1999年06月08日号

勝手にタケちゃん通信 勝手にたけちゃん通信

「大人社会とその周辺−携帯電話」編

誕生日なので、近所のおしゃれな(もう死語か?)焼き鳥店で
食事を楽しんでいた。
そのとき、20歳前後の男の子の携帯が鳴った。
彼は、番号非通知の電話に出たくないらしく、電話の音を鳴ら
しっぱなしにした。途中でポケットに突っ込み、12コール鳴
った後、電話は切れた。
その時である。隣の席に座っていた35歳前後の女性が、
「うるせーんだよ」と怒鳴り始めた。彼の方を向いていたわけ
ではないが、明らかに彼に向けられた言葉であった。
「まったく、なんだと思ってんのよ」女性の言葉は続く。
そのとき、続けて、また電話が鳴った。彼は店の外に出た。

携帯の鳴り主と同席していた仲間は、彼女に対して謝っていた
が、彼女は、それさえもシカトし続けていた。まだ言い足りな
いらしく、さらに暴言は続く。

電話が終わり、店に戻ってきた彼は、「どうしてあんなこと言
われなきゃいけないんだ」と、次第にエスカレートしていった。
「だから、ババアは、いやなんだ」
「まったく、最近の若い子は、これだから」
お互いに、自分たちの仲間に向けて、相手の悪口を聞こえるよ
うに言い始める。
「渋谷だったら殺されれるぜ、あのババアは」
「だいたい、何様よ。バカじゃないの」

僕は、それでも電話が鳴ってうるさかったのは事実であるから、
彼が謝罪することが優先であるだろうと思う。
しかし一度仲間が謝罪した後も、20歳ぐらいの男の子に対しての
彼女のケンカを売る暴言は、やはりみんなの心を混乱させる。

悪口の言い合いに歯止めを打つため、電話の鳴り主たちは、早
々と店を出た。その仲間達は、帰り際にも、彼女たちの座るテ
ーブルに行き、謝った。暴言の女性はトイレに行った後、席に戻っ
てきて、言い放つ。
「帰って、当然よね!」

僕たちの社会は、なぜ、このような社会になってしまったのだ
ろう。

この事件!には、誰もが「食事どころでは、携帯を切る、また
はバイブにするのがマナー」と思うだろう。
しかし、僕は、そんな単純なことだとは思わない。

何かが起こらないように予防することは、たしかに大切だが、
誰もが過ちは、犯してしまう。それは、人間社会の当たりまえ
の姿である。
何かが起こってしまったときに、いかに人を傷つけないように
することが、僕たちの社会に欠けてきているモノでは、ないの
だろうか。そして、何かが起こってしまったときに、それを僕
たちが受け容れていく力が、乏しくなっているのではないだろ
うか。

それにしても、どうしてあの女性は、あれほどまでに怒ったの
だろう。どうして、あれほどまでに、ケンカを売っていったのだ
ろう。彼女は、とても携帯にイヤな思いをしているのかもしれ
ない。
携帯の主は、どうして、怒鳴られたときに、心広く、相手の言
葉にうなずけなかったのだろうか。いつも大人社会に押しつぶ
されているような閉塞感が彼に渦巻いていたのであろうか。  

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