11.テレビ放映があるときは  

 

テレビ放映がある興行は、やはりなんとなく華やかな感じがします。

特に生放送だと、選手ではないのですが、時間のとり方になんとなく緊張するのです。すべては、先ほどの僕たちから見て左前方(皆さんの北側の席から見て、右手前のほう)のテレビ局のディレクターの指示(キューというそうです)選手の入場の準備が整い、いかにも選手が緊張しているところをカメラがおさめるようになったら、ゴングの指示があり、「両選手リングに入場でス」とアナウンスの始まり、かっこいい音楽が鳴ります。

 

照明など

ひろーい会場で、試合前には照明が落とされていて、試合のアナウンスとともに突然にリングだけ明るく照らされるさまは先も述べましたがなかなかいいムードです。大観衆が見る対象物はこれに限られ、試合が本当に「スポットライトを浴びている」と言う感じで浮かび上がります。勿論、ライブステージやK1、プロレスなどと比較すると、ボクシングの演出はとても地味なものです。それでも、あの浮かび上がりは広い会場の中での選手と応援の一体感と言う意味では良いと思います。

 

リングのこと

例の「四角いジャングル」ですが、テレビ放送があるときは当然、いろいろなコマーシャルが入るわけです。リングサイドのポストもそうですが、リングの上からのカメラに入るようにリング中央に大きく、広告がかっこよくペイントされています。しかし、これは、時として選手にとっては滑りやすい状況を作り出しているのです。ダウンでなく、フットワークのながれのなかで、このペイントに足元をすくわれ、選手が「スリップ」することがあります。まあ、なんとなく欧米風でかっこよくていいのですが。

 

会場のこと

世界タイトルマッチのための会場は、やはり多くのファンの方に一緒に見てもらいたいわけですので、2000人も入らない後楽園ホールではなく、大きな会場が使われることが多いです。これまでに、国技館、有明コロシアム、さいたまアリーナ、日本武道館、早稲田講堂などなど、いろいろなところへお手伝いで行かせていただきました。このような大きい会場ではリングぎりぎりまで観客席があるわけではないので、選手との一体感と言う意味では、後楽園にすぐるものはありません。でも、照明などの効果で、少しでも後楽園ホール並みの一体感が味わってもらえればなーといつも思っています。

あと、リングは各会場の床に直接設営するので、実を言うと、冬場はリングサイドの席は足元がものすごく冷たいのです。その日の興行は4,5時間になるので本当に辛いです。靴底にホッカロンを忍ばせておくことは必須ですね。実を言うと、テニスの試合の関係でも有明コロシアムへ行くこともあるのですが、11月だというのにスタッフの部屋には、ホッカロンがたくさん準備されているのです。もし皆さんも、リングサイドあるいはコートサイドで観戦されることがあれば、足元が一番重要なのを覚えておいてください。

 

アナウンサーのこと

これは、リング上でのアナウンスのことではなくて、実況を行っている方たちのことです。試合の開始前などにトレーニングされた綺麗な声で、選手のプロフィールや今日の試合に臨む気持ちを会場のみんなに伝えてくれます。やはり、このような演出というかお客さんに対するサービスはいいですね。この業界の世界の話は僕はこれ以上はまったくし知りませんが、唯一気がついたことがあります。中継がある日には、テレビが入る前の試合でマイクに向かって実況中継を練習している方たちがいることです。そのような特別なときだけでなく、普段の後楽園ホールの試合のときでも、2階の立ち見の場所から実況中継の練習をしている方も見うけます。どの世界も、下済みから始まり、努力と研鑽により上へ上へと行くのでしょうね。

 

携帯電話のこと

テレビというマスメディアは、一般の僕たちにとっては、とても特殊なものであるわけです。そのようなメディアに、一般人が映るということは、非日常的なことなわけです。タイトルマッチなどは生中継とか録画放映があるわけです。ある生放送の試合で、僕が一列目の真ん中に座っていました。テレビカメラはホールの都合上、僕たちのほうへ向いて構えているわけですので、僕たちの頭や顔が、テレビの画面で、選手の股の間に見え隠れすることがあるのです。とある試合に臨席しているとき、左のズボンのポケットに入れてあった携帯電話がブルブル震え始めました。取り出して、頭をリングより下のほうに持って「もしもし」とそっと答えると・・「谷さん、今、テレビに映っているよ・・」とのこと。こんなことも2度ほどありました。僕の一部分がテレビに入っちゃうことがあることはわかっているのですが、非日常的なボクを見て電話をくれたわけですね。優しい友達ですね。でもボクの場合、映っているのではなくて、画面に入っちゃっただけなのですが。しかも、選手のまたの間くらいからですからね・・生放送って、こういうことがあるのですね。

 

パンフレットのこと

そんなわけで、友人たちは時として僕の顔がテレビの画面に入っちゃうのを目ざとく見つけてくれます。後日に会うときに、よく質問されることがあります。「ねえ、いつもそうだんだけどさー、何でパンフレットで顔隠しているの?」と。「テレビに映りたくない理由があるの?」と。そうではないのです。選手がリングサイドに近づくと、先の話じゃないのですが、汗やトランクスの水や、鼻血などが飛んでくるのです。洋服は半ばしょうがないのですが、口の中に入ってしまうとさすがに余りいい気持ちはしません・・ですから、手元にあるパンフレットで口の中に入らないように、ガードをしているのですよね。目は開けていなくてはいけないのは当然ですが。そうすると、テレビの画面に入っちゃうときの僕の顔・下半分はパンフレットで隠れているのでしょうね。

このパンフレット作戦は、時として恥ずかしい結果になります。試合が終わった後などで、みんなと会っていると、みんなが僕の顔見て笑うのです。パンフレットのインクが僕の鼻の頭とほっぺたについてしまうのですね。顔が油っぽいから、インクが特に落ちてしまうのでしょうか?皆さんも気をつけてくださいね。

ここで余談なのですが、僕はまだ素人で、先の鼻血や汗などをうまくよけられないのですが、これにはどうもコツがあるようです。鼻血などがこちらに飛んでくるのは、鼻血が出ている選手に対するストレート系のパンチではなく、フック系のパンチが当たったときなのです。つまり、試合をよく見ていて、フック系のパンチが鼻血の選手に当たりそうなときには、血は避けたいわけですから、パンチの予測ができないと五体満足にリングサイドにいられないのです。僕などは、手元に例のプログラムがないと、選手のファイトに夢中になり口を開けてしまうので大変であります。

 

ラウンドガールのこと

リングを華やかにするラウンドガールの仕事時間はラウンドの間の休憩時間です。この1分間のなかで実際彼女たちがリングを一周するのは多分2-30秒間くらいではと思います。リングサイドの僕たちにとっては、本当に目の前で彼女たちは歩くわけです。ですので、どうしても、ラウンドの合間の華やいだ時間には、この美しい彼女たちに目がいってしまうわけです。ただですら、男っぽい世界ですから、ましてや、ボクみたいな中年男性はしょうがないことではと思っているのですが、ただ場所柄、僕たちの見るアングルは、彼女たちの足元の下のほうから見上げる形となるわけです。リングの向こう側のサイドにいる記者さんたちなども彼女たちを見上げているわけですが、通常の視線とは感じが違うので、どうしてもなんだか「スケベ」そうな感じが否めません。ミラーイメージというか、人の振り見てわがふり直せではありませんが、自分たちも向こう正面あるいはテレビカメラに見られていると思うと、見上げるのにはちょっと勇気がいるのです。

でも気がつきました!!彼女たちがリングの上を周っている時間は、テレビには映らない広告の時間なのでした。ですので大丈夫なのです。でも、自分の本心を見抜かれたいくないのが本能なのでしょうか、小心者のボクとしては、どうしても「チョロッ」としか見上げられないのです。すると隣に座っているJBCのベテランのスタッフがアドバイスをくれました。「先生、チョロッと見ると、なんだかスケベくさいのです。ですから、堂々と見たほうが自然です」と・・。それ以来、勇気を持って、目線だけでなく顔ごと上を向き見るようにしてます。こんなところに技術の進歩が見られても、あまりしょうがないのかもしれませんが。

 

時間調整のこと

先にも述べたとおり、試合は何時終わるか水物です。テレビ中継のときは、キーになる試合の開始時間が決められています。ですので、他の試合がKOなどで早く終了しちゃうと、時間があいてしまうことが起きちゃうわけです。これを調整するため、世界タイトルマッチなどでは、予備試合というのが2,3試合用意されています。それこそ時間調整の意味も含めて即興的に試合が開始になったりすることもあるわけです。さらに、もし予定試合が時間どおり終了したときには、準備をしてきた彼らはかわいそうなことになります。出番がないわけですけれど、最近ではテレビ中継が終わった後に、試合を行うようにしています。それでもボクシング好きのファンが一生懸命応援してくれているんですよ。一段と華やかな舞台でボクシングが出来ていることには変わりはありません。

 

外国の偉い人

世界タイトルマッチなどでWBCWBAの役員の方が来日するわけです。彼らは往々にしてお年をめされています。ですので、よくテレビなどで見る試合開始前のセレモニーのためリング上に上がるときなど、白のコーナーの階段から上がるのですが、もうこれが心配でしょうがありません。やっとのことですので、こんなところで転ばれて怪我でもしたらと・・また、彼らの中には来日するのが楽しみの方がいて、さらに、呼んでもいないのに娘さんと一緒に来ちゃったり、いろいろなものをお土産としてお持ち帰りになることもあるようです。お土産のつもりで用意したつもりでない日用雑貨品までも・・と言うこともあるのです。

 

ドーピングのこと

近年は、アンチドーピングといって、どのプロあるいはアマチュアスポーツでも薬物の不正使用は厳しくチェックされるようになっています。これはスポーツとしての紳士協定に違反しているからです。ボクシングも例外ではありません。しかし、その検査費用と言うのは、かなり高額なものなのです。これは検査する薬物の種類が多ければ多いほど当然、高額となります。ですので、プロボクシングでは、世界タイトルマッチのときのみ実践しているのが現状です。本来ならば通常の試合にも行うべきなのでしょうが・・。

これは、タイトルマッチが終わった後に行う健康チェックのときに同時に行います。具体的には、選手本人と僕たちが一緒にトイレへ行き、選手本人の尿であることを確認して、二つの小瓶に分け移します。それぞれをバンデージでしっかりと封印し、その上に役員の名前と僕たちの名前をサインするわけです。こうして検査するまでの不正を防ぐようにしてます。しかし、ここでも問題があります。なにしろ12ラウンド汗だらけで戦った選手ですので、おしっこなんて出るわけがない・・という選手がいて当然ですね。そんなときには、僕たちは選手の控え室でずーと30分以上も待つことになっちゃうんです。「おしっこ待つだけで30分・・」とか思うとがっくり来てしまうのですが、敗者の選手は本当にがっくり来ているわけですので、自分たちの事情で彼らのことをがたがたするのもかわいそうですし、いつもそっとしているつもりなのですが。反対に勝者のほうは、マスメディアの方たちとのインタビューなどに追われて、彼ら自身は、勝った喜びとともに、おしっこどころではないときがあります。そんなときも、脇役の僕たちはボーっと待つしかないのです。

 

興行すること

世界タイトルマッチでは「ミスマッチだ」などの論評も、一見あっさりした敗戦では、堂々とまかり通ります。しかし、この世界戦は莫大な費用がかかり、会長は愛弟子に何とかチャンスを与えるべく、マッチメーキング、チケットの売りさばきのために東西奔走するわけで、ジムの関係者(家族、親戚、その他)一丸となって地味な努力の結果成り立っていることが多いのです。チャンピョンの誕生を夢見て、採算を度外視したマッチメークをしていることも多いことは事実なのです。ですので、夢を見るているところもあり、先の論評は遠からず当たっているかもしれませんが、その裏には、地道な努力もあることを知っていてもとおもいます。

 

マスコミの方々のこと

報道メディアとすると、ボクシング人気のかげりと共に、「世界タイトルマッチだけ報道していれば事足りる」という風潮もあるのも事実でしょう。興行する側もマスメディアにアプローチをして、少しでも会場のほうへ足を運んでもらえるように、そして、ボクシング担当者が「ボクシング好き」になってくれるように努力することも、ボクシング人気の回復に必要なのではと、ある報道メディアの方が書いていました。

 

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