きえないひかり、あざやかなままのいろ。


それは胸の奥、今もひっそりと静かに。
今も残る小さな想い。
















かずの部屋











真っ赤な夕焼けと薄い藤色の雲。
半年前も同じ色を見た。
優しいその色を見るたび、思い出すのはあの日のこと。






『―――悪いけど』


日に焼けた顔が夕焼けの色を映して、赤く染まってた。
シルバーアッシュの柔らかな髪が、風にそよいで。
いつもと同じ、優しいやわらかい声が、淡々と、とても静かに響いた。


『今は、誰とも付き合う気、ないから』
のこと、嫌いじゃないけど』
『今はテニスのことだけ考えていたいんだ』
『高等部に上がって、もう一度宍戸さんとペアを組んで、全国に行くまでは』
『他のことに気持ちを割きたくない』
『スキルを磨いて、確実に実力をつけて』
『宍戸さんともう一度組む為に』


『―――だから、ごめん』




―――仕方ないって、思った。
鳳が、どんなにテニスを好きか知ってた。
宍戸先輩とのダブルスが、鳳にとってどんなに大事なものか、知ってた。

関東大会、一回戦で負けて。
鳳と宍戸先輩はD1で勝ったけど、全国大会は行けなかった。

だからもう一度。
宍戸先輩と組んで、今度こそ。
全国大会を目指したいって鳳の思いは、嫌って言うほどわかった。


……だから。




『うん、わかった』
『ありがとう、ちゃんと答えてくれて』
『―――ありがとう』


笑って。
精一杯笑って、そう言った。


ありがとう。ありがとう。
私の想いをちゃんと受け止めてくれて。
ないがしろにしないで、きちんと答えを返してくれて。
あなたが私にちゃんと自分の気持ちを言ってくれたことが、こんなにも。

―――嬉しかったよ。




鳳がいなくなってから、いっぱい泣いた。
泣いて泣いて、思う存分泣いて。

そして顔を上げた時、目に飛び込んできた夕焼けの色。雲の色。
鮮やかなその色を、鳳への想いと涙と一緒に心の奥に焼き付けて。


そして閉じ込めた。
心の奥深く、深く。
心の奥底、一番深いところへ。閉じ込めて鍵を掛けて。
誰にも知られないように、誰にも気がつかれないように。


そして。
どんなに時が経っても色褪せないままであれと、密やかに願って。





















真っ赤な夕焼けを映して、日に焼けた頬を赤く染めて。

振り返った人が、優しくあたしに手を差し伸べる。
ひるがえる髪の色だけが、あの日と違う。

さらさらと風にそよぐのはつややかな、黒。


。―――行こか」


優しく響く、ハスキーな声も。
あの日とは違う。
違うとわかっていて、そして私は。

あの日のように笑って、そしてあの日、鳳からは差し伸べられることのなかった手を、取る。


「冷たい手やなぁ」
「長いこと待たせてもーて、堪忍な」
「何か、温かいもん飲んで帰ろか?」


優しい言葉。
暖かい手も、私を見つめてくれる優しい眼差しも。
全て、私が望んで手に入れた、モノ。




それでも、まだ、この胸の中には。

あの日の色も、あの日の想いも。

色褪せないまま。消えないで。


―――今も、まだ。






きえないひかり、あざやかなままのいろ。


でも、私はそれを閉じ込める。
胸の奥、小さな扉に鍵をかけて。
閉じ込めたまま、生きてゆく。




「……忍足先輩」
「んー?」
「温かいもの、飲んで帰りましょ」
「おー、ええよ」
「…………」
「なぁ、?」
「はい?」
「あんなぁ、そろそろ、な?」
「……?」


繋いでいた手に、少し力がこもった。
夕焼けに赤く染まった横顔。あの日のように。

―――あの日と違うのは。

赤い顔の理由が、きっと夕焼けだけではないこと。


「そろそろ、『忍足先輩』は卒業せぇへん?」
「……卒業、ですか?」
「うん」
「じゃあ、何て?」
「そら、もちろん……」

優しい眼差しを、照れくさそうに細めて。


「侑士、やろ」
「……ゆ、うし……?」


赤く染まった顔が、微笑んで。


「―――上出来」


ちかりと私の胸の中、優しい光を、灯した。
















きえないひかり、あざやかなままのいろ。


胸の奥、まだ消えない光。

それでも心は、また光を求めて。


そして扉は閉じられ、鍵は掛けられ。

開けられることのない胸の奥の部屋で。
今も密やかに、小さな想いは輝き続ける。





















・・・・・・・・・・あとがき・・・・・・・・・・

テニプリお題第一弾。
チョタと見せかけて忍足。何でこうなったのか、自分でもよくわかりません……。
昔好きだった人のことって、今でも覚えてたりするじゃないですか。初恋の人とか。
叶わなかった恋ほど、想いは消えないでそのまま残っている気がします。
忘れるんじゃなくて、新しく恋をするたびにそれはより心の奥深くにしまわれていくだけ。
そんな意味合いを込めたつもり。決して悲恋ではないんです……!!