6. 試合観戦の実際 

 

一般的なボクシングの観戦に際して、ボクシングの試合そのもの以外で知っていて損のないことをと思い書いてみます。

 

入場券

入場券は勿論青いビル一階の入場券売り場で売っているわけです。このボクシング観戦の切符は一般に高いといわれています。野球などは収容人員の関係もあり、内野席で5-7000円くらい、外野なら1500円くらいであるでしょうか。ボクシングではリングサイドは1万円、立見席でも3000円くらいします。ボクシングファンの中でも、高いか安いかは論争の的になっているようです。普通のファンの方は、5000円の席で月に一回観戦しに来るというのが平均的なのかもしれません。試合を心の底から選手と一緒になれ頑張ったなら安いのでは。

 

試合はどのように行われるのかと言うと

一日の試合数は10-13試合くらいですが、その内容は異なります。ご存知と思うのですが、プロボクシングの試合は4ラウンド、6ラウンド、8ラウンド、10ラウンド、12ラウンドと大きく別けられます。4ラウンドはボクサーのクラスとしてはC級と呼ばれる選手が行うものであり、この4ラウンドの試合を4勝したボクサーは(何敗してもいいのですが)B級になります。このクラスとなると、6ラウンド、8ラウンドの試合に出場することができるようになります。さらに4勝するとついに10ラウンドや12ラウンドの試合に出場することができます。これで晴れてA級ボクサーの誕生であります。

この一日の試合数はまちまちですが、一日の合計ラウンドは50ラウンド以内にすると言う約束があります。すると、6時に試合開始で9時から10時の間に全試合が終了するのです。ときとして、ラウンド数が多くなり合計が54ラウンドくらいになってしまうことがあるようですが、そのようなときには545分開始になったりします。

当然のようですが、4ランドから行われ、メインイベントは8または10ラウンドの試合構成が多いです。

 

会場のこと

後楽園ホールではリングを中心に階段状の客席が取り巻いているわけです。そして、リングサイドにも客席が数列あるわけです。北側の一般の入り口から入ったとして、リングの周りのことを説明します。テレビカメラも北側にありますので、テレビで見ている感じと同じです。リングの右側が赤コーナーで左手前が青コーナーになります。向こう正面の辺にずらっとおじさんたちが8名くらい並んでいます。そこが役員関係者の席です。向かって、左から、リングアナウンサー、タイムキーパー二人、僕たちリングドクター、JBCスーパーバイザーなど役員、その他の関係者などです。3人は残りの3辺にそれぞれ、小学校の机のようなものが置いてあり、その前に座ります。手前側の辺は記者さんたちなどの席です。左右の辺はジャッジのところ以外は、認められたカメラマンさんたちのためのスペースです。また、テレビ中継があるときは、右横で、アナウンサー、ディレクターさん、ゲスト、解説者の方々が座るようになっています。勿論、赤と青のコーナーの下は、そのジムの関係者で一杯です。

また、左奥のほうに暗いスペースがあります。ここには、当日担当のジャッジやレフェリーの人たちが控えています。試合には4人が必要ですので、いつも残りの2,3人が控えているわけです。さらには今日は非番であったJBCのスタッフが会社帰りのスーツ姿で観戦していることが多いです。

 

 

 

プログラムのこと

会場に入るときに、多くの場合B4の紙を半分で折った程度のものから、数ページに及ぶプログラムがなんと!!無料でもらえます(世界タイトルマッチは有料であります)。プログラムはスポーツの特殊性から試合の直前での変更や中止もありますが、メインイベントの選手のプロフィールや当日の試合展開の予想などが書いてあるので、にわか勉強も出来ます。それ以外にも全出場選手の戦績や年齢出身地などもわかり、選手を身近に感じることもできるので、当日の試合をより楽しむことができます。当日の試合を行うプロモーター側からのプログラムですので、その点で「偏り」を少し加味したほうがいいかもしれませんが。

 

飲み物、食事のこと

売店は一個しかありませんが、どっぷりと食事をしてたり、ビールや日本酒などを飲んで、かなり酔っ払っているような観客の方は余り見たことがありません。試合に夢中になり、のんびり飲んで酔っている暇がないのかなーと思っています。少なくとも国技館の相撲観戦とはだいぶ様相が違います。

あと、先日久々にあったのですが、観客の方が酔った勢いでもないでしょうが、勝敗の結果に激怒して、リングにものを投げ入れるたのです。とても悲しいことですが、これは、ボクシング観戦では本当に少ないのです。正直言ってびっくりするくらいです。応援しているときは、思いっきりエキサイトしていますが、判定が下れると勝敗がどうであれ、観客の方たちは、選手と気持ちが一緒になって「ご苦労様でした、よくやった」という感覚になるのではと思います。これは、ほかのスケールの大きな競技の勝敗のときとは異なり、お客さんと選手の間が近く、応援する人たちは選手の気持ちとほとんど同じになれるのがボクシングなのではないでしょうか?不本意な勝敗の判定を受けて「バカヤロー」などと叫んでいる選手はいませんから。

ちなみに、今はどこでもそうでしょうが、会場内は禁煙です。横楽園ホールに入って、左右に喫煙コーナーがありますので、愛煙家の方はそちらでお願いします。

 

選手の入場

「両選手リングに入場です」というアナウンスとともに、二人の選手とトレーナーさんが入場します。タイトルのときは、それぞれ別々に入場するわけですが。タイトルマッチでなくても、興行によっては、それぞれの選手のプロフィールの紹介や、本日の試合にかける選手の意気込みを紹介してから入場することがあります。身近に感じられてとてもいいと思います。また、入場の際に音楽を流すことがあります。これは、選手のリクエストが多いようです。あるいは、選手の友人などが演奏あるいは歌う場合もあります。一般にノリのいい曲が多いですね。当然ですが。

 

試合の間

冒頭で述べたごとく、各試合は4回戦、6回戦、8回戦、10回戦、12回戦などがあります。1ラウンドは3分で、間の休憩は1分です。つまり、4回戦なら試合開始から15分で試合終了です。次の試合は通常はすぐに始まります。ときとして、一日の興行の終わりごろになると、試合の合間に何かイベントがあるときがあります。リング上で、ジムの関係者のダンス(ジムの会長の奥様たちとか・・、とても素敵です・・)、健康体操、プロモーターが応援する歌手の5分間くらいのステージ、さらには、人気のある有名なランカーなどがファッションショーをしたり、いろいろであります。

このような時は別としても、試合の合間に、トイレや買い物を済ませるのが普通ですね。自分の席に戻るときは、どんなスポーツ観戦でもそうでしょうが、プレーの最中に席へ移動することは好ましくないでしょう、ゴングが鳴って休憩時間になったときにするのが望ましいです。

 

試合の開始

各試合は当然ゴングで始まるわけですが、その始まりには、決まりではないのですが、挨拶と言うか暗黙の礼儀みたいなものがあります。それは、最初のラウンドと最後のラウンドの始まりのとき、両方の選手がグローブをあわせてから試合を開始することです。特に最終ラウンドは、レフェリーさんが「最後も頑張れよ」と言う感じで、手を添えてグローブを合わせます。しかし、これはあくまで礼儀ですので、試合開始のときなどは特にレフェリーさんは何もしませんので、選手間の問題なのです。開始の時にグローブを出そうとした選手にいきなりパンチを浴びせて、そのままノックアウトで勝ってしまったという事も目の前で見ました。ルールではないの、何もいえませんが、あまり感じのいいものではありませんでしたね。世間で生活していれば、常識的行動でまかり通らないことがあると言うことで、慎重のうえにも慎重でなくてはならない3分間なのでしょうか。

 

声援、応援

このスポーツほど、選手と気持ちが一緒になって応援するものはないのではないでしょうか?ですから、応援は思いっきりしたほうがすっきりするでしょう。そして、先にも述べたとおり、選手が一生懸命頑張って、応援も一生懸命頑張れば、試合の結果が不本意なものであれ、選手のボクシングへの動機が「何かを成し遂げたい」ものであれば、終了したときには、一緒にその達成感を分かち合うことができるのではないでしょうか?

だから、応援は本当に自由です・・ルールなんて、エチケットなんて、ないでしょう。なんたって、やっている本人たちが歯を食いしばって、相手と戦っているのですから。

僕たちは、あくまでもニュートラルでいなくてはいけない立場です。ですから、応援とは無縁なのですが、自分も含めてですけど、周りのJBCのスタッフも、自分がひそかに応援する選手が頑張ると、興奮をかくせなくなることが結構あります。

選手のファイトマネーは別にも述べたとおりの程度ですが、4回戦ボーイなどは、そのファイトマネーをお金ではなく、チケットとしてもらうことが多いと聞きました。売るか売らないかは別として、少なくとも自分の関係者が会場には来てくれることになります。試合前後、試合中も通して、その応援が選手の力になっていることでしょう。そして、選手も、応援に来てくれた人たちに手を振れること、できればノックアウトなどで派手に試合に勝って、ロープの上に登って応援に応えたいのは誰でも同じことでしょうね。

この応援の内容は背中で聞いていると、とても面白いものであります。単に「キャー」とか「アー」とかではなく、どのスポーツでもありますが、「そうじゃないだろーー!!」「そこは、ボディーだよー!!」「もっと、足使って!!」「こら!!レフェリー!!何でそんなところで、止めるんだ!!」など、さながら監督、コーチの部類のアドバイス、激励、罵声を浴びせる方もいます。「そこはボディーだよ」と言われても、超一流でないとなかなか相手のパンチをかいくぐって、ボディーを打つことは難しいようですが。ちなみに。

また、ボクシング独特の声援というかアドバイスがあります。「よし!!そこでまとめろ!!」です。「まとめろ!!」って普通の方にとっては、何か荷物かなんかまとめちゃいそうですが、そうではないのは当然です。ボクシングでは、一発の大振りのパンチより、小さな切れのあるパンチの連打が有効とされています。つまり、「まとめろ」とは小さなパンチを立て続けに打ち続けろ・・ということです。

しかし、不幸にもあまり声援などもなく、ボクシングの試合自体もお互い噛み合わない感じで、見ている観客の方に多くの感動を与えられない試合があることも事実です。そんなときの応援・・ヤジ・・で、僕は感激したのがあります。ある有名なボクサーの10回戦の試合でのことでした。最初は観客の多くは「はやく、スカッと相手を倒すであろう」と期待して、応援もすごかったのですが、この日はどうもぱっとせず、興奮と期待がさめてきてしまい、ラウンドが進むごとに声援もほとんどなくなりました。そんな第6ラウンドあたりで静かに試合が進行しているときでした。観客席の上のほうから、「○○くーーん、僕、これから寝るから・・試合が終わったら起こしてねー」との声援?これには、選手には失礼ですが、会場は一瞬和んでしまいました。

応援の一環として、ラウンドの間にアナウンスされるのが、「激励賞」であります。これは、後援会の方や、友人などが、選手への激励の意味で、金一封(通常は一万円らしいのですが)をお渡しするわけです。選手側は、贈られてきた激励賞の外側のノシ袋だけ、リングアナウンサーのところへ持ってくるわけです。そして、ころあいを見てアナウンサーが読み上げるわけです。「○○選手に、○○さまから激励賞が届いております」と言うような感じで。これは、なかば、後楽園ホールへ来ているお客様の方たちへのコマーシャルにもなるわけで、いろいろな会社の名前が読み上げられることが多いです。ですので、もし、広告をと考えておられる方がいらしたら、激励賞もひとつの手段かもしれません。しかし、中には理解できない激励賞もありまして、読み上げるアナウンスが「○○選手に激励賞が隣のおばさんよりとどいております」などと・・隣のおばさんは本当に営利目的でなく応援しているんだなーと感じちゃうわけです。

話はまた戻りますが、応援はエキサイトして当然でしょう。判定やレフェリーの判断などにいろいろ思われる方もいるでしょう。ですので試合が終われば、ややもすると、喧嘩騒ぎになりかねないのではと想像に難くないと思われます。しかし、本当ですが、僕が10年余り見てきた300あまりの興行の中で、ファンからリングへ物が投げ入れられたのが一回、そして、ファン同士が喧嘩しそうになったのが一回でした。その喧嘩騒ぎのときは、リング上でインタビューを受けていたチャンピョンがそのマイクで「お願いですから、やめてください」と叫んだら、その騒ぎは収まってきました。なかなかいいもんでしょ。

 

照明・音響

リングの天井にあたるところに黒い四角い大きな枠があり、その中にライトがたくさん下の方向に向けてセットされています。このライトのセットは、時に床まで下ろされ、調整されているようです。試合開始前に、会場全体はうす暗いものです。そこに、リングアナウンサーの声で「ただいまよりー」などとアナウンスがあると、急にリング上だけが強烈に照らされるあの一瞬は、初めてリングを見にこられた人たちは「おーっ」と感嘆しますが、なんかスカッとしていて僕は好きです。基本的にプロボクシングはショーではないので、変な派手な演出はほとんどありません。この演出と、選手が入場する時に音楽が鳴らされるときがあるのが唯一の派手目の演出ではないでしょうか?

この照明や音楽などをオーガナイズしているのは後楽園ホールの専門の方たちで、入り口左上のほうの窓ガラスに囲まれた小さな場所から行っています。僕はあいにく面識がないのですが、いわゆる“阿吽の呼吸”というやつで、実にうまくよどみなくこなしてくれます。

 

時間掲示

ラウンドごとに、あとどのくらい時間が残っているかの時間表示を東西二箇所で掲示してます。この電光掲示板は2002年になり新しいものに変更されました。テレビ中継などでは、ときとして、ラウンドの開始からの経過時間を出しているときもあると思うのですが、会場のものは残り時間の表示です。ですので、観客だけでなく、選手も「あと25秒頑張れば、コーナーに戻って休める!」ということなどがわかるわけです。

この時間計測のスタートボタンは、実は、リングアナウンサーがタイムキーパーがたたくゴングの音と同時に押しているのです。そして、ラウンドが終わると、またボタンを押しているのです。ただ欠点がありました。ラウンドの途中で試合が中断することがあります。そのほとんどが選手が怪我などをして、僕たちがリングサイドに上がり、選手をチェックしている時間時間ですが、これは3分間の時間外であります。すると掲示されている時間は当てにならなくなるので、3分00秒へリセットすることにしてます。あとは、タイムキーパーの時計だけが正しい時間を知っていますので、会場のほかの人たちは誰も残り時間を知らないことになっていたわけです。しかし,2004年より,時間掲示も観衆の方にやさしくなり,ちゃんとその時間分を差し引いて,時間を掲示するようになりました.これで安心ですね。

 

試合が終わると

試合が終わるのは、ノックアウト、判定、あるいは片方の選手の負傷による試合の中止などです。でもどの試合が終わったときでも、選手同士は本当にお互い戦ってきたことをたたえあいます。抱き合います。どんなスポーツでもそうですが、ラグビーに見られるノーサイドより、もっとノーサイドではないでしょうか?勿論、判定の結果、あるいは、ノックアウトという悲劇的な負けを喫したボクサーはロープに顔をつけて、落胆を隠しきれないでいます。しかし、彼らも一生懸命やったのです。勝った選手の右腕がレフェリーによりリング中央で掲げられ、声援を受けているとき、負けた選手はそのままリングを去ることはほとんどなく、各方向の観客へふかぶか挨拶をして、そして相手のコーナーへ行って挨拶をするのです。すると、相手のセコンドの人たちは彼のことを、誉め、ねぎらい「ナイスファイト」と言って、タオルで顔を拭いてあげるのです。それからリングを去ります。その帰り道もいつも労いの声援で一杯になっています。

僕には、若いころテニスの一生懸命練習をして、試合に出ていた頃の思い出っていろいろあります。でも、克明に覚えているのは、1対1のシングルスの試合で負けた時の事です。11で負けるというのは、ひとえに自分が相手より劣っていることを認めざるをえませんので、悔しくて忘れられません。相手と接触もしていないテニスですら、このような状態です。この日のために長い間節制などを積み重ねてきて、たった一人の相手と一人きりで戦うわけです。負ければ、すべてが自分の責任と感じるでしょう。その辛さたるや想像を絶するものがあると、僕は確信します。

もし皆さんも、リングサイドに来ることがあったら、試合が終わったとき、勝った選手の華々しいインタビューではなく、もう片方の選手をじっと見てあげてください。何か、感じることがあると僕は思います。

 

外国の選手

特に世界タイトルマッチではないとしても、ほかの国の選手を対戦相手としてリング上で戦うことがあります。本来が国際的スポーツですので当然であります。しかし、北米、中南米、ヨーロッパ、オーストラリアなどから来ることは普通の試合ではほとんどありません。実際、通常の試合ではアジアが多いです。おとなりの韓国あるいはインドネシアからの選手もいますが、特に、フィリピン、タイからの選手が多いです。

ところが、フィリピンの選手で社会的に問題となったことがあり、ごく一部ですが、不法入国を試みる選手がいたのです。試合前の前日計量でチェックしたけど、その後、試合会場へ来ないで、どこかへ姿をくらました選手や、真面目に試合だけは行い、その後、翌日の帰国までの間に日本にいる知人と連絡を取って、帰国しなくなっちゃったと言うこともあるようです。

現在、タイの選手との試合が多いですが、彼らはお国柄もありますが、とても礼儀正しく、優しい顔をしている選手が多いです。試合の前は、知らない国の日本へ来ていることから少し緊張している選手もいますが、試合後は、なにかほっとしているようなところがあります。先日いた選手は、優しい顔をしていた選手なのですが、なんだか、リングに上がったときから、“オカマ”のようなしぐさがあり、変だなーと思って試合を見守っていました。試合が終わると、通常はちょこっと抱き合い、お互いを健闘しあうことが多いわけですが、彼はなんと、相手の日本選手のほっぺたにキスをしていました。このパーフォーマンスには、会場は大うけでした。タイの選手は日本で言うキックボクシングの原型であるムエタイ出身の選手が多いです。ですので、どこかで足が上がるのではと思うのですが、結構大丈夫なんですね。彼らの「腕しか使えない」というストレスは大変なのではと思います。昔は、余り自分が窮地に陥ると、いわゆる「肘でのパンチ」を使うことがありました。これは、ムエタイでは立派なテクニックですが、打たれたところの皮膚が切れてしまうことが多いのでボクシングでは禁止されています。

 

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