第08回(1997年07月)

一人の命があり、複数の命がある。
一つのグループがいて、複数のグループが生まれる。
複数のグループの存在が、国を作る。
国家が、命よりも優先される時代は終わった。
国があり、命が存在する時代は去った。

今、自分の命の中に取り戻さねばならないものがある。
のうのうと生きてきたこの世の中から
自分に取り戻さねばならないものがある。
不信感漂う家、大人優先の学校、支配される宗教、
住民を無視した基地、自然を共有しない社会。
それらは、いったい誰のもの?!
今、何もかもが形骸化したこの社会に疑問を持たねば、
自分が崩れていく不安。

輝く自然、信じ合う家庭、包み込む愛、子供の立場に立った教育。
僕たちが欲しいものは何?!
もう一度、自問自答してみる。

国があり、その中に集団があり、個人があるのではない。
自分が作るもの、それが社会。
泣きたいときに泣き、喜びたいときに喜ぶ。
そんな心洗われるような映画を。

 

奇跡の海(1996)

監督/ラース・フォン・トリアー

キャスト/エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスゲールド、カトリン・カートリッジ

全編が8つの章から成るこのストーリーの章の合間に、象徴的な風景と共に、音楽が流れます。そのシーンに違和感を感じなくなったとき、涙があふれ出てしまう人もいるでしょう。

監督自身が「ア・シンプル・ラブ・ストーリー」と表現するこの映画には、愛と善と苦悩がつまっています。閉塞的な社会だからこそ、充満する矛盾や欺瞞。教会を中心としたスコットランドの田舎の社会に、無力的な神を感じてしまうかもしれません。まず教会があり、そして一人の命を存在させる社会に、無宗教的な社会に生きる私たちは、疑問を抱いてしまいます。けれど、そんな社会を越えて、ベスの愛は存在します。一人の男を愛した無垢なベスの愛に、教会
の鐘は鳴り響いています。

☆☆☆

 

子供たちの王様(1987)

監督/チェン・カイコー

キャスト/シエ・ユアン、ヤン・シュエウェン、ラー・カン 

農村の風景の中に差し込まれる柔らかな光と、鮮やかな色彩の中に、一つの学校があります。そこには、ただ字を覚えることが教育であるかのような社会があります。社会があり、そこに生まれ育つのか、生きることから、考え、社会を作っていくのか。一人の人間として、考えさせられます。

学校とは、地域社会とは、教育とは。中国の農村社会から、数々の疑問をぶつけられます。今の日本社会の中で、どれだけの子供たちが、いきいきと生きていられるのでしょう。どれだけの大人が、いきいきと生きていられるのでしょう。自分の周りにある社会や、学校や、街を愛していられるでしょうか。

自ら考え、自ら学び、自分や社会を表現していく喜びをもう一度見つめ直したくなります。

☆☆☆☆

 

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