君が私をわかってくれる、これ以上嬉しいことが他にある?


























コンビニの袋をぶら下げて家に帰ったら、消してったはずの電気がついてて、しめてったはずの玄関の鍵も開いてた。
ただいまーと声を上げて中に入ると、玄関の三和土には私より5p大きなサイズのスニーカー。
玄関上がってすぐのダイニングキッチンの更に奥、六畳のフローリングで、家中からかき集めて積み重ねたクッションに寄り掛かって漫画を読んでる亮介くんの姿が見えた。
テーブルの上には亮介くん専用のマグカップ。まだ湯気がたっている様子から察するに、うちに来てからまだそんなに経ってないみたいだった。


「たーだーいーまー」
「おかえり」


テーブルの横にコンビニの袋を投げ出して、亮介くんの傍に腰を下ろすと、漫画から目を離さないままで、亮介くんは自分の背後からクッションをひとつ引っこ抜いて私の膝に放って寄越した。


「ありがと」
「んー」


コンビニの袋から買ってきたばかりの雑誌を引っ張り出してから、お尻の下にクッションを敷いて。
テーブルの上に雑誌を広げて、買ってきたチョコチップクッキーの箱を開ける。
自分の口に一枚放り込んだあと、無言で口を開けた亮介くんにも一枚。
雑誌のページをぱらぱらめくりながら、甘いクッキーにはやっぱりコーヒーかなー出来ればミルクたっぷりで、とか考えた途端、亮介くんが漫画のページを閉じてクッションから身体を起こした。
そのまま真っ直ぐにキッチンに向かう。造り付けの戸棚からミルクパンを、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出しながら、肩越しにこっちを振り向いて。


はカフェオレでいいんだろ?」
「すごー、大当たり」
「そうだろすごいだろ、もっと言って」
「ホントすごいー。亮介くんさすがー」
「うっわ、心がこもってねぇ!」


こっちをチラッと見て笑って、ミルクパンでミルクを温め始める。
おおお本格的ー、と思いながらクッキーの所為で渇いた口の中の感触が気になって、一口だけのつもりで亮介くんのマグカップに手を伸ばしたら。


「あ、言っとくけど俺のはブラックだからな」


こっちに背中を向けたままの亮介くんに、笑い含みの声でそう言われた。
マグカップの中を覗き込んだら、そこには確かにブラックコーヒー。
飲めない訳じゃないけど、今はミルク入りが飲みたかったので、大人しく伸ばした手を引っ込めて。
私のマグカップを用意している、こっちに向けられたままの背中をじっと見つめる。
薄手のTシャツの下、かっちりした広い肩と大きな背中。
くすぐったそうな笑い声が耳を打った。


「何ジロジロ見てんだよ」
「……なんとなく」
「なんだそれ」


亮介くんは、まるで背中に目でも付いてるみたいに、私の行動を一つ一つ言い当てる。
そんな単純でわかりやすい行動パターンをしてるつもりはないんだけど、私が考えてることとかしようとしてること、何でか亮介くんにはわかってしまう。
私も、亮介くんほどじゃないけど、何となく亮介くんが思ってることとかわかる。
前に一度、何でわかるのって聞いたことがあって。
亮介くんは少し考えて、それから妙に真顔で私を見つめて「なんでだろうな?」と言った。


『自分でもわかんないの?』
『うーん、何かわかっちゃうんだよな。今あれ見たいんじゃないかとか、ここ行きたがってるなとかさ』
『エスパーですか』
限定の?エスパーってか予知能力?』
『そうだね、私限定。でもやっぱ不思議』
『そう言うだって、俺の考えとかわかってたりするだろ。何で?』
『…………なんでだろ?』
『おーい』
『だって何かわかっちゃうんだもん』
『俺限定予知能力?』
『そんな感じ?不思議だね』
『まぁいいんじゃん?役に立つことはあっても困ることはないし』
『それは言えてる』
『だろ?』


……って話をしたと言ったら、友達に「惚気か!」って突っ込まれた。(いや別に惚気たつもりは)


大好きで大切な人が自分を理解してくれてるということ。
亮介くんと付き合って、それがどれほど幸せなことかを改めて感じた。
『自分』をわかってもらう為には、たくさんの努力が必要で。
『相手』をわかる為にも、やっぱりたくさんの努力が必要で。
当たり前のことだけど、でも実際行動に移すのはとても大変なことで。
その大変なことをするのが、亮介くんとだったら辛くない。
わかりあえていることがただひたすらに嬉しくて、幸せ。
そんな風に思える人に、亮介くんに出会えて、幸せ。





「―――?」


カフェオレを入れながら私を振り返った亮介くんが、軽く首を傾げた。
雑誌を放り出して立ち上がって、ぴたりと寄り添うように背中にもたれかかった私を、何だ?って顔して見つめてくる。
何も言わずに背中にくっついて、腕を回してぎゅっと抱きつく。
さすがにここまで唐突な行動は予測し得なかったらしく、亮介くんは少し戸惑ってから、持ち上げかけたマグカップから手を離して、自分のおなかのところにある私の手を軽くあやすように叩いた。


「いきなり何甘えてんだ、
「何か急に抱きつきたくなった」
「なんだそりゃ」
「……亮介くん大好きー」
「だからいきなりなんなんだっつーの」
「大好き」
「……そりゃどうも」


さらりと返された言葉に、微かに混じる照れくさそうな響き。
その響きに思わず顔が笑ってしまう。
更に甘えるように亮介くんの背中に頬を摺り寄せて、私はバカの一つ覚えみたいに繰り返した。


「大好き!」





















大好きなお友達で相互リンクサイト『Seventh Heaven』の管理人でいらっしゃる侑ちゃんに捧げます。
久しぶりのトッキュ夢です(まだ休止中ですが)!三枝亮介さんです!
ハイそこ!誰ソレとか哀しいこと言わない!!亮介さんはですね、トッキュ一家にも登場してるんですが、元々メグルがいた巡視船「らいこう」の潜水士さんです。コミックス4巻27話のドルフィン競技で兵悟と一緒に泳いでました。眉毛のきりっとした、三次元にいたらまず間違いなく私も目をつけるタイプです(待て)。
私どもの間ではひそかに人気の高い亮介さん、再登場されることを願ってやみません……!
彼に無限の愛を注ぐ侑ちゃんに幸あれ!こんな話を喜んで受け取ってくれてありがとう!ラブ☆

05/11/02UP