絶え間なく湧き上がり溢れる想いの行き着く先が見えることはなく、ふとした瞬間、幸福に比例する不安が胸を締め付ける。どこまでも、いつまでも。















悦楽よりきたる孤独
















「……っ……」
「声、抑えなくていいんだぜ?」



膝の外側から、大腿の内側へと、手のひらをゆっくりと滑らせると、オフホワイトのシーツの上で、細い顎がくっと反った。抱きしめた腕の中での背中が柔らかくしなり、真珠色の爪がシーツに食い込む。
更に反応を楽しむように、の中心へそっと指先をもぐり込ませる。口紅をひいている時よりも鮮やかに赤い、濡れた唇が緩く開いて、か細い嬌声が一の鼓膜をささやかに震わせた。
睫毛が微かに痙攣し、その奥に隠れていた瞳が、薄闇の中で淡く光る。
絶え間なく与えられる快感に潤み、一を真っ直ぐ見つめているようでどこか焦点の合わない眼差しは、いつものにはない艶を湛えていた。



「っ…は、じ、めく……」
「ン?何?」
「も……ぅ、んっ」
、すげえ可愛いな……」



殊更大きく指を動かしてわざと水音を立てると、羞恥に頬を染め、持ち上げた片手で顔を隠す。ちょうど唇に当たった人差し指を軽く噛み、またしても声を押し殺すを見て、一は意地悪く笑ってその手を掴んで顔の横で押さえ込んだ。



、それ駄目な」
「ぇ……なに、が?」
「指噛むの。の指好きだから、歯形とかつけたくねえんだ、俺が」
「……だっ、て……声、が」
「声我慢すんのもナシ。抑えなくていいって言ったろ?俺が聞きたいんだから。な?」
「そんな言い方、ズルい……」



何度身体を重ねても、その都度初めてのように初々しい反応を見せる癖に、一が何かを望むとは決して嫌とは言わない。それをわかっているから、一はわざと「俺が」と強調する。請い願う一連の行為そのものよりも、自分の我侭を聞き届けて、叶えようと頑張るの姿が見たくて。
一の意図するところは、にもわかっているのだろう。それでもやはり嫌と言う答えは口にせず、また今日も一の愛撫に身を委ねてくれた。
可愛らしく、蠱惑的に鳴くの声を楽しみながら、十分に潤み、熱を持った中心へ、一は自分自身をゆっくりと挿し入れた。
の身体がびくりと大きく震えて、は、と声にならない吐息が漏れる。波打つシーツの海から、汗ばむ身体をそっと抱き起こすと、繋がったままの箇所が擦れて、深い快感を生み出す。助けを求めるように華奢な腕が一の肩にしがみついた。



「……ん、ぁ…っ、は……っ」
の声、すげえゾクゾクして刺激的だぜ……?もっと、聞かせてくれよ」
「ゃぁ、あ…ん、んっ……!はじめ、くんっ」
「く、ぁ、……っ」



緩やかな動きから、一気に激しく攻めたて、また緩慢なリズムに戻る。その繰り返し。
耳元で響く切れ切れの声が、少しずつ一の中に残る理性を削ぎ落としていく。肩に押し付けられている顔を引き寄せ、深く口付けて舌を絡めた。願い求めた声が形を成す前に、呼吸ごと根こそぎ奪い取り、飲み込んで自分の物にする。
強く揺さぶった瞬間、一際高い声を上げての身体が仰け反る。それに続くように、一もぐっと息を詰め、疼いていた熱を放った。















タオルケットにくるまって意識を手放したの髪をそっと撫で、一は小さく溜息をついた。
元々の体力の差か、事が終わった後、いつも先に眠りに落ちるのはだった。薄い布団越しに抱きしめた身体は、最中よりもなお細く感じられて、壊してしまいそうで怖くなる。
無理をさせているのだろうかと申し訳なさが募り、次はもっと優しくしてやらなければと思うのに、欲望を持って抱いた瞬間に、そんな考えはいつも消し飛んでしまう。
かつての自分は、彼女を欲しいと思う気持ちにどうやって歯止めを掛けていたのだろう。思い出せない。

こうして、思うままに彼女を愛し続けて、いつかが壊れてしまったら、いなくなってしまったら、その時自分はどうなるんだろう、と一はぼんやりと考えを巡らせる。
すぐ隣で、の寝息が静かに聞こえる。規則正しく繰り返し、深夜の薄闇に溶けていくそれが、自分の傍から消えることを考えた途端、胸のうちで急激に膨れ上がった心細さに、一の全身が震えた。
抱きしめる腕に自然と力が篭って、その中でがん、と少し苦しげに呻いて身じろぎした。うっすら開いた目が、ぼんやりと一を見つめてくる。



「……一、くん?」
「あ、悪い……苦しかったか」
「ん、だいじょぅ、……」



完全に目を覚ました訳ではなかったらしく、語尾が掠れて消えるのと同時に瞼が閉じ、再びの安らかな寝息が言葉に取って代わった。低く笑って、その頬に掛かる髪を指で横に梳きやり、優しいキスを一つ、閉ざされた目の下に落とす。先程感じた心細さはどこへともなく消えていた。
先程の自問のはっきりした答えは見つからないまま、やがて一もゆるゆると眠りの世界に引き込まれていった。夢の中であっても離したくないと言うように、その腕の中にしっかりとを抱きしめたままで。










[070706]