そんなふうに、貴方が笑うから。

離れられなくなる。
















ゼロ地点











バン、と壁が大きな音をたてる。
背中に感じた痺れるような痛みに声を上げるより先に、真田さんの唇が私の唇を塞いだ。
歯列をなぞる生暖かい舌の感触に、反射的に硬く目を瞑って。


「……んっ……」


絡められた舌が声も吐息も奪い去る。
何度も何度も角度を変えて、その都度深くなる口付けにくらりと目眩がした。
足に力が入らない私の身体を支えるのは、真田さんの腕だけで。
肩を掴んでいるその腕にすがりつくように手を伸ばしたら、唇が離れて感情の読めない深い色の瞳がじっと私を見下ろして、口元には微かな笑みが浮かんだ。
いつもの穏やかなものとは違う、ひどく酷薄な。


「……どうした?」
「……っもう、や……」


言いかけた「やめて」の一言は、再びのキスによって遮られる。
壁に押し付けられたまま、執拗に繰り返されるキスから逃れようとして何度も首を振れば、肩を掴んでいた手が両の頬を包むように押さえて逃げ道を塞いだ。
どのくらいの間そうしていたのかなんてわからない。
やっと唇が離れて、大きく息をつくのと同時にずるりと背中が壁を滑って。
そのまま床にへたり込みそうになった私の身体を、また真田さんが捕まえる。
支えるというより、無理やり立たせると言った方が正しい、彼らしくない乱暴なその仕草。
壁に寄り掛かってやっと立っている状態の私を見つめる眼差しはさっきまでと同じで、そこに宿る感情は読み取れなかった。
何か言葉を紡ごうとして、でも何を言えばいいのかわからずに視線を伏せたところで、また彼が動いた。
微かに潮の香りがする、短い黒髪が頬を撫ぜて。


「ちょっ……!真田さん、や……!」
「何でだ?」


耳のすぐ下、ハイネックでも隠せない微妙な場所を、わざと狙ったように。
強く吸い上げられて、ぞくりと憶えのある感覚が背中を伝った。
唇を少しずつずらして、吸い上げ、甘噛みして、くっきりと痕をつけていく。
いつもの彼なら決してそんなことはしないのに。
ほとんど力の入らない身体で、それでも必死に抗う私を片腕だけで軽々と押さえ込んで。
空いたもう片方の手が前触れ無しに太腿をすっと撫で上げた。


「―――っ」


ゆっくりと上がる腕に引っ掛かったスカートの薄い布地が、サラ、と微かに衣擦れの音をたてる。
一秒ごとに速さを増す鼓動と、それに比例して荒くなる呼吸。


「あっ……」
「…………」
「……やだっ……」


掠れた抗議の声に、一瞬手の動きが止まって。
次いで耳元で聞こえた低い声。


「―――お前の意見は聞かない」
「……ん、ぁっ!」


熱を持って潤むその場所を無骨な指で一気に蹂躙されて、残っていた理性は霧散する。
助けを求めるように逞しい身体にすがりついた私が最後に聞いたのは。
笑い声とも泣き声ともつかない、声というより吐息に近い、低く微かなものだった。





















とろとろとまどろんでいた意識が、すぐそばで動く人の気配を感じてゆっくりと輪郭を取り戻す。
重たい瞼をうっすらと開くと、こちらを覗き込む真田さんと目があった。
少し前までとは全く表情の異なる眼差し。
凪いだ海のようにとても穏やかで物静かなその目に、訳もなく安心感を憶えた。
いつの間にか私はベッドに寝かされていて、隣に寄り添うように横になった真田さんは、骨ばった大きな手のひらでそっと壊れ物を扱うように私の髪を撫でる。
淡々と響く声が空気を震わせて耳に忍び込んだ。


「すまなかった」
「……大丈夫」


何が大丈夫なんだか自分でもよくわからないけど、いつもと変わらないように見える真田さんの表情がとても傷ついているように感じられて、私は小さく首を横に振った。
酷い扱いをされたのに、怒る気にはなれなかった。
彼があんな行動に出た理由が、何となくだけどわかっていたからかもしれない。


「……あの、ね」
「…………」
「シマは、友達で、それ以上の存在にはならないの」
「……ああ」
「私が一番大切に思ってるのは、真田さんだから。本当、だよ?」




――― それは、滅多に感情的にならない彼の、ヤキモチ。




まだ気だるさを残す腕をゆっくりと持ち上げて、シャープなラインを描く頬にそっと触れる。
その手を支えるようにそっと重ねられた手は温かくて。
ふと口元に浮かんだ仄かな笑みと注がれる眼差しは、何よりも優しかった。











そんなふうに貴方が優しく笑うから。
募る愛しさが他の感情なんか消し去って、私は一層貴方から離れられなくなる。






















これが限界です隊長…… _| ̄|○il|||li
某日参加させていただいたチャットで課せられたノルマ『Sで隊長夢』でした。
本当に本当にホンットーにすいません!散々待たせた挙句がこんなんで……。
ていうか今気がついたけど、名前変換が一箇所もないよ……!

05/04/05up