10. やはりルールは絶対だ!
ボクシングはただですら相手のことを殴るスポーツですので、ルールがあってこそスポーツとして成り立つわけです。ですから、かなり細かいルールが試合に際して規定されています。試合前後のことは別に述べていますので、ここでは主に試合中のことについて、知っていて役に立つものをお話します。
選手は一人、セコンドも一人
ラウンドの間のインターバルで選手は1分間の休みを取るわけですが、選手の手当てなどの管理を行えるのは3人と決まっています。その中でもリング内に入れるのは一人だけです。残りの2人はロープの外側から選手の手当てをするのです。このセコンドの人たちは、傷の手当てや水をかけたり選手の手入れするのですが、リングの中のトレーナーさんが多くの場合作戦などを選手に授けたりしてます。
体重あってのスポーツ
柔道、レスリング、重量挙げ、体格に左右するスポーツはその公平性から、体重別に競技を行うことになっています。ボクシングも例外ではありませんが、現在はかなり細かく分けられています。また、その名称も変遷しております。
昔は非常に大雑把に、ヘビー、ミドル、ウエルター、ライト、フェザー、バンタム、フライ、などに分けられていたわけですが、今ではその間にクラスがあるわけです。体重の詳細は、別表に記載します。このクラスの体重差は、軽いところでは1-2キロ、重いところで10キロ位となっているわけですが、細かく分けることにより減量の負担も減ることになるのでしょう。今では各クラスの上に「スーパー」と呼ばれるクラス、たとえばバンタム級の上に「スーパーバンタム級」と言うのが設けられているわけですが、実は数年前までは、これは一クラス上のフェザー級より少々軽いと言う意味で「ジュニアフェザー級」と呼ばれていました。「ジュニア」と言うのが力強さを感じない表現から変更されたのでしょうが、イメージではフェザーのほうが重くて、力強さがあるようでに感じますが、ま、本質的には変わりないので、現行で行きましょうか?
ともかく、一般に少しでも軽いクラスで戦い、自分のパンチ力を相対的に強くする努力が払われることが多いです。先に述べたとおり、ボクサーは試合前には平均5キロくらいは減量するので、一クラスか二クラスくらい体重の軽いクラスへ移動してゆくわけです。でも、減量に限界があったり、減量により返って適正なパンチ力がなくなってしまうとき、クラスを上に上げることが多いようです。以前に行ったアンケートでも、40%のボクサーが減量苦からクラスの変更を考えているとの回答を得ました。実際に、有名な選手でもクラスを3クラスくらい上げていった選手もいるわけです。アメリカの中量級のスーパースターだったオスカーデラホーヤは5階級を制覇しましたしね。すると体重にして10キロ近くは違う世界で戦うのですね。
クラスとグローブの関係
クラス |
体重(kg) |
グローブ |
ミニマム |
〜47.6 |
8オンス |
ライトフライ |
〜48.9 |
8オンス |
フライ |
〜50.8 |
8オンス |
スーパーフライ |
〜52.1 |
8オンス |
バンタム |
〜53.5 |
8オンス |
スーパーバンタム |
〜55.3 |
8オンス |
フェザー |
〜57.1 |
8オンス |
スーパーフェザー |
〜58.9 |
8オンス |
ライト |
〜61.2 |
8オンス |
スーパーライト |
〜63.5 |
8オンス |
ウエルター |
〜66.6 |
8オンス |
スーパーウエルター |
〜69.8 |
10オンス |
ミドル |
〜72.5 |
10オンス |
スーパーミドル |
〜76.2 |
10オンス |
ライトヘビー |
〜79.3 |
10オンス |
クルーザー |
〜86.1 |
10オンス |
ヘビー |
|
10オンス |
グローブは小さいほうがいいじゃないか
グローブは選手の重さに対応した大きさ(実際は重さとなるわけですが)が決まっています。現在のところウエルター級までが一律8オンスで、それ以上は10オンスと決めてあります。重くなるとグローブの肉厚(パンヤというところ)が増えますので、パンチ力は軽減されてしまうわけですね。より安全と言う計らいがあるわけです。
医学的な見地から行くと、ちょっと当てはまらないところもあるように思えます。何かと言うと、グローブが大きければ、それだけ相手の頭部に「かする」可能性が高くなるわけです。「かする」ことにより、頭部への回転衝撃が生じちゃうことがあるので。すると、これも、脳震盪を起こすことがあります。つまり、グローブが大きいと「本来当たらないはずのパンチ」が相手にダメージを与えちゃう可能性があるのです。別の言い方をすれば、相対的に、目標が大きくなることになります。ですから、理想的にはグローブの大きさはそのままで、衝撃の緩衝作用の優れたものがより安全と思うのです。
時間
1ラウンドは3分間です。これはタイムキーパーによって、本当に正確に測られています。はるか前の話ですが、どこかの東南アジアの国のタイトルマッチで、その国の選手がラウンド中にダウンして、非常に危うい場面になったとき、どうしたことか2分前後でゴングが鳴っちゃったことがあるようです。今ではあり得ない話かと思いますが。
では、3分終わる間際でボクサーがダウンした時はどうするかと言うと、そのまま3分のラウンドを延長して、カウントを数えることになっています。なぜなら、その後も試合はあるという前提があるわけですから、カウントはできると解釈されています。したがって、それ以上試合がない時、つまり、最終ラウンドは3分で本当に終わることになっていました。終わる間際で本当に選手が意識を失って倒れていても、カウント途中で試合が終わることがあったわけです。そのときは勿論判定です。でも、これにも異論がでて、最終ラウンドでも「決定的なパンチを時間以内の放ったのだから、そのパンチの効果を見るまでは時間は延長される」というようになり、他のラウンドと同じように扱われるようになりました。
ジャッジ
ジャッジ採点は3人で行っています。原則的には10点満点で採点します。ともかく10対10という、なんともいえない中庸の採点は極力避けることになっています。判断基準は、いいパンチのランディングの具合(クリーンヒット)が7割くらいを占め、良き防御能力、積極性、スポーツマンシップなどが順番に採点の基準になります。しかし、ジャッジ間で一生懸命勉強会を開いて採点の一様化を試みるわけですが、個人の志向が出てしまうので致し方ないところです。ダメージがはっきりあるダウンはー2点となります。スリップしたのかよくわからない程度は-1点と言う場合もあります。では、ダウンを2回すると、-4点かと言うと必ずしもそうではないのが、僕は少々不思議です。多くの場合、-2 + -2が-3なのです。また、10点満点である以上、減点が積もり積もって1点2点と言うのがあってもいいのでしょうが、現実にはありません。6点くらいが最低点だと思います。そうであるなら5点満点でいいのではと思うのは、僕だけではないと思います。
ともかく、僕が小さい頃から見ていたときと異なり、テレビの解説者の採点も「いろいろな制約」がある中で、すごく公平になってきたと思います。
採点は、日本国内のみならJBCの役員が、世界タイトルマッチではWBAかWBCの役員とJBCの役員が二重チェックで集計して行きます。集計の間違いはまずないものの思われます。その試合の勝利と言うのは、ジャッジ3人うのうち2人が勝者と判定した場合です。それ以外は、引き分け扱いとなります。タイトルマッチでの引き分けは「挑戦者が勝っていた」という証拠がないのでチャンピョオンの防衛となるわけです。
このように主観が多く入る採点形式ではなくて、パンチのランディングの数、つまりヒット数を客観的に計測しようという動きもあります。これは、アマチュアボクシングでは採用されているものです。ラウンドあたり50-70くらいパンチを出すようで、40%くらいヒットすると、いいようですね(何がいいのか今一歩わかりませんが・)。ダメージの評価は、ダウンなど以外では客観的に評価が出来ない以上、見かけ上のヒット数を至上とするのもよさそうですが、どうでしょうか。現在の採点でも取り入れられている30%あまりの防御技術やフットワーク、スポーツマンシップ、なども、プロスポーツとしては重要ではと思います。ましてや、見かけ上のランディング数で評価することに、アマチュアボクシング界だって問題ありと考えているところもあると思います。
ランキングのこと
多くの選手にとって日本ランキングに入るのは、つまり日本ランカーになるのは夢のような目標と思います。そのランクは勿論実績で決められるわけです。しかし、多くのチャンスを与えられる選手いるし、そうでない選手もいるし、相撲ではありませんが、怪我で休まねばならない選手もいます。ですので、ランキングの決定は、すごく公平で慎重でなくてはなりません。月に一回JBCでランキングの委員会が開かれ、検討されています。公平というのは本当に難しいのでしょうね。秤にかけられるわけではないので。
毎年春ごろに「新人王戦」と言うのが東日本と西日本で繰り広げられます。これに出場する選手資格は、デビュー後最低1勝をあげている選手です。彼らが各ウエイト別にトーナメントを行うわけです。テレビに映るわけではありませんが、トーナメントですので負ければ終わり。ものすごく必死な戦いが繰り広げられます。このトーナメント優勝すると、それぞれ西と東の新人王になるわけです。そして日をあらためて西と東で新人王が各クラスで戦います。この勝者が「全日本新人王」になるわけです。そうすると、自動的に各クラスの10位にランクされるのです。いわばエリート的な存在ですね。ちなみにこのトーナメントでのジャッジの件ですが、その性格上勝者を必ず決めなければならないので、4ラウンドでの集計が同じ場合には、各ジャッジは「判定引き分け」ではあるものの、どちらが優勢と言う判断をします。そうすることにより、公式記録上は「引き分け」でも、2-1あるいは3-0で勝者扱いの選手が決まり、トーナメントが成立していくわけです。PK戦が出来るわけではありませんので、このようになるわけです。
世界ランキングに関しては、JBCが世界レベルでのオーガナイザーであるWBA,WBCへ試合結果などを報告し、時としてランキングへのリクエストをしているものと思われます。原則的には月に一回は会議が開かれるようですが、商業的な要素はあるものの、ショーではありませんので、なかなか簡単にランキングが決まるものありません。WBCでは、年に一回は世界中の関係者が500名ほど集まり、公開して会議を開いています。このような会議は2002年末には東京ドームホテルで、日本で初めて開催されました。
怪我のこと
試合中に相手のパンチが当たったり、相手の選手と頭同士が当たってしまい、選手の瞼の周りの皮膚が切れちゃうことがあります。当然出血するわけです。余りに出血がひどければ、流血戦が見世物ではありませんし、試合に凄惨さは必要ありませんし、ましてや、目に血が流れ込むなどして、視界をさえぎってしまうような危険を伴うこともあるので、即座に試合は中止となります。相手のパンチが当たったことにより試合続行が不可能なときには、当てられてしまったほうが不利であったという判断より、「パンチング」として、相手のパンチの切れ味!!を尊重して、出血をして怪我をしている選手の敗者扱いとなります。偶然のバッティングによる場合は、お互いにいけないわけです。どちらが不利とか今後の試合を判断できないので、その中止になったラウンドまでジャッジが採点し、その合計で勝者を決定します。しかし、ラウンド数が少なくては文句もあるでしょう。ですので、予定のラウンドの半数以上経過していれば採点により勝者が決まるわけです。つまり4回戦では3ラウンドの怪我、8回戦では5ラウンドの怪我、10回戦では6ラウンドの怪我での試合が成立するわけです。○ラウンド、テクニカルディシジョンという表現をします。
世界タイトルマッチ(WBAのほう)では、偶然のバッティングのあとに試合を継続するときには、切れて出血している選手にとってはアンラッキーな事件であり、不利な要素があるなかで試合を継続すしなくてはならないので、切れなかったほうの選手に1点減点を課すことに最近なりました。ハンディキャップの是正ですね。
水分補給
休憩の間には、選手はいろいろケアーをしてもらいます。当然ですが、口はうがいをする選手が多いです。それだけでなく、本来過度の運動には水分補給が必須であることは、現代のスポーツ医学では常識となっています。ボクシングでは、スポーツ界での常識が通じにくいところがありました。それは「お腹を打たれるから水を飲んではかえってヤバイ」というものです。アンケートの結果でも、自分あるいはセコンドの人から水分補給をしてもらうのは全体の34%くらいでした。科学的トレーニングが進んできた現代では、今後も水分補給を進めてゆく選手が多くなるでしょう。
しかし、ボクシング界では、原則的に2002年の段階では、補給するものは水分のみ。他の栄養剤は禁止となっています。アミノ酸ローディングなどが種々のスポーツではやっていますが、これらの即効的な効果には疑問もあります。ともかくスポーツの種類の特殊性から、遅れが目立つ分野であることは否めません。この水分補給に関しては、ボクシングの世界のなかでは先駆けて日本で水分以外、塩分、糖分、ミネラルなどを許可し始めました。ボクサーを管理する欧米の医師たちも、すごく賛同してくれました。でも、ボクの視点からすると、この水分補給に関しては全身的な問題もさることながら、ボクシング特有の頭の事故とも関係がある可能性もあるので、今後問題を掘り下げていくべき課題だと思っています。