ってくれたのに」
「まったくだぜ。お陰で今年も男だらけ」
笑いながらハルがそう返すと、その奥から良く知った声のブーイングが聞こえてくる。
それから微かに波の音が耳に届いて、きっといつも通っている海辺に並んでいるんだろうって思った。
「もう、昇った?」
「いや、まだ。もう直ぐじゃねーかな」
「そっか・・・」
私から見える空も、少しずつ明るくなっていく。
それがなんだか、ハルと同じ空を見ているんだって感じられて、小さな幸せだと思った。
暫く私とハルの間には会話が無くて、それでも私もハルもその電話を切れずに居た。
そしたら、
「わあー」
って、電話の向こうからハルのじゃない歓声が上がって、日の出を私に教えてくれた。
“昇ったんだ?”って問う前に、ハルの声が私を呼んだ。
「ん・・・?」
少しだけいつもより低く聞こえるその声は、電話を介したからなのかな。
今ハルの顔が見えないのが悔しかった。
「今年も、 の幸せ、俺に預けてくれっか?」
その言葉に、私はなんて幸せなんだろう、って思った。
好きな人が私を好きでいてくれて、私を幸せにしてくれると言う。
これ以上の幸せはきっと、無い。
「・・・よろしくお願いします」
きっと日の出に願わなくても今年も私は幸せだ。
ハルが、私を幸せにしてくれる。