歌舞伎町案内人

危険と狂気が背中合わせになった東京の夜の顔に14年間立ち続ける中国人がいる。
その職業は「案内人」(ガイド)。不夜城に生きる彼が見てきた「東京の闇」の真実の姿とは―。

日本語学校に通う中国からの留学生、李暁強(チューヤン)は、同胞の親友、劉剛(山本太郎)と将来を語り、励まし合い、「いつかは成功して、中国社会に貢献したい」という夢をもっていた。

しかし、勉強の傍らティッシュ配りのバイトで凌ぐ貧しい六畳一間の生活に、妻の愛梅との間にはヒビが入り始めていた。



だが、「10万人の就学生を受入れる」としていた政策が転換し、入管が厳しく制限されたことで、彼らの運命は大きく変わっていく。

劉はビザを失い姿を消し、愛梅には愛想を尽かされ、李は、歌舞伎町で一人生き抜く決心をする。



裏のルールを知らない彼は、ある夜、日本人キャッチに袋叩きにされてしまうが、マナブちゃん(舞の海)に助けられる。同じ失敗を繰り返さないため、マナブちゃんにケツ持ちを頼み、中国人相手の観光ガイドを始める。



自腹を切って店で遊び、客の目線に立ってガイドをする彼の手法は評判を呼び、就学生仲間をメンバーに加え仕事を拡充していく。持ち前の明るさで、地場のヤクザや新宿署のナダカ刑事(ガッツ石松)らと軽妙に渡り合い、知り合った日本人女性、ユキ(坂井真紀)と結婚する。



ユキとの間に子供も生まれ、幸せな生活を手に入れた李であったが、バブル経済がはじけた歌舞伎町では裏の勢力図が変わり始めていた。香港返還、自由化策と勢いづく隣国中国からのマフィアが流れ込んできたのである。



相容れないマフィアとの抗争が頻発し、李の周りも騒がしくなってくる。
そんな時、かつての親友、劉が帰ってきた。だが、背中には刺青が・・・

歌舞伎町の街角に、壮絶な運命の戦いが始まる。




 
ちょうど一年前、本映画「歌舞伎町案内人」の原作に出会った私どもは、あの新宿「歌舞伎町」に十四年間も立ち続けている、原作者の李小牧氏のエネルギーに驚かされ。圧倒されました。そんな時、かねてから友人であった張加貝監督が原作本を手に私共を訪れ、本原作の映画化を熱望したのです。彼は、新しいアジアン映画を創りたいというのです。
日本映画学校に学び、長年、真摯に映画演出の道を歩み、日中文化交流の映画製作の夢に生きてきた彼は、在日外国人による犯罪の多発を心から悲しんでいました。だから彼ほど、何時の日か日本人と仲良く生活する夢を見つつ、毎日を真摯に、ひたむきに生きている、在日中国人の方々の存在を問いたいと願っている映画人はいません。そして「一緒に合って欲しい。」と誘われ、原作者と監督と、二人の中国人に歌舞伎町で向かいあった時、彼らの情熱に、かってない新しいアジア映画の誕生を予感いたしました。歌舞伎町という風俗の街の映画に私共が託するのもは、次なる時代もまた、心の時代であることを予感させる作品であり、いつの時代も、若者たちの、体当たりの挑戦から未来が開けるものであることを証明してくれる作品です。
東京の副都心新宿は、江戸時代から庶民の男たちを惹き寄せ、戦後の焼跡にも闇市が立ち並び、地方から上京した男性が常に群がり集まる、不思議な磁力と生命力に満ちた街であり続けました。ボーダレス経済と同時情報化時代を迎えた今、東京は東洋を代表する国際都市となり、新宿「歌舞伎町」も、今や、独特の光と闇に包まれた、世界的一大歓楽街となりました。
そんな欲望が乱反射する街で、笑顔の挨拶と気配りをモットーに、体を張って、明るく生きぬく主人公の姿に、私共は、ふと、戦後の焼跡から立ち上がり、ひたむきに今日の繁栄を築き上げて来た、かつての私たち日本人の姿が思い起こされたものでした。そして、今、生への情熱とアイデンティティを失いかけた日本人に、彼らの赤裸々な生き方から、当時の日本人の減点の姿と、初心の心とを思い出して頂きたいと思い至ったのです。
人間には、モラルなき闇社会での裏切りの体験すらも、人を信じることの尊さを知る体験へと昇華させ、闇の世界に人間信頼の道を照らし出す光源となる生命力が宿されているのです。また、かっての古き良き東京庶民文化とは、全国各地から徒手空拳で上京した若者たちを受け入れる、深い大人の配慮に満ちた、世界でも稀な、大都会型の生活文化でありました。
かって青春を新宿で過ごされた方々には、実は、新宿文化とは、つい最近まで、そんな東京の伝統文化を、最も色濃く継承した街だったことを、ぜひ思い出して欲しいものです。
今、互いに共生し合う道を求めるアジアの若い心たちが、結ばれ合い、新しい国境を超えた共感の文化の輪が、本映画をきっかけとして芽生えることを、切に願わずにはいられません。
本映画「歌舞伎町案内人」が、その、ささやかな機縁となり、古き良き新宿文化と、未来のアジア国際共存文化との橋渡し役とならんことを願いつつ、製作の言葉とさせて頂きます


製作 ルートピクチャーズ/キネマモーションピクチャーズ 
企画 高橋松男事務所 
製作協力ユナイテッドパワー

13年前、日本映画に憧れて日本の土を踏んだ私が、初めて訪れた新宿歌舞伎町で、世界のどこにもない、ユニークなネオン街に圧倒されながら、私は、いつの日か日・中の掛け橋となる映画を創ろうと、深く心に誓ったものでした。
しかし、同じアジア人でありながら天と地ほどの差がある異境での生活には、故郷と肉親から離れた漂白感。異国にある居候感。貧しさから来る無力感。異なる環境、習慣、価値観に自分を適応させようとすることからの束縛感などが、片時も離れることなく私にまとわりついたものでした。でも、その代わり、日本映画学校やシナリオ作家協会の先生たち、映画やテレビの先輩たち。そして数多くの日本の友人たちの助けと支えとが私に与えられました。だから私は、日本の精神文化を学び、人生の様々な価値観を再確認しながら、一歩一歩、自分の夢に向かって前進することが出来たのです。私は、そんな自分と同じ思いを、李小牧さんに見たのです。彼が見た。そして感じた歌舞伎町の世界と融合しあって映画を創れば、日本人・中国人だけでなく、アジア、さらには世界中の人々に見てもらえる新しい国際映画が生まれるに違いないと確信したものでした。
日本の方々は、中国人留学生の実態、事情、考え方、習慣、感情を通して、中国人の目に写る日本人の姿から、今、日本の若者たちが忘れた日本人の良さや、日本文化を。さらには、そこから導きだされる日本人像から、日本の国際化・異文化との出合いといった今日的課題の展望を開く、きっかけが生まれてくることでありましょう。あの日の私の夢が花開く季節が、ついに訪れたのです。
私の13年間の日本生活に、援助や心づかい、温もり、楽しみを与え続け、映画のチャンスを与えて下さった方々に対し、私は、一人残らず、そのお名前を心の奥深くに刻みつけながら、その永遠の記念碑として、この映画を製作させて頂きます。


李 暁強
リ シャオチャン

チューヤン/1972年生まれ、香港出身
1998年に日本テレビ系「進め!電波少年」にてアフリカ・ヨーロッパ大陸横断成功。その後日本でタレントとして活躍中。2002年NHK「連続テレビ小説まんてん」に留学生役として抜擢。以降役者としても力量を発揮。今回映画「歌舞伎町案内人」では初の主演。

劉 剛
リ ガン
山本 太郎/兵庫県宝塚市出身
2000年「バトル・ロワイヤル」(深作 欣二監督)」での存在感は圧倒的。2001年には「光の雨」(高橋伴明監督)「GO」(行定勲監督)で第11回日本映画批評家大賞助演男優賞受賞。2002年「夜を賭けて」、2003年「完全なる飼育ー秘密の地下室」の主演作品も話題に。真撃で積極的な役への取り組む姿勢は多くの監督たちに高く評価されている。今、最もホットで個性あふれる俳優である。
ユ キ
坂井 真紀
92年よりTVドラマを中心に活躍の人気女優。現在はバラエティ「水10!ココリコ・ミラクルタイプ」(CX)に出演中。主なドラマ出演作に「ずっとあなたが好きだった。」(TBS)「てっぺん」(ANB)、「初体験」(CX)「恋は戦い」(ANB)など。映画出演は「ユーリ」(96)など。今回「歌舞伎町案内人」では唯一の日本人でマドンナ的存在。
マナブちゃん
舞の海/1968年青森生まれ
1990年5月、大相撲出羽海部屋に入門。「猫だまし」、「八艘飛び」などファンを驚かせる数々の技をくりだし”技のデパート”の異名をとる。1999年11月の引退までに、技能賞5回するなどの活躍をする。現在、CMキャラクター、NHK大相撲解説、スポーツキャスターとして活躍。映画、ドラマにも出演し、‘俳優 舞の海,として新境地への挑戦をはじめる。
ナガタ刑事
ガッツ石松/1949年6月5日生まれ。栃木県出身
1966年ボクシング、プロテスト合格。1972年東洋ライト級チャンピョン、1974年WBC世界ライト級チャンピオン(連続5回防衛)。1979年プロボクシング界から引退、その後芸能界へ転身し、テレビドラマ、バラエティー、映画、舞台、CM等、多数出演。著者、CDなど幅広く活躍している。
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