音楽アンケートのススメ その2  
〜「一人が100枚買うCD」よりも「100人が1枚ずつ買うCD」を目指して〜 

最近の音楽マーケットについて感じること

 私のサイトは、基本的に発売前のCDの情報(ただし、情報解禁前のものは絶対に書きません。)とか、発売後の
作品でも、「業界の内側から見たらこうでした〜」みたいな内容とか、はたまた一部のアーティストへの偏愛っぷり(笑)を
延々書いたものとか、とにかくある意味奇特な内容ばかりつらつら書いているにもかかわらず、一般的な音楽ファンに
大人気のブログ『ヒット曲が世界を変える』からリンクいただいていたことで(伊藤さん、いつも有難うございます!)、
そちらから飛んでこられる方が日常的に多くなっていました。
(ただし、そのサイトは07年5月に閉鎖なさいました。以下、06年8月現在の文章とお読み替え下さい。))

 そこで、来てもらっているのに、うちのサイトったらヒットチャートとあまりにもリンクしない内容が多くて申し訳ないので、
今回は、『ヒット世界変』(←勝手に略します(笑))から当サイトに最もアクセスの多かった私のページ
「音楽アンケートのススメ」で綴ったマーケッターとしての立場で、私が日頃感じていることを書いてみたいと思います。


 まず、最近音楽マーケットを俯瞰していて、強く感じた不満をつらつらと挙げてみると・・・

☆アニメ・タイアップが外れた次の作品こそ本質が分かる作品なのに、現実はアニメ曲しか興味のない人が多数

・・・最近の、高橋瞳とかSunSet Swishとかアニメ・タイアップが外れた後で成長ぶりがはっきりしてるのに、
いずれもTOP50圏外。Mステなんて「今後最も期待される新人」とか紹介したじゃん!
期待すると言うのなら、タイアップが外れてアーティスト自身にも興味を持ってよ、と私は思います。

☆『通信・放送の在り方に関する懇談会』での「NHK-FMは他があるからもう御役御免」的な発表

・・・あなた達、NHK-FMのリスナー層、事前に調べた??もしくは、放送を実際に聞いてみたことあるの??
クラシック、落語、歌謡曲、ブレイク前のロックなど、NHK-FMでしかかからないものが山ほどあるのに、
「もう役目は終わった」って・・・もう、芸人のまちゃまちゃに「はぁ???」って大声で言って欲しいほど。(怒笑)
これだから、役人や学者は「何も見えてない」って言われるし、私のような専門職まで十把ひとからげにされて、
馬鹿にされかねないのです。もうはた迷惑もいいとこ。

☆シングル曲以外、もっと言えば「数字上のヒット曲」しか聴こうとしない人が、以前より増えている?

・・・これは、アンケートやグループインタビューの結果から感じていることなんですが・・・。
シングルはあくまでアーティストへの入り口で、その扉の内側にある母体となるアルバム曲にこそアーティストの個性が
詰まっている、ということをわかって欲しいのに、以前に比べてシングルだけで判断しようという人が随分と増えているように
仕事で分析を進めるうちに肌で感じています。つまり、“分かりやすい情報”だけが氾濫しやすくなっているのかも?
ブログやSNSで、どんどん情報を取り込んで、どんどん情報を発信する為には、そのくらいの“分かりやすさ”や
“理解の深さ”が必要なのかな?それとも、メディアが「分かりやすい情報」ばかりを発信しすぎているせい?
(私、最近Yahoo!のトップページで例えば「拉致問題」や「自然災害」のような国民的重大ニュースと「食品の変な食べ方」の
ようなお笑いネタが同じ所に並べられてるのが非常に気になるんですが・・・。時には「数」よりも「質」を重視したメディアの
作り方も必要だと感じます。)


などなど、自分一人の力ではどうにもならないと分かっていても、なんとかならないかなぁ・・と日々想いをめぐらせています。
まぁ、そういう想いや関西人特有の(笑)反骨精神があるからこそ、あれこれと仕事をいただけているのだと思いますし、
またプライベートでもこんな些細なサイトなのにAmazonリンクでかなり売れるCDが通常のお店とは異なるCDばかりだったり、
音楽ファンの方々から「推薦されていた○○を買いました!」というメールをいただいたりと、日々思い悩みながらも
幸せに過ごさせていただいております。


 それでもやはり、近年で一番気になることは

☆1枚を購入しても完結しない多種類CDは、多くの人が望んでいない

にもかかわらず、この“単数未完結系多種類CD”(長っ!)が年々増えているという事実です。
ここで、私が「多種類CD」と言っているのは、あるタイトルのCDが写真集違い、映像特典違い、収録曲違いなどで何種類もの
異なる形態で発売されるものを指します。以下、これについてアンケート分析などで日頃お客様の意見を取りまとめている
私の立場から述べたいと思います。

※最初にことわっておきますが、私は多種類発売をするアーティストの音楽性を否定している訳ではありません
以下、少々ややこしいことを書いておりますが、是非とも善良な解釈をお願いいたします〜♪


「一人が100枚買ったCD」ではなく、
「100人が1枚ずつ買ったCD」をヒット曲と考えるべし

 まず、私は「多種類CD」のすべてを否定している訳ではありません。
むしろ、多種類での発売は、音楽ファンのニーズに応えたものが発端であったと考えています。
これは、CDやLIVEでのアンケートによって音楽ファンの方々の意見が届いていることも大きいと、私は感じています。

 例えば、最近の「DVDつきCD」や「初回のみCDエキストラ収録」については、数年前からファンの方の要望として
「せっかくお金を出して買っているのだし、映像特典をつけて欲しいです」
というご意見が出てきましたし、シングル曲にプロモーション映像があるのが当たり前となっている昨今では、
アーティスト側の意図するものをよりダイレクトに伝えるのに音楽×映像の方が効果が大きいことも分かります。

 また、何組かのビジュアル系アーティストでは、楽曲、歌声、ジャケットなどの購入者の満足度を数量化したデータにて
「ジャケット」のポイントが最も敏感に反応するのを見たことがありますし、やはりそういった限られたアーティストでは
ジャケットって非常に大事
で、その為に別ジャケットを用意したり、店舗ごとの異なるデザインのトレカで対応する
というのもファンのニーズに応える施策だと納得しています。

 さらに、初回盤のみ豪華装丁のケースやブックレットだったり、LIVEが先行予約できたり、ボーナストラック入りだったり
というのも、(特に、アルバムではレンタルが開始される発売3週目までに)どうにか買ってもらう為の施策として
メーカー側も必死で、ゴージャスな仕様が、大量にプレスできコストを下げられる初回ロットのみに限られる
(逆に言えば追加出荷分のちまちましたプレス数で実施するには余りにコスト高)というのもよく分かるし、
そのプレミア感に満足なファンも多数おられます。

 つまり、多種類発売CDの大半は、元々は作り手と音楽ファンがより身近になれる手段として、
双方が納得できる方向でつくられてきた
し、今でもこの「ファン想いのCD」は多数あるのです。

 それが、ここへきて
・「初回盤のみ映像特典収録」なのに対し、「通常盤はボーナストラック入り」と特典が分散するタイプ
・「DVD付は、ある写真集つき」「CD付は、それとは別の写真集つき」とするタイプ
・「DVD付Aは楽曲Aのプロモーションビデオ(PV)のみ収録」「DVD付Bは楽曲BのPVのみ収録」
として映像内容を2種類のCDに分割するタイプ
 
という「1枚を購入しても、その作品性を理解するのに完結しない作品」が異様に増えていて、
これでは従来からそのアーティストが大好きだったファンは2種類以上買うのが当たり前になってしまいます。

 しかし、これは決してファンのニーズに応えたものではなく、この部分に限って言えば、
私は単なるメーカーや事務所側のエゴ
だと感じています。
(まぁ、私が言うまでもなく皆さんもお感じだと思いますが(苦笑))

 なぜなら、特典付きというのはコアなファンの多くが買いたいと思いますし、それが複数の種類にまたがっていれば
どちらも買いたいに決まっているからです。例えば、元々「写真集つき」が欲しい人が、2種類のうち一方の写真集しか
欲しくない、なんてこと有り得ないじゃないですか。出来るなら、2種類をセットにした超豪華初回盤だけが欲しいはずで
2枚も同じCD(あるいはメイントラックが全く同一のCD)なんか要りません。

 そして何より私がこのように思うのは、仕事でこれまで数十万人の音楽ファンの方のご意見に目耳を傾けているのに

「2種類別々のCDを発売してください。2種類とも買いますので!」  のようなご要望や
「写真集Aと写真集BのCDを発売してくれて有難うございます。」  のような感謝の言葉
といった
肯定的なご意見を一度もみたことがないからです。
つまり、この類のCDを多種類買ったとしても、その人たちの大半は喜んでお金を出しているのではなく渋々買っている
と推測されます。この「渋々」というのは、「今月は、お金がキツいけど、1枚だけ買っておくか」という満足感の伴う「渋々」
とは一味もふた味も違う、ちょっと後味の悪い「渋々」ではないかと思います。

 それでもファンの方たちは、そのアーティストへの愛情から“チャートに貢献できたから”という物凄く純粋な
気持ちで購入され、週間チャート1位になって自分の“渋々感”は報われた、と感じておられる方も多いかもしれません。
実際に、この「単数未完結系多種類CD」(強引に命名)の多くはチャート1位、チャートTOP10入りなどの
強行策として発売されていることもあるでしょう。しかし、そうやって1位になった楽曲のうちいくつかは、(購入枚数)で
見たら確かに1位かもしれないけど、(購入人数)で見たら恐らく1位でなかっただろう
、というものも多々あります。
それは、オリコン以外のチャート(例えばサウンドスキャンやプラネットなど)を見れば、初回盤が売り切れる前から、
通常盤がじゃかじゃか売れている、つまりは複数買いが発生しているという様子からも容易に推測できます。
つまり、ヒット商品であっても、ヒット曲ではない。そして、ヒットしてしない楽曲が“オリコン記録”として大きく報道されて
しまい(もちろん、これがメーカーや事務所側の狙いですから「してやったり」という感じなのですが)、そのことで
ただでさえ世代間のギャップにより大衆歌が減りつつあるのにますますチャートからヒット曲が見えなくなってしまうのです。

※それにしても、オリコンさんも 明らかに複数買いでセールスが伸びたものについては、単に数字が伸びた事実しか
発表せずに、複数種類あったことにはひたすら触れない記事が多いなぁって思います。タイアップ効果や
TV出演効果で伸びたときはきちんとその要因を言及なさるのに、複数種類で伸びたときは原因についてノーコメントなんて。
ま、まさか「複数種類で発売した結果、セールスが伸びた」と書くと、何か都合が悪いことがあるのでしょうか。(笑)
チャートで複数のCDを合算していること自体、「ヒット商品=ヒット曲」論を肯定しているのだから、もっと堂々と
未完結系多種類CDはオリコン・チャートに強い!メディアでもバンバン宣伝できてオススメっ!
っておっしゃればいいのにって私は思いますね。それも一つの考え方なんだし。


 そんな世の中だとしても、やっぱり、私は一マーケッターとして、
5枚のCDを売り伸ばすのに、一人の方に同じ楽曲の入ったものを5枚買ってもらうのではなく、
5人の方に1枚ずつ喜んで買っていただく方策を考えたい


それこそが、お客様のニーズを把握して、その作品を聞いてくださるお客様に届けるという
真の意味での音楽マーケティングだと思うのです。(一人の人に無理矢理何枚も買ってもらう戦略を
“マーケティング”と呼んでほしくはありません。) たとえ、今後異業種コラボがどんどん進んだとしても
音楽ゆえに人の心を尊重したマーケティングが重要だと信じています。(微笑)

 
おわりに
 
 余談になりますが、私は、1968年生まれなので、1980年代の音楽にはドップリ浸かってきました。おそらく、そらで歌える
楽曲の大半は80年代のものです。けれども時に、年輩の方たちや、はたまた自分より若い20代くらいの方から

「80年代って、音楽的に最悪でしたよね。」

なんて言われることがあり、自分の人生−音楽ゆえに進路を大きく変え、それで生計を立てている人生−を真っ向から
否定されたようで、正直嫌な気持ちになります。(泣) それでも、やんわりとその理由を問うてみると多くの方が

「だって、おニャン子が1位ばっかり取ってたんでしょ。そんな曲しか流行ってないんだから終ってるよ。」

なんてこれまた全てを見たかのように私を諭すのです。

確かに1位だけざっくりと見たらそう見えるかもしれないけど、その年には今でも多くの人が記憶している
「シーズン・イン・ザ・サン」も「Ban BAN Ban」も「君は1000%」も「ダンシング・ヒーロー」(これは年末から)も流行っていたし、
実際に『ザ・ベストテン』の年間ベストテンに入っていた。だけども、どれもがオリコン1位「記録」に載っていないことで
あんたがこれらの曲がヒットしたことをきちんと知らんだけやん!!

・・なーんて言いたくもなるけど、いちいち説明が長くなるのは酒の席などでは御法度だし、そうやって人々の本音を聞いて
どうやって誤解のないレポートや文章を世に出せるか日々クリアしていくのが仕事だし、と思って
悔しさでコブシを握り締めながらも(笑)笑顔で聞き上手に徹しております。

 同様に、昨今のチャートの 「1位記録」と「ヒットしている感覚」のズレが、後々に「間違った時代の象徴」として語られ、
その時代を多感に生きた人たちを傷つけてしまうのかな、なんて時々考えてしまいます。

 そんな世の中ではなく、やはり出来るだけ多くの人がCDなら1枚ずつ、ダウンロードなら1曲ずつ、その時代を
生きていた自分を重ねながら愛聴して下さる世の中になって欲しい。その為には、前回も申し上げましたが、やはり

 お客様が前向きな改善意見を述べられて、それを作り手が敬虔な姿勢で受け止める。

という大前提に尽きますね〜♪その想いを作り手の皆さんも感じとって欲しいなと思います。どうせ売れるなら、
愛されながら売れる作品の方が良いですよね!

2006年8月11日  臼井 孝

関連ページ:「音楽アンケートのススメ〜アンケートに答えればいいことづくめ!〜」

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