1. はじめに  

 

僕はまったくのボクシングの素人です。そんな僕が、とあることから10年ほど前よりプロボクサーの健康管理をお手伝いすることになったのです。昭和29年生まれの僕が小さかったころの娯楽は少なく、白黒のテレビでプロレスの力道山に興奮し、そしてプロボクシングの試合があると、テレビに釘づけとなったものです。ファイティング原田さんの試合は今でも目に焼きついています。今お会いすると、当時と比べて、それはそれは立派な体格になられていますが・・

ですから、ボクシングそのものに興味がなかったわけではありませんが、フリークというほどのものでもなく、普通のファンでした。そんな僕が見てきたボクシングはやはり何か訴えるものがあったわけです。それは半ば人間の動物としての本能なのでしょうか?相手と格闘するということ。僕にはボクシングはできませんが、見ていると体が一瞬動くことがあるのを覚えます。そしてリング上で本能むき出して戦って僕の体を動かさせてくれた選手たちは、試合後すぐに健康チェックで医務室へ来ることになっています。そこで見る彼らはとってもいい青年なのです。試合が終わり何かをなしとげた安堵感を漂わせた表情、対戦相手とくみかわす「お互いへの激励」などを見ていると、時として、鳥肌が立つほどうれしく思えます。

この決してショーではない、そして人間の感性に何か訴えるボクシングは、テレビ中継では全てを味わうことはできないのではと思いました。僕が感激したすばらしいスポーツであるプロボクシングは、リングサイドでじかに観戦などすれば皆さんも絶対に理解できるはずだと思います。そしてもし、皆さんが試合直後の医務室の彼らを見たら間違いないと思います。ですから、素人から見た目でリングとリング以外でのプロボクシングを紹介すれば、よりいっそう興味がわいてくれるのではと願って、思いつくままに書いてしまいました。

そして、僕は脳神経外科の医者ですので、堅苦しくならない範囲で、医学的な観点から見たプロボクシングも紹介したいと思います。

 

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