「……あ」
「……っ」
彼のあげた声とほぼ同時に息を飲んだ。こくん、と小さな音が耳の奥で聞こえた。
見覚えのある顔を目にして心臓が高鳴る。
すっかり大人びていたけれど、その面差しは確かに知っている人のものだった。
呆然と見つめあう時間に終止符を打ったのは相手の方。
精悍な面立ちに昔と同じ屈託のない笑みを浮かべて歩み寄る、背の高い『男の人』。
「……よぅ、久しぶり」
元々低かった声は年を経て更に低くなり、そして昔は感じなかった艶っぽさを含んで響いて、鼓動を早めつつあった私の心臓の動きを更に忙しなくさせた。
消えない恋
一ヶ月前。
仕事から帰ると中学のクラス会開催を知らせる葉書が届いていた。
私が通った六角中学は海沿いの小さな町にあった。卒業と同時に親の仕事の関係で引っ越して、それからもう十年近くも訪れたことはなかった場所。
子供の頃を懐かしく思い出しながら、一旦葉書をテーブルの上に置いて部屋着に着替える。
化粧を落とし、キッチンでお湯を沸かしてミルクティーを淹れた。
湯気の立つカップ片手にテーブルへと戻ってクッションに腰を下ろして。
そうして人心地つけてから、とりあえず開催日の予定を確認しようとシステム手帳を手に取ったところで、ふと思い出して裏表紙をめくった。
バインダータイプの手帳の一番最後についている、カードだけじゃなくて写真や葉書も入れられる少し大きなサイズのカードケースリフィール。
そこにそっと指を差し入れて取り出した古い写真には、やっと幼さが抜け始めた中学生の私と、その私をぐるりと囲んで立っている数人の男の子が映っていた。
屈託ない笑顔を向けてくる男の子たちの中で、一際身長の高い黒髪の少年に目を留めた時、胸の奥で小さく心臓が跳ね上がる。
――――――バネ。
「……来る、かな」
一人暮らしのワンルームでぽつりと零した呟きに返る声はない。
写真の中にいる十年前の彼は快活に笑うばかりで、答えをくれはしない。
少し色褪せた写真の中にいる、大好きだったひと。
卒業して以来十年間、会ったことも連絡を取ったこともないけど、それでもその顔も声も、今でもはっきりと思い出せる。
仲は良かった、と思う。でもそれはあくまでも友達として、部員とマネージャーとして、だった。
三年間、想うだけ想って。気持ちを伝えないまま、無理やり終わらせてしまった片想い。
きちんと区切りをつけなかったその恋を、私は未だに引きずっている。
高校に入って、大学に進学して、就職して。
この十年の間にたくさんの人と出会って、その中には私みたいな普通の女を好きだと言ってくれた男の人も少なからずいて、もしかしたら好きになれるかもしれないと思えた人もいた。
だけどどうしてか、どうしてもバネを忘れられなかった。
「YES」と答えようかと迷うたび、中学生の彼の姿が、笑顔が、瞼の裏にちらついて。
そうして、ずるずると十年。
「……大概しつこいな、私も」
意識せずに声に出してしまった独り言が自分以外の気配がないワンルームに寂しく響いた。
何で一人暮らししてると独り言が増えちゃうんだろうなー……。
溜息をつきながら手帳用のボールペンを手に取って、改めてテーブルの上の葉書とその横に並べた写真と睨み合ってしばし。
―――覚悟を決めて、往復葉書の「出席」の文字を丸で囲んだ。
休日の午前中にもかかわらず、小さな駅はほとんど人気がなかった。
今住んでいる町との距離は十分日帰り出来るものだったけど、念の為に開催日の前後に有給を取って、数駅隣りの駅前のビジネスホテルを予約した私は、チェックインを済ませた後、大きな荷物だけ置いてホテルを出て、予定の時間より大分早く懐かしい町に降り立った。
昔と変わらないのどかな雰囲気に小さく笑って軽く伸びをする。
ふっと鼻先を掠めた懐かしい潮風の匂いを辿っていくと、見覚えのある海岸沿いの道に出た。
高さのある建築物など、景色を遮るものがほとんどない広々とした道の向こうに、目指す建物を見つける。
十年前より更に古びた門と校舎。懐かしさに踏み出す足の動きが自然と早くなる。
開放されている門を抜けて二つの校舎の脇を通り過ぎて、テニスコートに辿り着く。
今日は練習が休みなのか、コート内に部員らしい子供の姿はなくてがらんとしていた。
「うわーフェンスが新しくなってる……」
最近取り替えたばかりなのか、コートを囲むフェンスはほとんど塗装が剥げてない。
コート内には入れないようにきちんと鍵が掛けられていたので、とりあえずぐるっと周りを一周してみることにした。
フェンスの他にも改装したらしい箇所は見受けられるものの、全体的な造りは十年前と変わってない。
ちょうど半周した辺りでコート脇のベンチが見えた。
昔のままのベンチには、オジイ愛飲のアリタミンの空瓶が1本、ぽつんと置いてあった。
アレがあるってことはまだご存命なんだ、オジイ……良かった。明日帰る前にでも挨拶に行こう。
ぼんやりそんなことを考えながら、残りの半周をゆっくり回って元の位置へ戻ってきたところで。
校舎の方からこっちへ向かって歩いてくる人影が視界の端に映って、何気なくそちらに向き直った瞬間、息が止まった。
背の高い男の人。短めの黒髪が風に揺れて表情を隠す。
まだ私の存在には気づいてないようで、のんびりした歩調でこっちに向かって歩いてくる。
あと20メートル。15メートル。14、13、12、11……。
間の距離がほぼ10メートルを切ったところでその人は私に気付いたらしく、踏み出す足が止まった。
「……あ」
「……っ」
予想だにしていなかった、早過ぎる再会に何も言えずに立ち尽くした。
身長が伸びてる、なんて的外れな考えが呆けた頭の片隅を過ぎる。
昔も高かったけどあの頃よりもっと高くなってた。
最後に会った時にはまだ僅かに残っていた幼さの欠片はきれいに払拭されて、代わりに感じるのは落ち着いた大人の男の人の雰囲気。
やがて、驚愕に目を瞠っていた彼の表情がゆっくり、ゆるゆるとほどけて。
薄い唇が笑みを形作る。かつての彼を髣髴とさせる、快活な笑顔。
「……よぅ、久しぶり」
一度止めた足を再び動かして、私のすぐ目の前に来た。
笑いながら、その笑顔と同じ快活な光を浮かべた眼差しで真っ直ぐ私を見下ろす。
低く、どこか艶っぽく響いた彼の声と、早鐘のように打ち続ける自分の心臓の音が耳の奥で交じり合ってくらくらした。
「―――?」
「……あ、あの……」
「何だよ、ボケッとして。まさか俺のことわかんねーのか?」
「……えっ、あの、……バネ、だよね……?」
「おう」
明るく肯定しながら前髪をかきあげる。
昔とは違う髪形、更に伸びた身長。でも今、目の前にいるその人は確かにバネだった。
大好きだったひと。ずっと忘れられなかったひと。
再会して今のバネを見たら、十年の間くすぶっていた気持ちに決着がつけられるんじゃないか、なんて思ったりもしてた。私が好きだったのは過去の、中学生のバネで、十年の月日を重ねた彼を目の当たりすることで、一区切りつけられて気持ちも落ち着けるんじゃないかって。
だけど、気持ちはあっさり予想を裏切ってくれた。
大人になって、姿が変わって、声も変わって。
それでもバネはバネのままで。
くすぶっていた気持ちが消えるどころか、どんどん熱を増していくのがわかった。
――――――まだバネが好き。
やっぱり忘れられない。何もしないまま決着なんてつけられない。
私やっぱりまだ、バネが好きだ。
「―――就職して出てったヤツもそれなりにいるけどな、まだなんだかんだ結構な人数が残ってるぜ」
「そうなんだ。テニス部のみんなは?」
「亮と聡は東京に住んでる。淳もだな。それ以外はちゃんとこっちに残ってるぜ」
「そうなんだ……バネも?」
「ああ、就職も県内だからまだ実家にいる。休みの日はオジイ手伝ってんだ」
「オジイの手伝いって、部活の指導?」
「それとラケット工房な。一応まだ現役だけど流石に昔ほど身体が言うこときかなくなってきてっからさ。サエも手伝ってんだぜ、あいつ手先器用だから」
コートを離れて歩き出した私とバネの間で何気ない会話が弾む。
公園のアスレチックも健在だぜ、まだ時間あるから見に行くかー、なんて楽しそうに笑うバネの言葉に思わず頷いた。
せっかく再会出来たんだから、二人っきりで話せる幸運をもうちょっと味わっていたくて。
並んで学校を出て、子供の頃当たり前のように出入りしていたオジイのアスレチック公園とラケット工房へ向かった。
新しいアスレチックがいくつか増えていたけど、古いものもきちんと修理したり朽ちた木材を取り替えたりして残されている。昔と同じで、まだ幼稚園や小学生くらいの子供が何人か遊んでいた。
ベンチのひとつに腰を下ろして、学校同様にフェンスに囲まれたコートの中で木製のラケットを振り回す子供たちをぼんやり眺める。
懐かしい光景が私の中に残る記憶を蘇らせた。
「最初はバネたちもあんなんだったよねー」
「あー、ラケットがでかくて重くてな。剣太郎なんか初めて持った時、よろけてラケットごと後ろにひっくり返っちまったんだよな」
「あったあった!びーびー泣いちゃって大変だったのよねー。それが数年経って中学入ったらいきなり部長になるんだもん、あの時はびっくりしたわ」
「あれからもう十年だもんな、時間が経つのははえーよ」
「……でも、バネは変わってないね。昔のまま」
「そんなことねーだろ。さっき一瞬誰だこいつみたいな顔してたじゃねーか、お前」
「見た目だけのこと言ってるんじゃなくてさー」
「ンだよ、いい男になってたから見惚れたんだろ?」
「うわ、その発言で大幅減点」
「げ、マジで?じゃあ今の発言取り消す」
「もう遅いでーす」
昔に戻ったみたいな他愛ないやり取りが懐かしくて楽しくて思わず大声で笑ったら、バネも豪快に声を上げて笑った。
あの頃と変わらない空気に、バネに対する気持ちが更に大きくふくれあがる。
――――――言ってしまおうか。
十年前言えなかった言葉。
十年間心の中にしまい込み続けてきた言葉。
今、ここでなら、伝えられる気がした。
決心を固めて口を開く。
その二文字が唇に乗せようとした、まさにその時。
「あーっいたあー!」
まだ若干舌っ足らずな幼い声が響いて。
いきなりのことにびっくりして声のした方に視線を向けると、3、4歳くらいの子供が一人、こっちに向かって猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。
勢いを殺せず、ベンチから立ち上がったバネの膝に激突する直前、バネの腕が小さな身体を掬い上げて、軽々と宙で一回転させた。
きゃきゃきゃ、と軽快な笑い声にバネの声が重なる。
「あっぶねえなあ!何だお前、一人で来たのか?母ちゃんはどうした」
「ママはおうち!ねえねえ、かたぐるまして!」
「暴れんなよ?」
求められるままにその子を肩車するバネを呆然と眺めた。
そうして一緒にいる姿はあまりにも自然で、頭の中で繰り返し問いかけられる『二人の関係は?』という言葉に、ひとつの答えしか出てこない。
……バネの、子供?
結婚、してたの?
「このおねえちゃんだあれ?」
唐突に響いた声にはっと顔を上げる。
バネの肩の上、遙か頭上から、真っ直ぐに私を見る無垢な眼差しと視線がぶつかる。
あまりバネに似ていない。服装からするに男の子のようだけれど、女の子と言われても納得出来そうな、とても綺麗な可愛らしい顔立ち。大きな目がくるくるとよく動いた。
バネが笑って口を開く。紡ぎ出された言葉は、私の中に生まれた疑問に知りたくなかった答えをくれた。
「パパたちの友達だよ。樹っちゃんや剣兄ちゃんたちとも友達なんだぞ」
「パパのおともだちのおねえちゃん?」
「そうそう。ほれ、ちゃんと挨拶しろよ」
「りゅうたです、こんにちわ!」
「……こんにち、は……」
よーしよく出来た!とバネが肩の上の子供を褒めた。
嬉しそうに笑ったりゅうたくんは、あっちいって、あっち!とさっき自分が走ってきた方を指差した。
仕方ねーなあ、と笑ってバネが歩き出す。その背中が酷く遠く感じられて、私は思わずその場に立ち竦んだ。
数歩進んだところで足を止めてこっちを振り返る。不思議そうに私を見つめる、バネとりゅうたくんの目。
真っ直ぐに真っ直ぐに相手に向ける眼差しは、似ていると思った。
「―――?」
優しく名前を呼ぶ声。昔と同じように。
それは『友達』を呼ぶ声。
それとは違う声で、きっと私を呼ぶのとは全然違う響きで呼びかける人が、もうバネにはいたんだ。
遅すぎたんだ。もう、何もかも。
「?どうした?」
「……やだなあ、バネ。結婚してたなら、最初にそう言ってよ」
「え?あー、いや、あのな、こいつはな」
「まさかこんな形で玉砕するとは思わなかったわよ、もう……」
「玉砕?何言ってんだ、おい。つーかこいつだけどっ」
「……けば、良かった……」
「?」
慌てたようなバネの言葉を無理やり遮って声を絞り出す。
ぎゅっと詰まった胸の奥から押し出したその言葉と同時に、涙が頬を伝う感触があった。
「―――バネが好きって、もっと早くに言っとけば良かった……!」
何かあったのか、アスレチックの方から子供たちの歓声が聞こえた。
溢れる涙で霞む視界の真ん中で、バネが肩からりゅうたくんを降ろすのが見えた。
スカートを引っ張られて視線を下向けると、大きな目が真っ直ぐに私を見上げていた。
「おねえちゃん、どうしたの?どっかいたいの?」
「…………」
「おねえちゃん?」
小さな手を懸命に伸ばす。
涙を拭こうとしてくれてるんだ、と分かったその時、その場に別の声が割り込んだ。
「あれ?……もしかして、?」
「よっ、サエ。お疲れ」
「バネ、今日クラス会があるとか言ってなかったっけ?何やってんの、こんなとこで」
「え、さ……」
懐かしい呼び名に反応して私が俯いていた顔を上げるのと同時に、スカートを掴んでいたりゅうたくんの手が離れて。
そして。
「パパー!」
「……え?」
まだ少しぼやけ気味の視界の中、先程に勝る猛スピードで駆けていくりゅうたくんの姿。
激突する寸前にその身体を抱き上げた人影が正面から私を見る。
バネよりも少し低い背に色素の薄い柔らかそうな髪、整った顔に浮かぶ穏やかな笑顔。
やっぱり記憶にあるよりも大人びてはいたけど、その顔には確かに見覚えがあった。
「……サ、エ?」
「あ、やっぱりだよな?久しぶり」
「う、うん……」
「パパ、パパあのね、おねえちゃんないてんの。バネにいちゃんがなかしたんだよ!」
「俺かよ!」
「龍太、ちょっと黙ってような」
呆然とする私の前で、サエはにっこりとりゅうたくんに笑いかける。
素直に口を噤んだりゅうたくんを片腕でしっかりと抱き上げたまま、サエは私のすぐ前までやってきて、羽織った薄手のジャケットのポケットから取り出したハンカチを差し出した。
「相変わらず泣き虫なんだな、」
「え、あの、サエ……あの、りゅうたくんって」
「見ての通り俺の子。因みに太めのドラゴンと書いて龍太ね」
「……もーちょっとマシな説明しろよ、お前」
「ぼくふとくないもん!」
呆れたようなバネの声とふくれっつらの龍太くんの抗議の声が重なる。
軽やかな笑い声をあげたサエは、何もかも分かってると言わんばかりの表情で私とバネを交互に見やった。
「まあ、何があったのか大体わかっちゃったけどさ」
「……俺じゃねーぞ」
「結果的にバネが泣かしたようなもんだろ。、今日のクラス会が終わったらすぐ帰る予定?」
「あの、S駅前のホテル取ってあって。帰るのは明日で」
「じゃあ、明日帰る前に飯でも食いに行こう。他のみんなにも声掛けとくからさ」
「……う、うん」
「俺の嫁さんも紹介するし。あとでバネから俺の携帯番号聞いといてよ、連絡するから」
にこにこ笑ってじゃあ明日ね、とあっさり締めくくって踵を返す。
サエに抱っこされたままの龍太くんが、おねえちゃんばいばい!と元気良く手を振る。
アスレチックで遊んでいた子供たちに見送られて、サエと龍太くんは公園を出ていった。
呆然とその後ろ姿を見送って、それから。
はっと気がついて、そこに残った人影に視線を送る。
困惑気味の表情で立っているバネと視線を合わせた瞬間、さっきの勘違いを思い出して、一気に顔が熱くなった。
何と言えばいいか分からないままあわあわと口を開く。
「あ、あ、あ、あの」
「……まーそーいう訳だ」
「ご、ごめ……」
「別に謝んなくてもいいけどよ」
恥ずかしさに火照る頬を両手で押さえて、もう一度ごめんと言おうとして視線をあげたら。
真正面からバネと目があった。
困惑の色はいつの間にか消えて、昔のように真っ直ぐに私を見て、言葉を切り出す。
「さっきお前が言ってたことだけど」
その言葉を聞いた瞬間、さっき勢いで言ってしまった言葉を思い出した。
『―――バネが好きって、もっと早くに言っとけば良かった』
思い出した途端、冷めかけていた頬に再び熱が戻る。
そりゃ言ってしまおうか、とか思ってたけど。でも。
あれは私が考えてた形じゃ、望んでた形じゃなくて。
「あのな」
「や、ちょっと、ちょっと待って!」
「……あ?」
何か言いかけたバネの言葉を遮って叫ぶ。
怪訝な顔でそれでもとりあえず口を閉ざしたバネを直視出来ずに、あっちこっちに視線を彷徨わせながら口を開いた。
「あああの、さっきのあれはさ、何て言うかホラ、勘違いで変な方向にテンション上がっちゃってたでしょ!」
「……まーな」
「だから、あの、だからですね」
「だから何だよ」
「……仕切り直しを要求します」
「…………却下」
僅かな沈黙の後、ぽつりと、でもきっぱりとバネは言い切った。
思わず外していた視線を戻すと、バネは酷く真剣な表情で一歩こっちに踏み出した。
バネの一歩は大きくて、間に空いていた距離が一気に縮まる。
あまりに真剣なその表情に気圧されて思わず一歩後退しそうになった私の腕を、素早くバネの腕が伸びて捕まえる。
目を見開いて凝視する私に、バネは小さく口元でだけ笑って。
「先に言われちまったってだけでカッコつかねえのに、これ以上リードされたら男の沽券に関わるっつーの」
「……バネ?」
「いっぺんしか言わねーからな、心して聞けよ」
捕まえられた腕をいきなり引かれて、一瞬のうちに視界がバネのシャツの色に染まった。
低い声が響く。
乾きかけていた頬に再び熱い雫が滑り落ちるのを感じながら、私は目を閉じて広い背中に手を回した。
「ずっと好きだった」
十年目の恋はやっと出口を見つけて。
そしてここからまた、始まる。
マイラヴ新藤 雪さんのサイト『heart to heart』の開設一周年のお祝いに捧げます。
進藤学さんバネのイメージで十年目のハッピーエンド、でした。
こっちから言い出した話なのに、こんなに遅くなっちゃって本当にごめんなさい……!(土下座)
しかもサエを既婚子持ちにしちゃってゴメンナサイ!因みにパパサエ(笑)は彼方くんじゃなくて、あくまでも原作やアニメのサエのイメージで書きました。
こんなんで良ければもらってやって下さいませ。そしてこれからも末長く宜しくお願い致しますねv
ラブ!
06/10/10UP