あの人が好き。

優しくて穏やかなその眼差しも笑顔も、私を包み込んでくれる大きな腕も。
あの人の全てが愛しくて。

あの人のことを想うだけで、自分を取り巻く世界の全てに優しくしたい、そんな気持ちになる。


そんな恋をした。
















白い月
















夕暮れの迫る、瀞霊廷の一角で。
見慣れた後ろ姿を見つけて、更に歩調を早める。


「藍染隊長っ!!」
「―――ああ、くん」

振り向いて笑いかけてくれる藍染隊長の真正面でぴたっと止まって、荒い呼吸を繰り返す。
口元に優しい微苦笑を湛えて、藍染隊長はその大きな手のひらで私の頭を撫でてくれた。


「そんなに焦って来なくても大丈夫だよ」
「……っすいまっ……!遅く、なりま、して……」
「喋らなくていいから、まず息を整えなさい」



頭の上に乗っていた手がそっと背中に回って、優しくさすってくれる。
言われるがまま、何度も深呼吸を繰り返して、乱れに乱れた呼吸を何とか整える。
その間、藍染隊長はずっと背中に手を置いていてくれた。





「落ち着いたかい?」
「……はい」



背中にあった手が一旦離れて、今度は私の手をそっと取る。
大きくて指が長くて少し骨ばっている、男の人の手が私の手を優しく引っ張る。






「じゃあ、そろそろ行こうか―――


見上げると、夕暮れの空に浮かんだ白い三日月を背に、藍染隊長の温かい笑顔があった。
黒縁の眼鏡の奥で、穏やかな光を灯した瞳がすっと細められて。
手を繋いだまま、のんびりとした歩調で歩き出す。
私に合わせて、一歩一歩ゆっくりと歩を進めてくれる。



手を繋ぐのは、別に初めてじゃなかったけれど、やっぱりまだ気恥ずかしくて。
繋がった指先から、一秒ごとに早まっていく私の鼓動が藍染隊長に伝わっているんじゃないかと、そう思ったら余計に心拍数が上がった。

それでも、この手を放したくはなくて。
温かいその手のひらの感触を確かめるように、そっと指に力を込める。
それに応えるように、藍染隊長の長い指が私の指にそっと絡んだ。



少し上目がちにその横顔を見つめたら、私の視線に気付いてこちらを向いてくれる。
変わらない笑顔で。
それが嬉しくて、私も笑い返した。






「―――藍染隊長」
「なんだい?」
「ずっと、お傍にいても、いいですか……?」
「…………」
「駄目でしょうか?」
「……ああ、いや。そんなことはないよ」
「……」
「そうか、ずっと傍にいてくれるのか」
「隊長?」
「……嬉しいよ」



そう囁いて、繋いでいた腕を不意に強い力で引き寄せて、その腕の中に私を包み込んでくれた。
そのぬくもりの中で、微かな声で優しい囁きを、くれた。



「……君が、好きだよ」













穏やかに過ぎる時が好きだった。

二人で手を繋いで歩いたり、花を眺めながらお茶を飲んだり。
何を語るわけでもなく、ただ二人でいるだけで、それだけで幸せで。

藍染隊長と一緒にいるだけで、自分を取り巻く世界の全ての色彩が、一層鮮やかになるような。


そんな恋を初めてしたの。



この恋に終わりが来ることなんて、考えたことも、なかったの。




























空には、あの日と同じ、白い三日月。

その白々とした光を受ける、血の気のない頬にそっと触れる。
血は綺麗にふき取られて、虚ろに開いていた眼差しは閉ざされて。


閉じた瞼に、整った鼻梁に、まだ柔らかい唇に、指を滑らせる。
再び頬に戻った手を、肩から腕、手のひらへ。
その長い指に自分の指を絡めて、そっと力をこめる。
冷たい指は動かなかった。




「……っあっ……」



堰をきったように、涙が溢れた。






「藍染、隊長っ……!」





もう、あの眼差しはない。
あの笑顔も、あの腕のぬくもりも。

あの日のように、応えてくれることは、もう決してない。


もう、戻らない。



子供のように、声を上げてただ泣いた。
あの日と同じ月だけが、泣き続ける私を静かに見ていた。









もうきっと、誰も、何も、愛せない。
私の世界は色を失う。

あなたという光を失って。











あとがき

初・ブリーチ夢でした。
こちらは、このサイトを開設する前からお邪魔していて、今は相互リンクもして下さっているサイト
『ドリーム建設株式会社』の管理人・営業ブチョウ様に贈呈するために書いたものです。
50万Hitのお祝いにと書いてみたのですが、お祝いなのに悲恋かよ……!!
すいません、ブチョウさん!差し上げた以上、これはブチョウさんのものですので、
もうお好きに処分して下さって結構です(押し付け!)。
こんな私ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します。

04/05/15up