『彼女の誕生日』って言ったら。
普通はお祝いしてくれると思うじゃない?
まぁ平日だしね、別にディズニーシー行きたいな、なんて思ってても口にはしないし、
学生の身の上ですから、カッコよくプレゼントに指輪でも、なんて贅沢は言わないわよ。



でもさ?


せめて『おめでとう』の一言位は言ってくれてもいいんじゃないの?
今日一日、いつ言ってくれるのかと、期待を込めて待ってたってのに。



それすらもないってのは、どういうことなの。















No.2でかまわない













「……さ、何か機嫌悪い?」
「何でよ」



態度には出すまいと思っても、滲み出る不機嫌は隠しようもなく。


さすがに今の言い方はキツかったかなーと思って、チラッと横目で見てみたら、
南は途方にくれてんだか何なんだか、今ひとつ読めない表情でじっとこっちを見ていた。



「やっぱり何か怒っ…てる?」
「別に」
「そ、そう?」
「そうよ」
「それならいいんだけどさ……」





……いいんですか。



再び意地悪してやりたい気分が肥大して、はぁーっとワザとらしく大きな溜息なんかついてみる。
テニスバッグを背負った肩が大袈裟なくらいに跳ね上がって、バッグの中身ががさごそ鳴った。


そこまでビクビクしないで欲しい、仮にも一応自分の彼女に対して。


大体さ。
機嫌悪いのか、って訊くくらいなら、まず自分でその理由を模索しろっての。
自分で気がついてよ、あたしが何でこんなんなっちゃってるのか。
全部南の所為なのに。



南が、今ここで、あたしの望む一言さえ言ってくれれば、機嫌なんてすぐに直るのに。



それなのに、結局。
いつもの分かれ道に来てしまって。


望んでいた、たった5文字のささやかな一言を聞けないまま、一日が終わった。






















次の日。


せっかくの土曜日なのに、何にもしないでただひたすらボーっと過ごして。
夕方、空が夕暮れに染まり始めたところで、携帯が鳴った。聞き慣れたメールの着信音。



受信ボックスを開いたら、『南 健太郎』の四文字。
それに続いて、短い本文。




『今から出てこれる?』



……どこにだ。


要領を得ないメールを送ってくるな……!
昨日のイライラが治まりきってないところに、なんでわざわざ爆弾投げ込むのよ、アイツは!!
イラつきながらも、携帯のプッシュボタンの上に指を滑らせる。


だって、返信しないとしつこく何度も同じメール送って来るんだもん!
「心配でつい」って、あたしの安眠を妨害したこと数知れず。
南なりにあたしを心配してくれてるのは本当だから、心の底から怒ったりはしないけどさ。


今日はまだ、昨日の怒りを引き摺ってるから、いつもみたいに優しい言葉で返信なんか出来ない。






『どこに』


と、返して、待つこと約二分。




ちの隣の隣にある公園』



返って来たメールには、そう書かれていて。
それを読んで五分ほど悩んだあと、そそくさと着替えを始める自分がいたりした。





正直、まだ怒ってるけど。
逢いたいって思う気持ちの方が、それに勝ってしまう自分の心。


あたしの中で、南は間違いなく一番好きな、一番大事な存在だから。
結局欲求には抗えないんだ。


南に逢いたいって、欲求には。












寂れた公園の、古ぼけて塗りの剥げてるちっちゃなベンチ。
そこに座って待ってる南に近付くと、安らか〜な寝息が聞こえた。




人呼び出しといて寝てるし……!



服選んでメイクして、結局メールもらってからここに来るまでに、30分かけたあたしも悪いんだけど。


あたしがすぐ真ん前に立っても気がつかないで、両手でテニスバッグ抱えて
幸せそうな顔してすいよすいよと寝息をたててる南を見てたら、
昨日からずっと心の中に凝り固まっていた、嫌な気持ちがするすると解けていく。





テニスが大好きな南。
都内じゃ強豪って呼ばれてる、うちのテニス部のキャプテンでレギュラー。
地味ーズなんて呼ばれてるけど、東方と組んでるダブルスはかなり強くって。


地区大会、都大会、関東大会、全国大会。
目指すもののためには、ハードな練習に時間を取られるのは仕方ない。
そんなテニス漬けな毎日も、南にとっては楽しくて大事な大事な時間なの、わかってる。
何よりもテニスが大好きで、一番大切で一番大事なの。
地味ーズなんて言われてても、見た目もキャラも派手な千石や室町君の陰に隠れちゃって
全然目立たなくっても。
そういう南を好きになって、そばにいたいと思ったんだから。





―――でも、誕生日くらいは。


あたしの誕生日くらいは、覚えてて欲しかったな。
プレゼントなんかいらないから。
『おめでとう』って、その一言が、欲しかったな。








水道の蛇口、勢いよくひねったみたいに一気に涙腺が緩んで、
見下ろしていた南の頬に、ぽたっと一滴、雫が落ちた。


ヤバイ、って思った次の瞬間には、南はぱっちり目を開けてしまってた。




……?」
「う……」
「どうして泣いてんの」
「な、んでもない」



テニスバッグからタオル引っ張り出して、あたしの顔にそっと押し当てる。
自分の頬に落ちた雫は、ジャージの袖で適当に拭いちゃったくせに。


せっかくセットしてきたあたしの髪、ぐしゃぐしゃ撫でながらこっちを覗き込む。




「なんでもなくないだろ。何かあったのか?」
「……南」
「うん」
「あたしのこと、好き?」
「―――いいいいいきなり何だ!?」



一気にどもって、顔中真っ赤にしてる南に、たたみ掛けるように訊く。



「テニスが一番好きでいいからさ……二番目でいいから、あたしのこと好き?」
「な、何だよそれ……俺はテニスよりの方が好きだよ」



そう言って、よしよしってあたしの頭を撫でてから、
もう一度テニスバッグに手を突っ込んで取り出した小さな包みを、あたしの鼻先に突き出した。




「……なに?」
「何って、誕生日プレゼント」
「…………なんで?」
「なんでって、昨日誕生日だったろ。一日遅くなっちゃったけど、ごめんな」




……忘れてなかったの。



「おめでとうな」
「……ありがと」
「ホントは昨日の内に渡すつもりで取り置きしてもらってたんだけど、
一昨日店に行く途中にスポーツショップで前から欲しかったグリップテープ見つけて
思わずプレゼント代使い込んじゃってさー」
「……へぇ」
「あっ……」
「やっぱりテニスが一番なんじゃない」
「いやっそのっ」
「まぁ、いいけどね。二番目はあたしにしといてくれれば」





私が欲しかった一言、くれたから。
照れくさそうな笑顔と一緒に。


忘れないでいてくれたなら、もうそれでいいや。
一日遅れでも、おめでとうって言ってくれたから、もういいよ。





テニスが一番でいいんだよ。
テニスが一番大好きな南が、あたしは一番大好きだから。
















あとがき

久々に固定ヒロインじゃないテニプリの夢を書きました。楽しかったですvv
しかも、南!実は他校の短編って、今まで書いたもの全てお蔵入りさせてたりするので、実は他校短編でWEB上に公開した初の作品と言うことになります。
えーと、これはうちのサイトを開設する前からお邪魔しており、現在は相互リンクもして下さっているサイト『meltroche.(メルトローチ)』の管理人・具志堅ヨーコ様に、サイト開設二周年をお祝いして贈呈する為に書いたものです。
差し上げた以上はヨーコさんのものですので、いらなかったら煮るなり焼くなり、駆除するなり、お好きになさって下さい!つーか、押し付けてすいません!!( 逃 亡 )

04/05/15up