第37回 (2002年03月)

マフラーを外しながら、電車に駆け込んだ。
車両が揺らるなか、息を整える。
何気なく辺りを見渡すと、
隣の会社員風の人が読んでるスポーツ新聞に目を奪われた。
えっ、あのヒトがそんなことを!

こたつに寝転がりながら、冬のかすかな日光を浴びていた。
外では、立ち話しているおばちゃん達の声がする。
「奥さん、あそこのあのヒト、そうなのよっ」
...、えっ、なんでそんなことまで知ってんの?

朝、寝ぼけながら、テレビのスイッチを入れた。
快適な気持ちの目覚めの前に、朝からどんどんと芸能情報が流されていた。
「あのタレントは、こういう生活を送っていたのかあ」
いつの間にか、頭にインプットされている。

生きてゆく上で知る必要もない情報、
しかし耳にするとなにげに気になってしまい、
いつの間にか心の中に残されてしまう。
気がつけば、他人の生活は、
いつの間にか自分の生活や心の中にまで入り込んでいる。
憂うべきは、社会か、他人か、自分か...。

自分が知っている他人の生活、他人をのぞき見る、そんな映画を。

 

マルコビッチの穴(1999)

監督/スパイク・ジョーンズ

キャスト/ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、カスリン・キーナー

クレイグは、人形を巧みに動かす才能を持っていますが、自分の人生は、簡単には操ることができません。ある日、求人広告により、7階と8階の間にある会社を訪れます。働きながら、偶然見つけた奇妙な扉は、俳優のマルコビッチの脳につながる穴だったのですが...。

一つの穴が、人間の好奇心を煽り、運命を変えてゆきます。他人の意識下に自分の意識が入り込み、精神と肉体とは、いったい何なのだろうと疑問を抱かせます。

他人の意識を操り、もし他人になり移ることができたとしても、私たちは、自分を生きえた証となるのでしょうか?生きていることは、肉体なのでしょうか?意識なのでしょうか?

☆☆☆☆ 

 

トゥルーマン・ショウ(1998)

監督/ピーター・ウィアー

キャスト/ジム・キャリー、エド・ハリス、ローラ・リニー

自分だけが知らない、超有名な主人公トゥルーマン。彼には内緒で、生まれたときから、誰もがトゥルーマンの生活を知っています。見ている風景や、人々、周りの親、妻、親友までもが、全て自分のために動いているドラマの中だったとしたら...。

他人と自分の関わりの中で、ナゾが解けてゆくうちに、私たちの心に、罪悪感と後悔が侵食してゆきます。私たちが知らなくて良いこと、操作してはならないもの、私たちの生活を逆説的に語っています。

他人の生活をのぞき見ることは、好奇心を満たし、自分を振り返ったりすることもできます。けれど、興味本位で立ち入ってはならない領域も確実に存在するのです。

☆☆☆

 

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