9. 素人がボクシングの技術を楽しむ
どのスポーツでも共通ですが、必ず攻撃と守りがあります。「一瞬にして、攻守ところを替え・・」といって、スピードさが売りのスポーツもあります。ボクシングは剣道、柔道、レスリング、フェンシングなどと並んでその切り替えの速さは、スリリングそのものです。ですので、その一瞬を逃すことなく見ると、より一層ボクシング観戦が楽しくなるでしょう。
ここでは、僕みたいな素人がボクシング観戦を楽しむための事柄を思いつくままに述べてみたいと思います。
心構え
先にも述べたとおり、4回戦、6回戦、8回戦、10回戦などと一日の試合は進むので、時間が許す限り早く会場へ来て、4回戦の試合から観戦することをお勧めします。なぜなら、身近な4回戦のボクシングを見て、そのあとに、防御技術、パンチのスピード、フットワークなどの進化を確認することが出来るからです。ボクシング技術の時系列にのった進歩をその一日で理解できるのではと思います。
採点の薦め
自分の応援する選手がいても、極力冷静に試合を分析するのって・・いけないことではないと思います。テレビで世界タイトルマッチなど見ていても、同じことだと思います。厳格なスポーツですので、単なる応援だけでなく、勝敗の決断に参加するようなことはいかがでしょうか?そのほうが、より細かくボクシングを楽しむことができると思います。具体的な採点基準は、優先順位があると思いますが、クリーンヒットの数、パンチの質(切れ味、力強さなど)などの攻撃力、このあたりが大きな要素となります。残りの3割くらいを、パンチをブロックする腕の使い方、体や頭の動かし方、などの防御力、相手に対するaggressiveさ(積極性)、つまり後ろへ下がりながらカウンターパンチを狙うスタイルより、前進しパンチのランディングを試みる積極性などで占めるわけです。あとは体力も加味されます。特にラウンドの後半などで、疲れた態度、表情を出すことは、不利な材料になるはずです。選手の顔そのものの容姿は一切関係ないのは当然です。
ともかく、自分の採点がほかの公式のものとどの程度一致しているかを見るのもひとつの楽しみですね。特に応援する選手がいる試合では、自分の冷静さのテストになりますね。よく試合が判定で終わった後に、負けた選手の応援団が「判定がおかしいぞー」などと罵声を浴びつけることがあります。よく採点の勉強をしてから叫んでほしいときがあります。勿論、微妙なところでは、レフェリーさんの個人的嗜好が出るのも事実です。そこまで把握していればかなりのプロです。前へは出ているけど、どうもパンチが実は当たっていなくて、そしてディフェンスが今一歩なので相手のパンチを食らっちゃう。でも・・打たれ強くてそのまま前進前進なんていう場合、レフェリーさんも困るんですよねそしてそのときのレフェリーの三人の採点で、それぞの好みのタイプまでわかれば、もうリング観戦のプロですね。
選手の技術
僕はボクシングジムの人間ではありませんし、技術的なことはまったく素人ですから、多くを無責任に語ることはできません。でも素人でもわかるボクシング技術についてお話を少々。
4ラウンドしか戦えないC級選手が4勝をあげるとB級に昇格し6回戦の試合が行えます。ノックアウト率はどちらが高いかと言うと、試合ラウンドの多いB級の選手の試合ではないのです。過去20年間の統計では、4回戦では45.1%、6回戦では42.7%、8回戦では50.8%、10回戦では59.6%,12回戦では48.6%というKO率となっています。これを見るとわかることは、当然ラウンド数が増えればKOの確率は上がるわけですから、8,10回戦で多いのはわかります。でも、4回戦が6回戦よりKOの確率多いのは逆ですね。つまり、いわゆる4回戦ボーイから出世していくには防御技術が必須なのです。自分がパンチを繰り出そうと思うときに(出す前ですが)、左腕が下がるようでは相手のパンチが先に来てしまって、カウンターを食らっちゃいます。左腕が下がれば、相手の右からのパンチの目標に簡単になってしまいます。打つ瞬間の選手の防御技術は地味ですが、わかりやすいところです。ましてや、打たれやすいように、顎を前に出すようでは敵前に奉納するようなものです。ですので、顎はいつも低く引いておくようにしていなくてはいけないのです。また、世界タイトルマッチを行うような12回戦あたりでもぐっとKO率が少なくなっているのです。
ここで技術的に重要な要素のフットワークに関して少しい知っていることは、一般に基本的には細かいものが良いと言われています。しかし、それも相手のパンチがきたらまっすぐ下がるようでは、「べた足」の相手に追いかけられ、またパンチを浴びちゃいます。うまく相手の横へ回りこめるのかをみましょう。また、相手のパンチを浴びたとき、下がって続けて浴びるより、相手の懐へ飛び込んで抱きついちゃうのは、一番の緊急避難ですね。寄りかかる場所もあるわけですし。まあ、このような時は、その選手は結構効いちゃったのかなと、ジャッジの人たちは判断しちゃうでしょうが。抱きついたついでに、相手の腕も軽く上から抱えちゃうのです。すると、相手は大きなグローブが邪魔して、打とうにも打てなくなっちゃうのです。これは反則ですからいけませんよね。でも、レフェリーの反対側でしっかりとやる、なかなか達者なボクサーもいますよ。
つぎにパンチの音のことです。「パチーン」と大きな派手な音を出すパンチ、一見すごそうなのですが、これは多くの場合オープンブローと言って、手の平で相手に当たっていること場合が多いです。このようなパンチの音は派手ですが、相手に効く事はありませんので好ましくないパンチです。これは「ビンタ」ですので、このようなパンチを打ちそうな選手はレフェリーは即座に注意をします。後でも述べますが、これが耳に当たると、耳の中(外耳道)がパーンとな中の圧が一瞬に上がり、鼓膜が破れてしまうことがあります。選手は試合後にそちらの耳がボーっとして聞こえにくと訴えるのです。このパンチは試合の上だけでなく、医学上も好ましくないのです。
今度は選手の目のことです。パンチが当てられた瞬間に、打たれた選手が目をつぶるか否かを見ているのも面白いと思います。すべて正しいわけではありませんが、相手のパンチが来たときに目をつぶっているようでは、その瞬間にパンチを打ち返したり(カウンター)、そのパンチをよけることも難しくなるでしょう。ですので、試合でその選手が本当のプロなのかどうかの判断が少しできるかもしれませんね。打たれる瞬間に頭を振って衝撃力を緩和させちゃう高等技術もありますが、これは中南米の選手に多いようで、日本人選手でも一部の選手のみで見られるものです。また、打ち出すときに、バックスイングというか後ろへのほんの一瞬の「ため」が多くの選手に見られるのに反して、いきなりノーワインドアップのようにスパーンと腕がいきなり前へ飛び出す選手がいます。これは、相手としては、とてもタイミングを取りにくく、わかり辛いようです。そのように、腕全体に力が入っているゆっくりした大きなパンチより、さっと瞬時にでて、パチンと当たり、そしてパッと戻るパンチの方が切れ味がいいとようです。実際のパンチの強さというのは、そのスピードも重要な因子でしょうが、パンチが当たる瞬間にグローブ内で握りをグッと強くすることも重要な要因だそうです。これは外から見ていてもわかりませんがね。受けた選手は、そのとたんに「このパンチは・・効く・・」と体感するようです。
効くパンチって?
パンチ力の話をするときに、よく「効くパンチ」というのが話題になります。ボクサーとしてはそれを武器としてもちたいわけですし。そもそも「効く」とは、どういうことなのかということが問題です。1999年に全国的に2000名以上のボクサーに行ったアンケートでは「効く」とは頭がぼーとするとか、意識が薄れるとか、いわゆる脳震盪に準じた症状を述べている選手が90%以上占めていました。つまり「効く」とは、疲れてきてフラフラになるのでなく、パンチによって「頭がポーッとなっちゃう」ことなのです。そのような状態になるのにパンチが何発必要か、つまり「複数」か「一発」かと問うたところ、「一発」との答えが70%余り占めていました。つまり一発のパンチで効いちゃうわけです。よく「パンチの蓄積」、「ダメージの蓄積」と言いますが、これは直接の「効いちゃってダウンしちゃう」と言うことにつながりにくいようです。「蓄積」には別の意義があるようです。
では、その「効く」パンチとはどのようなパンチかと言うと、諸説いろいろありますが、「見えないパンチ」と話を聞きます。見えないパンチは、打たれる側は準備をしてません。つまり、首、顎にグッと力を入れて準備をしてませんから、その不意打ちのようなパンチにより頭がグワーンと回ってしまうと、人間って脳震盪状態になってしまうのです。準備状態といっていいのでしょうか?先ほどのパンチやダメージの蓄積は、それによる注意力の低下と打たれたときの頭を支える首の周りの筋肉の緊張の低下が起きてしまうので、余計に頭が揺すられてしまうでしょう。結果は明らかです。では、具体的なパンチではどのようなのが効くかと言うと、昔から顎へのストレートが一番効くとも言われていました。そしてもうひとつは、ジョーや力石などが派手なアクションとともに繰り出すアッパーカットがかっこ良いし、考えやすいです。しかしアンケートの結果で一番多かったのが、側頭部次に顎へのフック系のパンチとのことでした。数の上ではアッパーカットを浴びる機会は必然的に少ないので、そのパンチ力の評価という面では必ずしも正確ではありませんので、ジョーと力石だけがオゴが弱いわけではありませんので・あしからず。大昔、僕たちの大学の教室で行った実験でも、どうも頭が回転するような打撃は、脳震盪をもたらしやすいようなデーターが出ております。つまり、フック系のパンチが人気投票ナンバーワンの理由は、その辺とかかわりがある可能性が高いと思います。
体力
1ラウンド3分間動き回るって、本当に大変だと思います。そして、力を込めてパンチを打つ仕事、かたや相手のパンチを避ける仕事、いろいろ忙しいです。4回戦ボーイの試合を見ていても、皆さんすぐに感じると思います。なんたって元気なのが1ラウンド。それも最初の2分間くらい。最後は疲れて大変です。でも、日ごろのトレーニングの成果でしょうか、1分間のインターバルでよく頑張って体力を回復するものです。しかし、この充電もやはり2分くらいしかもちません。そんなわけで、若くて、余分な脂もなく、体中筋肉モリモリで鍛えている若者が、4ラウンド戦うとヘトヘトになります。でも、アンケート調査の結果でもあったのですが、ノックダウンするのは、疲労困憊で起きてしまうというのは、ほんのわずかの選手からの回答でした。つまり、どんなに疲れても、ダウンにはつながらないことが多いです。4ラウンドあたりは、お互いにつかれきって、パンチの切れも悪くなって相手を倒すパワーがなくなったりします。
それを思うと、世界タイトルマッチで12ラウンドを戦う選手の体力が信じられません。切れが悪くなると言っても、4回戦の最後のパンチより鋭いものを繰り出す力が残っていることが多いですしね。でも、彼らにも疲れの山場はあるようで、一般的には9,10ラウンドあたりが正念場のようです。11ラウンドの声を聞くと、あとは日ごろのトレーニングとガッツで何とかなるのでしょうね。それにしても、パンチを繰り出すときの瞬発力のみならず、有酸素的な持久力も持ち合わせなくてはいけないわけで、本当に大変だと思います。
アマチュア出身がどうか
高校生あたりからボクシングが部活動として行われているところもあります。依然多くの学校で行われているわけではないですが、上はオリンピックまであるわけです。そのような選手の中で、ときとして相撲ではありませんが学生からプロボクサーを選択する選手がいます。戦績はピンから切りであることは言うまでもありません。アマチュアでポイントを取るのはヒットアンドアウエイが原則ですので、アマ出身者は、そのスタイルになりがちです。ところが、プロの試合ではパンチを打った後に「そのまま中に入り打ち続ける」と言うことがひとつの戦術ですが、それがないのです。セコンドから「なんで、そこで下がるんだ!!」と罵声が飛びます。これは、体で覚えていることなのでなかなか直せないのでしょうね。また、相手からパンチを打たれたなどして離れるときには、一般にまっすぐ後ろに下がる傾向があります。ですので、アマチュアでかなりの成績をひっさげ、なかば鳴り物入りでプロとして登場すると、勿論彼らはC級ボクサーではなくB級ボクサーとして最初から登録されますが、最初の数戦のうちにプロの洗礼を受けることがあります。どのようなタイプにかと言うと、決して上手そうじゃあなくて、フットワークもないのですが、ただ中に入ってきて前進して、ボコボコとパンチを打つ選手です。いわゆるファイタータイプでしょうか?
サウスポーの選手
どのスポーツでもそうですが、左利きの選手は少ないので、一般に対戦競技の中では、左利きは有利と言えましょう。初めてサウスポーと対戦する選手は、技術的な面で教えてもらっても、さぞかし戸惑うことと思います。相手の右のパンチが近くてポンポン来て「アレ」。自分の右を伸ばすと届かない。「アレ?」。作戦上はサウスポーに対しては、左側に回って行くことになっていますが、そうは言っても相手もいることですし・・
ここで、余り注目されていないのですが、当事者は大変なことがあります。それは、選手の足です。普通の選手は左足を前に構えますが、サウスポーは右です。「自分の左と相手の右・・」。ですので、ちょっとしたタイミングで相手の足を踏んじゃうことがあります。すると、不幸にも踏まれた側の選手は足元を抑えられて、転んだり危ない目に会うことがあります。ちょっと注意してみてください。運命の分かれ道のようなこともあるのです。