君が望む言葉をあたしはちゃんと知ってるけれど。

簡単に口に出してたら、何だか勿体無いじゃない?
















ラビューラビュー











やかましく鳴り出した目覚ましを、シーツの中からめいっぱい腕を伸ばして引っ叩く。
ぴたりと鳴りやんだそれに満足して再びシーツの中で丸くなったけれど、昨晩化粧を落とさずに寝ちゃったせいでごわついてる肌が気になってどうにも寝付けなくなった。
仕方なくベッドを這い出して、洗面所で化粧を落とす。
冷たい水の感触で寝ぼけてた頭は大分冴えたけど、ゼミも必修講義もない土曜日の朝にわざわざ早起きするなんて馬鹿馬鹿しいと思って、あたしはもう一度布団の中に戻ることに決めた。


自分の部屋に戻って、お気に入りのアースカラーのシーツの中にもぐり込む。
眼を閉じてコロンと寝返りを打った途端、あきらかに壁とは違う柔らかい何かにぶつかった。
ぱちっと眼を開いたら、視界を埋め尽くしたのは鮮やかなオレンジ色。
少し長めのやわらかい前髪の下でぴくぴくっと瞼が痙攣して、うっすら開いたこげ茶色の瞳があたしを見つめてほにゃらーっと笑う。


「あー……ちゃんおっはよぉー……」
「…………おはよ……」
「んじゃおやすみぃ〜……」


……なんなのそれは、とか咄嗟にツッコもうとして、あたしははたと我に返った。
何でコイツがあたしのベッドの中でぬくぬくと寝てるんだ……?
疑問符が頭をもたげてきたところへ、かっちりした筋肉質の腕が背中へ回されてぎゅっとあたしを抱きすくめた。
次いでパジャマの胸元にコトンと何かがもたれかかる感触。
ぷっつん、と頭の片隅で何かが切れる音がした(ような気がした)。
がばっと勢いよくあたしが身体を起こしたその弾みで、圧し掛かっていた身体はごろりと後ろにひっくり返って。
オレンジ色の頭が壁にぶつかってがつんと小気味いい音をたてる。


「いでっ!」
「人のベッドで何してんの、アンタはああぁぁぁっ!!」


あたしの怒鳴り声に重なるように、さっき止めたはずの目覚ましの電子音がピピピピピ……と、何故かドアを1枚隔てた向こうの部屋から聴こえ始めた。





















「キーヨー」
「…………」
「ごめんねキヨ。ほんっとーにゴメン!ねぇってば!」
「……ちゃんは俺のこと愛してないんだね……」
「どうしていきなり話がそこまで飛ぶのよ!」
「酔っ払って帰ってきて俺のベッドを占領したのはちゃんなのにさー……一緒のベッドで寝るのは狭くてイヤってちゃんがいつも言うから、仕方なくちゃんのベッドを借りただけなのにさ、ふっ飛ばすなんていくらなんでも酷いよね……」
「昨日の夜にキヨのベッドに入ったってことをまず覚えてないんだってば!ふっ飛ばしたのは悪かったって言ってるじゃないの!さっきから!何度もっ!!」


あたしのベッドの上で膝を抱えて拗ねているその姿にさすがにちょっとイラついて思わず声を荒げたら、振り向いたキヨに思いっきり恨めしげな視線を向けられた。


「じゃあ俺のこと好き?」
「……どうしてこの話の流れでその質問になるの」
「やっぱり俺のこと愛してないんだ……」


……だーかーらー、何で話がそっちに逸れるのかと。
再び壁に向き直っていじけ始めたキヨの背中を見つめて、あたしは深く溜息をもらした。
普段は滅多に拗ねたりしない分、一旦拗ねるとズルズル引っ張るんだから全く持って手が掛かる。
……そんなところも可愛いんだけど。






「キーヨ」
「…………」
「キヨ、こっち向いて」
「…………」
「千石清純くーん?」


ベッドの端に腰掛けて、そこらの男よりかずっと広くてたくましい背中に、何度も何度も呼び掛ける。
それでも振り向こうとしないその背中にあたしはぽすんとおぶさって。
やわらかいオレンジ色の髪に唇を埋めて、耳元に早口で囁いてやった。


「―――愛してる。大好きよ、キヨ」


ぴくんと広い肩が跳ねて。
ゆっくり振り向いた顔の中から、人懐っこいこげ茶色の瞳がじーっとこっちを見つめた。


「本当に?」
「本当に!」
「じゃあもう1回ちゃんと言ってよ。早口は却下ね」
「あ・い・し・て・ま・す!だーい好きよ!OK?」
「―――OK。文句なし」


にっこり人懐っこい笑顔が復活して、身体全体でこっちを振り向いたキヨが2本の腕伸ばしてあたしの身体をぎゅっと抱きしめた。
こつんと額を小突き合わせて、すぐ間近で見つめるこげ茶の瞳がくるくると機嫌良く動いて。
オレンジの前髪が視界の端で軽快に踊った。


「俺もちゃん愛してます。この世でいっちばん大好きだからね」
「はいはい、そんなこと当の昔に知ってるわよ」
「うん、俺も知ってるよ」


―――ちゃんは俺のことちゃんと愛してるって知ってるよ。


そんな囁きと同時に、アースカラーのシーツの上にあたしの身体ごと倒れこんで。
ついばむようなキスをひとつ、あたしの唇に落とす。
続けてふたつ、みっつ、同じキスを。
そして、深く、長く、甘いキス。


やがて離れた唇は、悪戯っ子めいた微笑みを浮かべてた。
それはゆっくりと動いて、もう一度甘やかな愛の囁きを紡ぎ出す。


「愛してるよ」




『あたしもよ』と答える代わりに。
あたしはキヨのその唇に噛み付くように、甘い甘いキスをあげた。





















・・・・・・・・・・ あとがきモドキ ・・・・・・・・・・

キヨ夢でした〜。
キヨと同棲……イイ!!という妄想大爆発の美乃ちゃんとのメッセから浮かんだネタだったんですが。
何だかひたすらキヨとイチャイチャするだけの夢になってしまったような気が……!!(気じゃなくて事実)
こんなんですが良ければもらってやって下さい、美乃ちゃん。

04/10/03up